第二十二話 俺はアイツをぶち殺す
「もう一度確計画を確認するでござる。トモヤ君は正面から魔方陣へと近づき、思いっ切り吼えるでござる。イイでござるか?」
ムサシの問いに、知也は無言で頷く。
「トモヤ君に全ての敵が意識を向けた瞬間を狙って、拙者とエウリュアレ君が魔方陣を破壊するでござる」
エウリュアレも無言で頷くが、知也が慌てて口を挟む。
「ムサシ先生、敵が全員、俺に意識を向けると決めつけていますけど、そんな事はありえないのでは?」
そんな知也の意見に、全員が苦笑いを浮かべる。
「トモヤ様は自分を過小評価し過ぎです。トモヤ様ほどの強者から敵意を向けられて反応しない生物などこの世に存在しません」
「そこまで言う!?」
ミユの言葉に驚いたのは知也のみ。
全員から、何を今さらといった視線がレーザーのように知也に降り注ぐ。
「……分かりました、善処します」
知也が渋々そう言うのに微笑んでから、ムサシが確認を続ける。
「で、拙者かエウリュアレ君が魔方陣の破壊に成功したなら、つまり100分の1に低下している力が回復したなら、ドラゴン教室の諸君も戦いに加わる。イイでござるか?」
「はい。ステータスさえ元に戻ったなら、仙器が相手でも負けやしません」
ヴリトラが胸を張って答えた。
「キャス、操り兵のステータスを調べてみて」
「……人間にしては異常なほどステータスが高いですね。力、耐久力、魔力が10000前後だった人工勇者と比べて20000前後もあります。でも一番高い者でもブラックの23000程度。ここにいる生徒の方が遥かに強いですから、何の心配ないですね」
キャスの言葉にギムレットが注意を口にする。
「でも敵は仙器を持っているから油断しないでね」
「さすがヴァンパイア族の姫でござるな、失敗は繰り返さないでござるか。では皆、計画通り始めるでござる」
そして封印結界魔方陣の破壊計画が開始された。
ズシリ! ズシリ! ズシリ! ズシリ! ズシリ!
地面を揺らして、知也は魔方陣を守っている操り兵に近づく。
そして咆哮を上げようと、大きく息を吸い込もうとしたところで。
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!』
いきなり操り兵全員が、死に物狂いで知也に襲いかかってきた。
「な、何で?」
こんなに必死になって俺を襲ってくるんだ?
と心の中で叫ぶ知也に100の暴風鞭による攻撃が降り注ぐ。
「うわ! ……あれ?」
暴風鞭のスピードを躱せた生徒はルシファー学園にはいない。
が、それほどの高速だというのに、知也の目には襲いかかって来る暴風鞭が、空中を漂うタンポポの綿毛よりもユックリに見えた。
「ほい、ほい、ほいと」
簡単に100の暴風鞭を躱す知也に、操り兵達は一層激しく攻撃してくるが、やはり知也は楽々と躱す。
「そんなバカな!」
先頭で暴風鞭を振るっていた操り兵が叫んだ背後で。
「きえぇぇぇぇい!」
ムサシの気合いが響き渡り、魔方陣が斬り裂かれた。
「ついで」
さらに放たれた、巨大化したエウリュアレのダメ押しの一撃によって、描かれた地面ごと魔方陣は消滅した。
「拙者は必要なかったでござるな」
苦笑するムサシを追い抜き、ドラゴン教室6年生が操り兵に襲いかかる。
「ステータスが元に戻ったぞ! 全員ドラゴン化! 一気に叩き潰せ!」
ヴリトラが叫び、50体のドラゴンが出現した。
「覚悟しろ!」
ヴリトラが先頭を切って操り兵に突進した、その時。
バシィン!
暴風鞭の一撃が、ドラゴン化したヴリトラの巨体を打ち倒した。
『な!』
動かなくなったヴリトラに驚いて突撃の足を止めた他のドラゴン達も、あっという間に地面へと叩き伏せられる。
「私が相手」
巨大なゴーゴン姿のエウリュアレが前に出るが。
バチィン!
「ぐ」
同じく地面へと打ち倒される。
「何で? 2万程度しかステータスはないクセに!」
呆然とするギムレットに、一人の操り兵が進み出る。
「儂の名はソウズイ。この兵士を操る、ミドラス軍最高の術者じゃ。暴風鞭は生命力を込めれば込めるほど強力な威力を発揮する仙器。1発に1人分相当の生命力を込めれば、ドラゴンすら打ち倒せる」
「それってつまり、一生分のエネルギーってこと!?」
ソウズイの言葉にギムレットは顔色を変える。
人間1人分の生命力。言葉にすれば一言だが、1人の人間が一生で発揮するエネルギーは膨大なモノだ。
暴風鞭による攻撃の所要時間は0・1秒といったところだろう。
その0・1秒に込められる攻撃力をブラックの1として、一時間で36000。
1日なら864000、1年ならレッドの30以上。
人生70年分の生命力を込めたとしたらそのステータス値はレッドの2100を超える。
この数字はヴリトラのステータス値を遥かに超える値だ。
おそらくドラゴン6年生たちはもう動けないだろう。
「まだ戦える」
エウリュアレだけが何とか身を起こすが、再び暴風鞭によって叩き伏せられるのを目にしてギムレットが叫ぶ。
「エウリュアレ! 人間サイズに戻って! 的が小さいほど攻撃は難しいはず!」
その一言で小さくなるエウリュアレ。
「これなら何とか躱せる」
そう口にしたエウリュアレが、またもや暴風鞭によって地面に叩き付けられた。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。ならば3人分の生命力を込めるまでじゃ。この身体には3万人分の生命力がチャージさせておる。仮に10人分の生命力を暴風鞭に込めたとして3000発の攻撃が可能じゃ」
「く」
唇を噛むギムレットの前にムサシがスッと立つ。
「では拙者がお相手いたそう」
そんなムサシにソウズイがニヤリと笑う。
「世界最強の剣士ムサシか。ステータスの高さだけでは計れぬ剣の腕は、確かに驚異的じゃ。が、ちゃんと対策を用意しておる。ほれ、これじゃ」
操り兵の群れの中から巨人が現れる。身長は3メートル。知也より低いが、その頭からは闇を思わせる、真っ黒な8本の角が生えている。
「捕らえた魔王軍の戦士を改造して作り上げた人造鬼じゃ。鬼の角は1本増えるとステータスは10倍となるのは知っておろう? そしてコイツの角は8本。そこにいる鬼の、1万倍強いぞ!」
ソウズイが知也を指差してそう叫ぶと同時に、人造鬼が手にした金棒を振り回しながらムサシへと襲いかかった。
「むう!」
ムサシは何とか人造鬼の攻撃を刀で受け流す。
「く。まともに受け止めたら刀がへし折れるほどのパワーでござるな」
そう言いながらも反撃に転じるムサシ。
しかし人造鬼は鉄の塊である金棒を小枝のように軽々と振り回して、ムサシの斬撃を防ぐ。
「強敵でござるな。しかし」
そう呟きながら、ムサシはギムレットをチラリと見る。その目は自分が時間稼ぎしている間にミンナを回復させろ、と言っていた。
即座に反応したギムレットが、回復魔法でエウリュアレを治療して叫ぶ。
「エウリュアレ、今は時間を稼いで! ボクはドラゴン達を回復させて魔法でブーストをかけるから」
「そうはさせんよ」
そう言うと同時にソウズイが火仙槍を構えて発射すると。
ドン!
ギムレットの体を撃ち抜いた。
「え?」
ギムレットが自分の身体に開いた大穴を不思議そうに見つめた。
身の毛がよだつほど無残は傷口から流れ落ちた大量の血が、バシャッと地面に広がる。
「あ……あ……コポ!」
ギムレットは口からも大量の血を吐き出すと、両膝をガクリと地面についた。
知也は思いもしなかった光景に、しばしの間、立ち尽くしていたが。
「ギムレットぉ!」
知也は大声で叫びながら、ギムレットに駆け寄った。
「しっかりしろ!」
倒れかけるところを知也が支えると、ギムレットは小さく声を上げる。
「ト、トモヤ……」
「な、何だ」
弱々しい声を何とか聞き取ろうと、知也はギムレットの頭をそっと支えて耳を近づける。
「1つ、お願い……聞いてもらえるかな……」
ヴァンパイアを殺す方法は、心臓に木の杭を打ち込む事と映画で観たおぼえがある。その心臓ごと体に大穴を開けられては……知也はこれがギムレットの最後の言葉になると直感した。
だから。
「1つなんて言わず、何個でも言え! 何でも聞いてやるから!」
せめてギムレットが安らかに眠れるように精一杯のコトをしてやろうと、知也は声を絞り出した。
「へへ……じゃあ」
ギムレットが何かを言いかけるが、そこに焔の槍が飛んで来る。
ソウズイによる火仙槍の攻撃だ。
「ミユ、悪いがギムレットを頼む。俺はアイツをぶち殺す。落ち着いて話が出来ないからな」
知也は火仙槍の一撃を握り潰すと、ソウズイへと向き直る。
「おまかせ下さい。トモヤ様が別れの言葉を告げるまで、ギムレットを死なせたりいたしませんから」
知也はミユの言葉に頷くと、ソウズイを睨み付けた。
「俺の考えが甘かった。たとえ敵でも殺すのが嫌だったが、その結果がこれだ。俺が最初から戦っていればギムレットは……。だから、だから俺は本気でキサマ達をぶち殺す!」
知也は体の奥底から湧き上がってくる殺意を言葉に乗せて吐き出す。
が、ソウズイは余裕の態度を崩さない。
「これは鬼を本気にさせてしもうたか。では儂も本気になるとするか。10人分の生命力を込めた暴風鞭を食らうが良いわ!」
ビシュン!
風を切って暴風鞭が襲ってくるが。
「これが本気か?」
顔色一つ変えずに暴風鞭を掴み止め、知也はワザとつまらなさそうにそう言う。
「まさか10人分でも足りぬとは驚いたわい。ならば100人分を込めてやろう。身体を2つに引き裂いてやるわい!」
バシュン!
暴風鞭が空気を斬り裂く。が。
「つまらん」
やはり事も無げに知也はソウズイの攻撃を掴み止め、ポイと掴んだ暴風鞭を投げ捨てる。
「うぬぅぅ。よし、地獄で後悔するが良い。全生命力3万を込めてやるわい。この身体は使えなくなるが、予備の兵士は幾らでもいるからのう。では今度こそ殺してやる!」
ソウズイは大声で叫ぶと、全生命力を込めて暴風鞭を振るう。
ボッ!
空間すら切り裂く一撃だった。この攻撃を受けて無事でいられる生物はこの世にいない。鬼を研究して鬼すら殺せる武器を完成させたとソウズイは自負していた。
が。
バチイ!
暴風鞭は知也の胸を直撃し、そして千切れ飛んだ。
「何だ、こんな程度か。最強の攻撃だと言うから、防御せずにワザと身体で受け止めてやったのに」
知也は平然と言い放つ。ソウズイを徹底的に打ちのめしたい、という残忍な想いが湧き上がって爆発しそうだ。
「そ、そんな……」
絶望の声を漏らすソウズイの体が見る見るうちにミイラ化していく。どうやら全生命力を使い切ってしまったようだ。
「こ、これが鬼……」
その言葉を最後にしてソウズイ、いやソウズイが操っていた兵士はバサッと灰になり、風に吹かれて散っていく。そんな操り兵のあっけない最後を見つめた後。
「ち! 勝手に自滅しやがったか。じゃあ次は貴様らだ」
知也は、残りの操り兵100人に殺気を向けたのだった。
2020 オオネ サクヤ Ⓒ




