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2.カードゲーマーは意識する②

難産でした…

だって、二人ともすぐヘタれるんだもん…

ヘタれてるふたりをお楽しみください。

 次の日。僕は昨日のことを考えていた。


「僕の勘違いなのか?」


 僕があまりにも童貞すぎて、女の子に笑いかけられただけで意識してしまっている、という可能性もある。というか、僕はその可能性を最も有力視している。童貞というのは、少し意識しているのを恋愛感情と誤認して、突撃した結果撃墜されてしまうものだ。(ド偏見)まあ、その真偽を確認する方法は僕には一切ないんだけど。そうだよ、他の女子とのつながりなんてないよ!じゃなかったら僕の連絡先に家族以外で初めて加わった女子が石山な訳ないだろ!


「これは本当に石山に対して恋愛感情を抱いているのか、それとも童貞の気持ち悪いワンチャン狙いなのか…」


 気持ち悪いな、僕。女の子とちょっと会話したからって舞い上がりすぎだ。平常心…平常心…。


「いや、無理だろ。なんだ?あれ。今どきのJKは誰にでもあんな風にしてくるのか?」


 まあ、今どきのJKと石山は関係ないだろう。石山、明らかに高校デビューみたいな印象だしな。無理やり今どきの女子っぽく装ってる感じ。


「ってなると、やっぱり…」


 誘ってるのかな。こんな、何のとりえもないような男を。金だって、持ってないし。


「デッキ調整手伝ってるご褒美とか?」


 それだったら蔵田だってそうなのにな。…ふと気になって、蔵田とのトークを開く。昨日からずっと未読無視してたな。


『なんかいきなり煽られて誠に遺憾なんだが。何の真似だ?』


 今さっき、そんなメッセージが来ていた。大概あいつもずぼらだな。


『石山からの誘い、日和って断ったんじゃないのか?』

『誘われてないが』

『は?でも昨日そんなこと言ってたけど…』

『本当に?俺を馬鹿にすることに必死過ぎて脳内補完してないか?』


 してない!と自信を持っては言いきれない。あの時、僕は途中で理解した気になって話を切ってしまったから。あれ、蔵田が日和ったと思ってたけど本当はなにか理由があって誘ってないとかなのかな?


『なんかスマン』

『謝られる方がムカつく。別にいいよ。』


 多分蔵田が失礼なことを言ったから誘ってなかったんだろうな。さて、今日も学校に行くか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その日の昼休み。スマホで自称本格バトルeスポーツをしていると、画面上からヒュポっと通知が現れた。


『今日もお願いできる?』


 石山からだった。今日は、あんまり石山と会いたくない…。昨日の今日でまだ整理がついていない。今日会ったら、童貞特有の勘違いで空振り確定の告白をしてしまう可能性だってある。

 とはいえ、そんな事情を相手が知っているわけもない。理由もなしに断っては、よくない印象を与えてしまうだろう。なにか適当な理由…いや、そもそも誘いを断ること自体割と失礼か?僕が我慢すればいい話だ。僕はそう決心して、返信をすることにした。


『うん、大丈夫。』


 今日は家に親もいないことだし、特に確認をする必要はない。僕さえ気をしっかり持てば…。うん。僕さえ…な。


●●●●●●●●●●


 …。高校の女子グループの仲間と談笑しながら、絶えずスマホを確認する。周りの友達も、スマホに目を落としながら話してるし、きっと普通よね。…別にデートっていう体で誘ってるわけでもないのに、断られるんじゃないかとドキドキしている。大会の調整をするだけだからそんなことはないと思うけど…。思うけど!!!つい心配になってしまう。ほら、別にいやってわけじゃなくても童貞ってすぐヘタれるし!かく言う私だって、こんな風に友達とまともに話せるようになったのも高校に上がってからだ。

 蔵田くんには、見抜かれてたみたいだけど。冨里くんにも見抜かれてたのかな?見抜かれてるんだろうな。そう考えると恥ずかしいな。でも、冨里くんだけにはバレても…ってそういうことではなくて!そもそも蔵田君にもバレてるわけだし。などと脳内で内なる自分と会話していると、ずっと開いていた画面に動きがあった。冨里くんからの返信だ。断られることはなくて、ほっと一息ついた。


「まゆ~、何してるの?」

「ひゃぅっ!?」

「『ひゃぅっ!?』だって!かーわーいいー!なに?エッチなサイトでも見てた?」

「そんな!思春期男子じゃあるまいし!」


 友達としゃべってるのももちろん楽しいんだけど、やっぱり、冨里くんとカードゲームをしているときのほうが楽しい、と思ってしまう私は、このグループに向いていないんだろうか?


●●●●●●●●●●


 そうして、僕の心の準備はつかないまま、僕たちは例のごとくカードショップにやってきていた。


「リソース温存が雑じゃないかな?ほら、このカードとか、日本相手だとこのターンに使っちゃわないと、後々いつ吐くかわからないでしょ?」

「あー…なるほど!だから日本に対する勝率だけ極端に低いのか!納得した!」

「…ごめん。ちょっと言い方きつくなっちゃったね。嫌じゃない?」


 蔵田以外の人とまともに話すようなことがなくて、しかも蔵田とは割と雑に口を利いていたから、言いたいことが口をついて出てきてしまう。これは、童貞は関係ない。僕の性格の問題。


「いや、ぜんぜん。むしろ小気味よいかんじ。割とズバズバ言ってくれるの助かってるよ?ほら、やっぱ大会出るってなると、プレイングとかも矯正していかなきゃいけない部分もあるじゃん?だから、うまい人に教えてもらえるの結構助かってる。」

「うまいって言われると、結構照れるな。でも、そうでもないよ?大会シーンで活躍してるプレイヤーなんかに比べたら全然。大会に出るってことは、そのくらいのレベルを目指してるんでしょ?」

「いやいや、もちろんそのレベルを目指してるけど…というか、本当にうまいと思ってるよ?もし冨里くんの言ってることが本当だとしても、私まだ下手だから上位勢のプレイと冨里くん、蔵田くんのプレイの見分け、イマイチつかないんだよね。」

「なるほど…やっぱ、その程度の見分けはつくぐらいまで教え込んだ方がいいかな。…よし。」


 そういうと、僕はデッキをしまった。


「えっ、ちょっ、何して…」


 困惑する石山を無視して、僕はわざと真面目な顔をして、こう言い放った。


「まずは理論の勉強だ」


●●●●●●●●●●


 デッキをしまわされ、ノートを取り出させられる私。うん、わかる。わかるのよ?カードゲームの上達のためには、理論の勉強が必要よね?言いたいことはすごくわかるのよ?単純に対戦中の真剣な顔が見たいっていうだけで対戦を続けてる私とは違うのだ。でも、まあそういう理由で、私は少し不機嫌なのだった。


「…やっぱ迷惑?感覚派でつかめちゃう人もいて、石山さんがそのタイプなのかもしれないけど。」

「ううん!全然そんなことはないの!私はどちらかというとちゃんと理論を理解しないとそういうのダメなタイプだから。でもただ…」

「ただ…何?」


 あ、やらかしたー…。そんなこと正直に言えるわけないじゃない!「実は私はあなたのことが好きで、カードゲームしてる時の真剣な表情に惹かれているから、本当は対戦したいです!」なんて言った日にはこの関係はどんがらがっしゃん、音を立てて崩れ去る。ものすごく気まずい雰囲気を残して。だから…


「いや、しょうもないことだから気にしないで。」

「…ならいいんだけど。でも、ちょっと後味が悪いから、もし嫌じゃなければ話してくれないかな?やっぱゲームだからさ。楽しんでこそだよ。」

「うーん…本当にしょうもなさすぎてちょっと恥ずかしいかも。忘れて!」

「…わかった。」


 少し困ったような苦笑を浮かべながら、彼は言う。恋ってのも困りものね。節操もなく思考が暴走を始める。


「ねぇ。」


 ふと、声をかけてみる。どうやら、理論をしっかりまとめたノートを作っていたらしい冨里くんは、驚いたように顔をあげてみせた。これ、いけるのでは?今こそは暴走してしまえ!私の思考!


「私、冨里くんに、私の専属アドバイザーになってほしいな」


 ちょっと保険かけちゃったなぁ…でも、それを聞いた冨里くんの方は、期待と困惑が綯い交ぜになったような表情で私の方を見ていた。あっ、多分伝わってる。


「…それは、言葉通りの意味?」

「っ…」


 いや、ここでヘタれてるから駄目なんだ。一生進展しないんだ。所詮高校デビューでもできるってとこ見せてやる!


「違う、ごめん。ちょっと照れくさくて…ちゃんと言えなかった。ほんとはね。私と、付き合ってほしいの。」

「…今だって調整に付き合ってるけど?って、こんなボケは必要ないか。」

「ふふっ」


 こんな時でも、調子が変わらないものだから、つい笑いがこぼれてしまう。あっ、違うの!私がしたいのはこういうやり取りじゃないの!もっと、女の余裕ってやつを見せてやりたいの!


「僕も、そういうことについて考えてみたことがあったんだ。つい最近。」

「それって…」


 私のあからさまな誘惑で、ちょっとその気になってしまったということだろうか。…でも、実は冷静になってみたら…いや、何でもネガティブに考えちゃいけない!もしかしたら前向きな返答の前置きかもしれないから!


「でも、まだ答えが出てなくてさ。だから、考えさせてくれないかな?」

「あっ、ヘタれた。」

「うん。ヘタれてる。僕は、今までこういうのに一切無縁だった人間なんだ。でさ、今の感情をちょっと整理してみたんだよ。いや、できてないんだけどさ。」

「私だって、これが初めてだけど?気持ちの整理なんてつかないまま、こういうことに臨んでるけど?」

「うん。だとしたら、石山さんはすごい(・・・)な。きっと、僕とは違う種類の人間なんだ。僕は…」


 それ以降の話はなにも頭に入ってこなかった。なんでだろう?褒められたはずなのに、さっきの「すごい」という言葉から、距離を感じてしまった。もしかして、冨里くん私のこと嫌い?


●●●●●●●●●●


「くそっ…」


 どうして僕は、整理をつけられないんだろう。さっきのやり取りだって、石山を傷つけてしまったのではないだろうか?あのあとの座学、明らかに暗い顔してたしな…。ネットでいろいろと調べてみる。『恋愛感情とは』とか『恋人とは』とか。どれも、それっぽい言葉を並べているようにしか見えなくて、僕の疑問に答えは出ない。ああいう記事を書いてる人は全員色ボケしてるんじゃなかろうか?あんなことをよく恥ずかしげもなくネットに書けるものだ…僕なら黒歴史として、2日後には削除してる。間違いなく。


「わからない…」


 ある小説には、自分のことを好きでいてくれる人のことは意識してしまうものだ、と書いてあった。…あんなにはっきりと態度を示されて、全く意識もしないなんてこと不可能だろう。

 自分の連絡先を確認する。…頼りになりそうなやつは…いない。人生初めての決断なのに、こんなことを一人で決めろってか?

 一人で決めようとなると、やっぱり尻込みしてしまう。一時の感情に、流されてもよいものだろうか?いいのかなぁ?

 ふと、思いついたことがあって動画サイトを開いてみる。30分ほどして、目的は果たされたので、動画サイトを閉じる。…たまにはネットの記事も、役に立つものかもな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 …と、確認はしてみたものの。やっぱり、僕には荷が重い。だってね!?普通に考えてね!?昨日の今日であんな風に突き放すように言ってしまってね!?今日呼び出して「整理がついた」とは言いにくいじゃん!?(神奈川弁)

 今は昼休み。まさか連絡がくるとは思っていないものの、石山とのトークルームを開いていた。手持無沙汰なこともあり、メッセージボックスに適当に文章を打ち込んだり、消したりしていた。打ち込む文章は、もし今日彼女に話をつけるなら!という想定文章ばかり。まあ暇つぶしのためにはちょうどいいな。


『今日もよろしく』


 そんなことをしていると、画面に動きがあった。…まさか断られるとは思ってない文面だな。もちろん、僕の方から断るなんてできるわけがない。僕だってそこまで鬼じゃない。昨日あんな風に接してしまったのに、あちらからコンタクトをとってきてくれたんだ。


『わかった。また今日も駅でいい?』

『うん。よろしく。』


 …これ、チャンスなのでは?僕が声をかけるのを手間取っていたところに、助け舟。この機会、ヘタれて無駄にしないようにしないとな。石山さんが傷ついているかもしれない。ちゃんと態度をはっきりさせておかなければ…


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その後、僕たちは駅で合流し、カードショップへと向かった。すごく気まずい…。普段はこの短い距離をInvadersについて話しながら歩くのだが、今日は全く会話がない。なにか会話…いや、僕から振る方が気を遣わせてしまうかも…。世間よ、これが尻込みする童貞だ。よく目に焼き付けておけ。

 結局、一切の会話なく、カードショップに着き、ノートを開いて勉強会が始まった。…先が思いやられるな。


●●●●●●●●●●


 やっぱ誘わない方がよかったかな?明らかに気まずそうにしている冨里くんを見て私はそう思った。もちろん普通にカードゲームをプレイする上で必要な考え方を教えてくれてはいる。でも、私の方から質問のために話しかけたりすると、肩を跳ねさせて驚くのだ。…嫌では、なさそうなのよね…。じゃあやっぱり、私のことが嫌いなんじゃなくて、シンプルに話しづらいだけ?あと、シンプルに思ったことを口に出しただけ?だとしたら恥ずかしい!しょうもない勘違いで、私は落ち込んでたことになっちゃう…。

 でも、実際私はそういう人間だ。勝手に早合点して、勝手に落ち込む。でも、本当に勘違いかどうか確かめるには、本人に聞かなきゃ行けないのよね…。なにこれ、超恥ずかしい!!自ら辱めを受けろと!?

 …そんな風に考えながら言われている内容を機械的にノートに書いていると、話がちょうど一段落(いちだんらく)したところだった。


「まあ、わかっておかなきゃいけない理論は大体こんくらいかな。じゃあ、これを踏まえて対戦してみようか。」


 そういってデッキを取り出そうとする彼に、私は意を決して話を振った。


「そのまえにちょっといい?」

「っ…何?」


 あっ、意識してるな、と一目でわかった。多分これから私が振る話の内容を、私の態度からなんとなく察せているんだろう。むしろやりやすい。


「昨日のこと、聞きたいの。まだ整理がついてないならそれでいい。整理がついてるなら、その内容を話してほしい。」


 長く、気まずい沈黙が流れた。あ、これ、もしかして私またやらかした?早とちりした?


「はぁ…。まあ、もう隠しておくのは無理だよね。洗いざらい話すよ。」

「うん。」


 そんなことはなかった。早とちりしたかも、なんて思考が早とちりだった。大丈夫だ。ちゃんと、答えてくれるらしい。


「あの後、いろいろ考えてみたんだ。そしたらさ。その過程で読んだネットの記事に、綺麗事ばっか書いてあって、正直うんざりした。こんな記事読まなきゃよかった、って思ったよ。」

「あー…」


 わかる。私もこの前、ちょっと読んでみたのよね。そしたら、綺麗事ばかりではっきり言って鬱雑(うざ)かった。でも、ひとつだけは「ああ、そういうことか」ってなるものもあったけど。


「でもさ、一個だけわかる内容があってさ。それを読んで、あることをして確かめてみたんだ。」

「あること?」

「…いわゆる、女性配信者、それもネットでよく可愛いとか、綺麗だとか言われてる人の配信を見てみたんだ。結果、正直どうとも思わなかった。確かに顔立ちは整ってると思ったし、いわゆる『綺麗な人』だって思ったよ。でも、正直何も感じなかった。」


 …どういうことだろう。全く話がつかめない。


「…これ以上はあんまり詳しく言いたくないんだけど…。結論だけ言おうか。僕も、石山さんのことが好き…ってやつらしい。なんか、この感情の正体はわからないんだけど、多分みんなが言ってる『好き』ってのはこういうことなんだろうな…って思った。」

「私は好きなんて言ってないけど…」

「…いや、そういうのいいから。まあ、そういうわけで、これからよろしく。」


 なんかいろいろと釈然としないこともあるけど、今の私にとって重要なのは、私の告白が受け入れられたことだ。だから私は、ただ一言、こう返した。


「うん、よろしく。」


 そして一言付け加えた。


「浮気したら許さないから。」

「できるわけないだろ!僕なんかに興味をもつ人を探すよりは町でばったり総理大臣と会う方が簡単だよ!」

「うふっ」


 気持ちはよく分かった。まあ、その例えはわからないけど。かくして、私たちは恋人に相成ったのであった。

もう酸っぱいのはこりごりだ!

次話からがっつりいちゃつかせてやっかんな!!!!

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