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第二十三話  血を少し、くれないかな



     

『ひ』

     

 術者は安全な場所から遠隔操作している筈なのに、操り兵達は一斉に悲鳴を上るた。

 知也の殺気はそれほどのモノだった。

     

 が、ここからが本当の恐怖だとは思いもしなかっただろう。

     

 どれほど生命力を込めても、暴風鞭による攻撃は簡単に躱され、そして鞭は引き千切られてしまう。

 暴風鞭を失った操り兵達が火仙槍を発射するが、知也に傷一つ負わせる事が出来ない。

      

 知也に対して有効な攻撃手段を、何一つ持ってない。

 この事実が操り兵の心を完全にへし折ったところで、知也は攻撃を始めた。

      

 知也の拳が、そして足が霞んだように見える度に、原形を留めないほどに砕け散った操り兵が吹き飛んでいく。

 知也が繰り出す攻撃のあまりの速さに、躱すどころか攻撃を見る事すら出来ずに操り兵達は砕け散って行った。


     「ひぃ!」

     

 逃げ出す操り兵もいたが……逃げられない。

 瞬間移動のように逃げる先に知也が現れ、一瞬で操り兵を破壊していく。

     

 こうして操り兵は、ほんの数分で壊滅したのだった。

     

「残りはソイツだけか」

     

 100撃で操り兵100人を破壊しても、まだ怒りが収まらない知也は人造鬼へと視線を向けた。

     

「ムサシ先生、ソイツを俺に譲ってもらえませんか」     

「それは助かるござるよ。人造とはいえ、角8本はさすがに厄介でござった」

     

 ムサシがスッと知也と交代すると。

     

「この人造鬼は貴様の1万倍強いぞ!」

     

 今まで無言だった人造鬼が、急に喋り出した。しかも、この声は。

     

「……ソウズイか」

     

 そう。さきほど灰となった筈の、ソウズイの声だった。

     

 知也の呟きにソウズイが叫ぶ。

     

「その通り、この人造鬼も意のままに操れるのじゃ。さて、今度こそ死ね!」

     

 勝ち誇るソウズイの耳に、ミユの冷たい声が飛び込んできた。

     

「トモヤ様、ステータスを表示してください」

     

 言う通りにする知也に、更にミユが指示する。

     

「自主規制の1、2、3を解除してみて下さい」     

「こうか? あ」

     

 知也はミユの言った通りの自主規制1、2、3を解除する。      

 それと同時に、知也の右の拳から3本の角が伸びた。

 角の長さは1メートル以上もあり、鎌のように湾曲している。

 と同時に凄まじい力が身体の奥底から湧き上がってくるのを知也は感じた。

     

「自主規制4、5、6も解除してください」     

 更に言うミユの言葉に知也が従うと、左の拳からも3本の角が生える。

 4本の頭の角と合わせて、これで知也の角は10本となったワケだ。

     

 知也の身体から発散される力のあまりに大きさに、大気がカゲロウのように歪む。

      

「自主規制を解除したら角が生えるんだ」

     

 両手をシゲシゲと眺める知也をチラリと見てから、ミユがソウズイに爽やかな笑顔を浮かべながら質問する。

     

「どうですか、たった8本の角で偉そうにしていたソウズイさん」     

「こ、こんな事がある訳がない! 1番角が多い鬼でも4本が最高のはずだ!」

     

 口から泡を飛ばしながらそう叫ぶソウズイに、ミユが意地の悪い顔で言う。

     

「あまりに人間がひ弱だったから、4本で十分だっただけです」     

「そんな筈があるかぁ! 儂の作り上げた、この8本角の人造鬼こそが、世界最強の生物兵器じゃあ!」

     

 空気がビリビリと振動するほどの叫び声を上げると、人造鬼は知也に襲いかかってきた。

     

「むう。拙者と戦っていた時よりも遥かに速いでござる。直接ソウズイが操っているからでござろうか」

     

 ムサシの声に、ミユが涼しい顔で答える。

     

「でもトモヤ様にとっては子供以下。ムサシ先生も分かっているでしょうに」     

「まあ、それはそうでござるが」

     

 ムサシが苦笑すると同時に、知也が無造作に右手を振るった。

     

 ボトン。ボトン。

     

 知也の角によって斬り落とされた人造鬼の両手が地面に転がる。

     

「こ、こんなバカな!」

     

 叫ぶ人造鬼に向かって。

     

「くらえ!」

     

 知也が本気で左の拳を突き出すと。

     

 バカァン!

     

 人造鬼の肉体は、跡形もなく爆散した。

 完全にオーバーキルだ。

 きっと自分に何が起こったのかすら分からなかった事だろう。

     

 が、知也は人造鬼の残骸には目もくれず。

     

「ギムレット!」

     

 一言叫んでギムレットに駆け寄る。

     

「しっかりしろ!」

     

 そんな知也にギムレットが弱々しく頼む。

     

「ねえトモヤ……ボクに血を少し、くれないかな?」

     

 ギムレットはヴァンパイアだから、最後に血を口にしたいのだろう。

 そう考えた知也は、ギムレットを抱き上げると、首すじを差し出す。

     

「ああイイぞ、好きなだけ吸え」

     

 しかしギムレットは、消え入りそうな声で囁く。

     

「だめ、噛みつく力も残ってない……」

     

 そこで知也は右拳の角を短くすると胸に傷を付けて、ギムレットを抱き締めるようにして血を舐めさせてやる。

     

「ギムレット……」

     

 安らかに眠れ、と願う知也だったが。

     

「ふっかぁ――つ!」

       

 ギムレットは、元気一杯にピョコンと立ち上がったのだった。

     

「な…………」

     

 永遠の別れを覚悟していたトコに発生した、思いもしない出来事にフリーズする知也に。

     

「どうしたの、そんな顔して?」

     

 ギムレットが、キョトンとした顔で尋ねてきた。

     

 そんなギムレットに、知也は泣き笑いの表情で、やっとの思いで言葉を口にする。

     

「よかった……本当によかった。死んだかと思ったぜ」

     

 知也が優しくギムレットの頬に手を添える。

     

「あ」

     

 知也の大きくて優しい手の平に、ギムレットは年の離れた兄の事を思い出す。

     

 ギムレットのワガママに、困った顔をしながらも最後には笑ってくれた兄。

 ギムレットを見る眼差しは、どんな時も優しかった兄。

 そして人間との戦いで、ギムレットを守る為に命を落とした兄。

     

 優しく頬に触れる知也の手は、そんな兄と同じだった。

     

(そう言えば凄く怖い顔していたから気付かなかったけど、トモヤの目には優しい光が隠れてる……この目はお兄ちゃんと一緒だ)

     

 そう思い至った時。

 ギムレットは自分が何故、知也に突っかかっていったのか理解した。

 自分は知也に、大好きだった兄の面影を見ていたのだと。

     

 だから。

     

「ありがと、お兄ちゃん」

     

 一言口にすると、ギムレットは知也に抱き付いたのだった。

     

「お、おう」

     

 知也は反射的にギムレットの体を抱きしめた。

 力を入れたら壊れそうなほど細くて、子猫のように柔らかくて、でも驚くほど抱き心地がイイ。

     

 コイツも可愛らしいトコあったんだな、と知也がシミジミしていると。

     

「回復したのなら、さっさとトモヤ様から離れて下さい」

     

 知也の腕の中で幸せそうな顔をしていたギムレットを、ミユが引き剥がした。

     

「何すんだよ!」

     

 怒鳴るギムレットに。

     

「団体様のお着きです」

     

 ミユが人工勇者の大群を指差す。

「げ」

 顔をしかめるギムレットに、先頭の人工勇者が喚く

     

「少々数を減らされたが、蠱毒で作り上げた人工勇者全員じゃ! 今度こそ、息の根を止めてくれるわ!」

「ソウズイか。しつこい男でござるな」

     

 そう呟くムサシを見上げながら、ギムレットが弾んだ声を上げる。

     

「でも、全員集合って事は、今、誰も生徒を拘束してないって事だよね」     

「そしてコイツ等を倒せば、この戦いは完全勝利という事です」

     

 ミユが付け加える。

     

「なら総力戦ね~~」

     

 そこにユイコが教師と生徒を引き連れて転送してきた。

     

「今ルシファー学園に残ってる全戦力よ~~。さあミンナ~~、コイツ等を、さっさと倒してしまいなさい~~」

     

 相変わらずユイコの掛け声はユルかったが。

     

『おう!!!!』

     

 格闘コース1年1組とドラゴン教室の全6学年を含む64教室の生徒、そしてその担任教師達は一斉に声を上げた。

     

「ふん! 1撃あたり1人分の生命力を暴風鞭に込めれば、キサマ等など敵ではないわい」

     

 人工勇者は約5000人。

 ルシファー学園の戦力は約3200。

 数では分が悪い上、人工勇者の手には仙器がある。

 戦いは圧倒的に人工勇者が有利だ。

     

 そして5000人が火仙槍を爆発させる自爆攻撃を敢行すれば、知也を倒す事は可能。

 そうソウズイは考えていた。

     

 そんな自信満々のソウズイに。

     

「俺に仙器なんか効かない事が、まだ理解出来ないのか」

     

 知也はそう口にすると、人工勇者の大群へと突進した。

     

「お供致します」

     

 そんな知也にミユが並ぶ。

     

「だい……」

     

 大丈夫か? と知也が口にする前に。

     

「えぇぇぇぇい!」

     

 ミユの手足が閃き、7人の人工勇者が吹き飛んでいった。

 身体をあり得ない方向にへし曲げながら。

     

「心配するなんて失礼だったな」

     

 知也の呟きに嬉しそうに微笑んでから、ミユは更に激しく攻撃を繰り出す。

 今度は12人の人工勇者が戦闘不能となる。

     

「俺も負けてらんないや」

     

 そう口にした知也の横をムサシがすり抜けていく。

     

「生徒だけに任せるワケにはいかんでござるからな」

     

 そう言うとムサシは両手で刀を振るった。

     

「さすがムサシ先生」

     

 ムサシが一瞬で20人の人工勇者を切り捨てるのを目にして、知也は呟いた。

     

 そして。

     

「よし、俺も頑張るか!」

     

 知也は自分に気合いを入れると、角の生えた両手を全力で振り回して、人工勇者達に襲いかかる。

     

「さすがトモヤ様」     

「さすがでござるな」

     

 今度はミユとムサシが感嘆の声を上げる番だった。

     

 知也の腕が扇風機のように回転すると、簡単に人工勇者が消え去っていく。

 まるで誕生日のケーキのロウソクを吹き消すようだ。

 その光景は、あるいは風船を思い浮かべた方がイイかもしれない。

 知也の攻撃がかすっただけで人工勇者の身体は破裂し、跡形もなく消滅する。

 後に残るのは、元は何だったのかさえ判別できない肉の残骸だけだ。

     

 こうして人工勇者達は、相打ちどころか知也に触れる事すら出来ずに、僅か1分で全滅したのだった。

     

「こ、こんな……」

     

 呆然と立ち尽くしてそう呟くソウズイ。自分の目が信じられないらしい。

     

 しかしそれは、ルシファー学園の者達も同様だ。

 鬼の強さを耳にした事はあっても、これほどのモノとは想像した事すらなかった。

 いや想像など出来るレベルではなかった。

     

 そんな中、ギムレットの声だけが明るく響く。

     

「やったー! お兄ちゃんの勝ちだ! ボク達の勝ちだ!」     

「そうよ~~~。ルシファー学園の勝ちよ~~」

     

 ギムレットに続いてユイコが上げたユルい声で、ルシファー学園の生徒達も我に返り。

     

『うおぉぉぉぉぉぉ!!!!』

      

 全員が勝どきの声を上げたのだった。

     

「やったぜ!」     

「ざまあみろ!」     

「俺達の勝ちだ!」    

「ひゃっは――!」

     

 いつまでも続く歓声の中、知也はソウズイを睨み付ける。

     

「さて残るはお前だけだな」




2020 オオネ サクヤ Ⓒ

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