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【1章完結】天使の國  作者: 遠梶満雪
1章 無限焼却修整都市オピドゥム・アケディアエ
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15節 絶叫と熱情

 ただ、美しい場所を作ろうと思った。


 ()が望んだ通りに、二人で夢見た通りに、緑豊かで、花が咲き乱れる、平和な、平和な所を。


 彼の笑顔(・・)が見たかったから。


 残念なことに彼の存命中にそれを終えることは出来なかったが、幾刧(いくごう)の時間を掛けてでも叶えることが、天寿のない私に出来る彼への手向けであると結論づけた。


 例え私が居なくなっても、永劫絶えぬ命の楽園を。

 私という存在がなくとも、循環する美しい箱庭を。


 けれど、理解不能な怠惰の化け物たちの所為で、手伝ってくれる人間たちが苦しんでいる。その度に不要なものを焼いて、綺麗なものだけを残した筈なのに、気がつくとまた蔓延(はびこ)っている。


 気味が悪かった。


 それを何度も何度も繰り返して、あれほど望んだ彼の顔もよく思い出せなくなってきた。


 もっともっと繰り返して、どこが結末(ゴール)なのかも忘れてしまった。


 私は、何の為にここにいるのかも分からなくなってきて、それで。


 ああ、あれ、どうして。


 ────どうして(ヒト)を焼いている?


 彼の、祈りは────────


──────────────────────


 不完全な炎が舞う。


 転がるように避けたアルカに差し向けられた追撃を、飛び込んできたラビが跳ね除ける。


『アルカ、策はある?』

「よく分かんないけど分かる(・・・)よ! 彼の記憶の欠片を集めるの、この大地から!」


 アルカの瞳には、焔よりも輝く煌めきが映っている。それこそは大地の記憶。長い年月をかけて結晶化した、誰かの思い出の断片である。


「でも、少し時間がかかるかも! ……ラビ、お願い出来る?」

『:-)』


 熱波を打ち払い、ラビは微笑む。

 それからすぐさま旗を握り直し、テンペランティウスの方へ踏み込んだ。


 彼は声を荒らげて迎え撃つ。


「貴様にも、あいつらにも、誰にも、誰にも!!! 私の、彼の夢を否定させるものか……!!!! 邪魔をするならば、焼き尽くすだけだ……っ!」

『あなたの目指した光は確かに美しい。それでも、その航路(やりかた)は選ばれるべきでなかった』


 灰の向こうからラビが至近距離に飛び込む。剣と旗の斬り合いが続き、神経張り詰める展開は止まらない。


「私が間違っていることなど知っている。いや、不要なものを削ぎ落として何が悪い! それらを養う資源を進歩に回すことが、最大の幸福を生む! …………違う、私は、悲しくて……?」


 極めて混乱しているにも拘わらず、彼の戦闘力に陰りはない。

 テンペランティウスの剣先がラビの頬を掠め、僅かにヒビが入る。一度引いたラビが片手で旗を回した。


『支援要請:援護射撃』


 途端、天を裂き、雲を掻き分け、月光の矢が幾筋も降り掛かる。ラビ自身やアルカさえも巻き込みかねない超高威力の殲滅攻撃だ。だが、それが地上に届くことはない。


 全ての光が炎に呑まれ、集約されていたエネルギーが霧散する。


 矢を上空で焼き切ったテンペランティウスが意識をラビに戻す。しかし、姿がない。咄嗟の判断で背後を燃やすが、既にラビは充分に近付いている。


『アプリケーション:賢明なる一閃』


 これまでの戦いの中で、ラビはテンペランティウスの弱点に気が付いていた。


 彼の炎とその温度は脅威的だが、それ故に火力を出すには相手と距離を取る必要がある。さもなければ自分をも焼いてしまうからだ。


 だから、この通り。

 ぴたりと張り付いてしまえば、彼は炎が出せない。

 ──────筈だった。


 テンペランティウスの胸部を旗の柄が背後から貫く。


 自身の胸、甲冑の隙間から飛び出たそれを、彼は躊躇うことなく掴み、引いた(・・・)


『!』


 予想外の行動に体勢を崩したラビが前によろける。


「私に、敗北は許されない…………!」


 己の身体を焦がしながら。

 テンペランティウスは牙を剥く。


──────────────────────


 自らも巻き込んだ超高温の燃焼。

 もし、これが上手く行っていたなら、生き残っていたのはテンペランティウスの方だっただろう。


 彼の敗因は二つ。

 一つは、「アルカを気にし過ぎたこと」。無意識下で彼女に被害を及ぼさないようにと加減した結果、介入の余地を生んでしまった。


 もう一つは、「アルカを気にしなさ過ぎたこと」。あと僅かにでも、ラビに割いていた意識を彼女へ向けていれば、その些細な行動にも反応出来た。


 よって──────。


「…………………………!、?」


 ガラスの砕ける音がした。

 眩い光が(ほとばし)る。


 ほんの一瞬、テンペランティウスに見えたのは、こちらに何かを投げたらしいアルカの姿だった。


 異質な炎が纏わりつく。

 白く、弾ける、覚えのない熱。


 アルカが投げたのは、城下街でラビに買ってもらった、銀色の砂が入った小瓶だった。


 鉱物や結晶の中には水や空気、火気に反応して激しい燃焼反応を起こすものがある。それらを混合することで、より大きな反応を得ることも出来る。この小瓶の中身もその手のものだろう、とアルカは当たりを付けていた。


 実際、突然火に掛けられ砕けた小瓶から溢れた砂は、たちまち燃え上がり、融けてテンペランティウスに降り掛かった。その温度は数千度にも達しよう。


「ぐ、ぁ、があっ………………!」


 流石のテンペランティウスも崩折れる。

 身体の修復に注力する為か、辺り一帯の炎が消えた。


『決着の時だ、人類の守護者』


 旗を引き抜き、焦げ付いた頬を一つ擦ってラビが立つ。


 テンペランティウスはぼろぼろになった羽を威嚇するように拡げ、鼻血を拭って身を起こす。


「まだだ、まだ、まだ…………!」


 本当は限界だった。過剰なエネルギー循環は全身を蝕みつつあり、理性などとうに燃え尽きた。ただ、身体を支配する衝動が彼を立ち上がらせようとしていた。


 ヒビの入った(しんぞう)を軋ませるテンペランティウスへ、ランタンが柔らかな光と共に差し出された。見上げると、アルカがそこにいる。美しい少女は肩で息をしながら、へにゃりと笑った。


「やっと、見つけた。あなたの思い出」


 今、還すから、と少女は傷付いた天使を抱き締めた。

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