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第二十話  顔が怖いくらいで何とかなる戦いじゃない




「はぁ~~~~」


 魂をも無限地獄に引きずり込む恐怖の顔とまで言われて、ヘコみまくっている知也にミユが抱きつく。


「トモヤ様、お子ちゃまの言う事など気にする必要などありません。ミユはトモヤ様の魅力を誰よりも知っていますから」

    

 思わず抱きしめたくなるような可愛い笑顔でそう言うミユに、ギムレットが騒ぎ出す。

     

「誰がお子ちゃまだよ!」     

「トモヤ様の魅力が分からないア・ナ・タ・です」     

「なんだとぉ~~」

     

 ミユとギムレットが言い争いを始めるかと思った、その時。

     

「お嬢、冷静に! 今はそれどころじゃないですよ」

       

 タイラントが止めに入った。

     

「そ、そうだった! ミユ! 話はルシファー学園を取り返してからだい!」

     

 フンと鼻を一つ鳴らしてから、ギムレットは1年1組の生徒に命令する。

     

「回復魔法を使える者は気絶してる生徒を魔法で回復させて。タイラント、人工勇者から暴風鞭と火仙槍を取り上げて!」

     

 1年1組の回復魔法によって、教室全員は直ぐに意識を取り戻した。

     

「じゃあ人工勇者は処刑して! 次の教室に向かうよ!」

     

 平然とそう言うギムレットに、知也は驚く。

     

「処刑って、殺すってコトか!? 縛り上げてロッカーにでも叩き込んでおけばイイんじゃ……」

     

 オズオズと、そう口にした知也を、ギムレットがキッと睨む。

     

「何を甘い事言ってんだよ、これは戦争なんだ! 今のボク達は、戦力では圧倒的に不利なゲリラ兵なんだ。敵は減らせる時に減らしておかないと、後でどんな危険な状況になるか分かんないんだ!」    

「で、でも……」

     

 口ごもる知也にギムレットは深いため息を1つ付いて。

     

「分かったよ。今はトモヤの言う通りにしてやるよ。でもトモヤ。これが原因で危険な状況になったら、責任を取ってもらうからね!」     

「あ、ああ」 

     

 というワケで人工勇者をグルグル巻きにしてロッカーに放り込むと、ギムレットが全員に命令を下す。

     

「じゃあ次の教室に向かうよ! 今の騒ぎは聞かれている筈だから、用心して!」

     

 隣の教室でこれだけの大騒ぎをしたのだ、気付かれていないワケがない。

 それでも教室から人工勇者が飛び出して来ないのは、教室を制圧する事を最優先するように命令されているからだろう。

     

「よし、もう1度、同じ事をやってみるけど万が一に備えて、知也が叫ぶと同時にミユは教室に突入して」     

「もう1回、同じことをやるのか!?」

     

 驚く知也にギムレットは当然とばかりに答える。

     

「あたりまえじゃん。こんな有効な作戦、滅多にないモン。トモヤの顔面がもたらす破壊的な恐怖に耐える事が出来る生き物がいるワケないし」     

「そこまで言うか……」

     

 手加減のない罵詈雑言に愕然とした顔になる知也に、ギムレットが明るい声で言ってのける。

     

「納得したら、さっそくいってみよ――!」     

「納得してねぇよ……でも、本当に有効な作戦か?」

     

 小さくボヤいた知也だったが。







     

『はぎゃぁぁぁ!』     

『どひぇえええ!』     

『うっわぁああ!』     

『ひぃいいいい!』     

『#$%&@*!』

     

 本当に有効な作戦だった。

     

 知也が教室に飛び込んで叫ぶだけで生徒や教師、そして人工勇者は気絶し、次々と教室の解放に成功する。

     

「よかった、戦わずに済んで」

     

 最初のうちは不満顔だったものの、今ではホッとした口調でそう言った知也に、ギムレットがため息をつく。

     

「トモヤは鬼神なんだから、もっとこう、何ていうのかなぁ、血の雨を降らせてやるぜ! くらい言えないかな?」

     

 不平そうなギムレットに、知也は言い返す。

     

「平和主義の鬼がいたってイイだろ?」

     

 そんな知也にギムレットが怒鳴る。

     

「今は戦争なんだ。侵略軍によって殺すか殺されるか、という戦争が勃発してるんだ。殺される前に殺せ。殺されてから後悔しても遅いんだ。だから普段は温厚なムサシ先生だというのに人工勇者を瞬時に斬り捨てたろ?」

     

 そう。ムサシが人工勇者を一太刀で斬り捨てた光景は、知也の目に深く焼き付いていた。

 そして血まみれの人工勇者の死体を思い出すだけで、知也は氷水を浴びせられたような気分になり、吐き気さえしてしまう。

     

「ごめん、俺には出来そうもない。どれだけ言われても、殺すなんてどうしても無理なんだ……」

     

 下を向く知也に、ミユが声をかけてくる。

     

「トモヤ様はそれでイイのです。トモヤ様の代わりにミユが戦いますから」     

「あう……」


     

 知也だった、こんな美少女に護って貰うとは情けないと思う。

 しかし仮に戦う事は出来ても、殺す事は出来そうもない。

 出来ないものは出来ないのだ。

     

 そんな事を悩みながらも、知也による教室奪還作戦は順調だった。

     

 回復魔法を使える者だけ残してそれ以外の生徒は植物園へと向かわせると、ギムレットは粛清部隊が持つ水晶版でユイコに連絡をとる。

     

「ユイコ、植物園へと辿り着いた生徒達に指示を出しておいて。反撃の準備をしておくように、って」 「オッケ~~。封印結界が解けたら、一気に反撃できるようにしておくから~~」     

「よし。じゃあ、次の教室を襲うよ!」






     

 ギムレットの合図で、知也は教室に飛び込み叫ぶ。

     

「ごおおお!」

     

 それだけで人工勇者は気絶するが。

     

「おい、この教室の生徒、俺が飛び込んだ時には全員、意識がなかったぞ」

     

 知也の言葉に、ギムレットが生徒の1人に駆け寄った。

 焦点の合わない目をしたまま何を話しかけても反応がない生徒に、ギムレットは顔をしかめる。

     

「思考能力を奪う薬を飲まされてる。キャス!」

     

 ギムレットに呼ばれたキャスが、テキパキと水晶版を操作して生徒を調べる。

     

「これなら高位解毒魔法で治療できるわ」

     

 キャスの報告に、ギムレットは直ぐに指示を出す。

     

「高位解毒魔法を使える者はすぐに治療に取りかかって。それ以外の生徒は人工勇者を縛り上げてロッカーに放り込んで」

     

 そしてギムレットは、意識を取り戻した生徒の中で高位解毒魔法を使える者以外を、教室に備え付けられた転送装置を作動させて植物園へと送る。

     

「次、いくよ」

     

 それから先は殆どの教室で、生徒は薬を飲まされていた。

      

 その度に高位解毒魔法を使える生徒に指示して意識を回復させ、人工勇者を縛り上げ、植物園へと転送させていったが。






     

「誰もいないぞ」

     

 知也が振り返って告げたように、63番目に突入した教室には誰もいなかった。

     

「キャス! いそいで他の教室も調べて!」

     

 ギムレットの怒鳴り声に、キャスが水晶版を何度も操作すると、顔を曇らせて報告する。

     

「どうやら各教室にある転送装置に気付かれたみたいよ。闘技場に全生徒を集められてしまったわ」  「ち。もうそんな段階に入ったのか」

     

 ギムレットが唇を噛む。


     

 ルシファー学園には3000の教室がある。

 今まで解放した教室など、まだほんの一部でしかない。

     

「闘技場に乗り込んでも生徒を人質に取られるだけだ。こうなったらムサシ先生と合流して一刻も早く封印結界を解こう。キャス、ムサシ先生達がどこにいるか分かる?」

     

 ギムレットに聞かれて、キャスは水晶版を操作する。

     

「ルシファー学園の西の端に潜伏してるわ。でもこの地域には、水晶版に映像を送る装置が殆どないから、正確な事は分からないわ。しかも教室に設置された転送装置では行くコトの出来ない地区よ」

     

 キャスの報告を聞いて、ギムレットはユイコと連絡を取る事にした。


     

「ユイコ! ムサシ先生とエウリュアレの状況はどうなってるの?」     

「ええと~~、敵の封印結界は、10か所に設置された魔方陣によって構成されてるみたいなの~~。その1つでも破壊できれば封印結界を解くことが出来るみたいだけど、どれも100人の人工勇者が守って、簡単には攻め込めないみたい~~」     

「そう、分かった。じゃあボクらはムサシ先生と合流するから、闘技場に集められた生徒が危険そうだったらキャスの水晶版に連絡して」     

「分かったわ~~」

     

 ユイコとの連絡を終えると、ギムレットはミユに質問する。

     

「ミユは転送の腕輪を特別に支給されていたよね。ムサシ先生と合流する事は出来る?」     

「直接合流する事は出来ないですけど、西地区の倉庫地帯になら転移出来ます」

     

 その答えにギムレットは目を輝かせると、さっそくミユに頼み込む。

     

「やった! そこからムサシ先生達が隠れている場所まで、500メートルくらいしかないじゃん。さっそくボク達全員を転送して」     

「ムリです」     

「何で!?」

     

 アッサリと断られて、ギムレットが不機嫌な顔で聞き返す。

     

「ミユの転送の腕輪は、トモヤ様の為のモノ。転送できるのは、せいぜい直径5メートルの範囲内にいる者くらいです」

     

 ミユの言葉に一瞬考え込むが、ギムレットの決断は早かった。

     

「分かった。じゃあボクとトモヤ、タイラント、キャス、ミユの5人で、ムサシ先生との合流を目指す。他のミンナは教室に設置された転送装置を使って植物園に戻って、封印結界が解けた時に備えて戦闘準備をしておいて」

     

 全員が頷くのを確認すると、ギムレットは真剣な顔で知也を見つめる。

     

「危険だと思ったら避難してイイよ」     

「え? いきなり何だ?」 

     

 あまりに以外な言葉に、知也が思わず聞き返すと。

     

「トモヤがいないとミユが協力してくれないから一緒に来ては貰うけど、殺し合いをする覚悟がないと、不測の事態……ううん、回りくどい言い方はヤメた。今から殺せる時に殺さないと、殺される戦いをやりにいく。だから、殺す覚悟がないなら隠れてて。顔が怖いくらいで何とかなる戦いじゃないから」    「う……」

     

 返事に困る知也にクルリと背を向けると、ギムレットはミユに声をかける。

     

「じゃあ転送して」     

「分かりました。私の近くに」

     

 自分の言葉通りに知也、ギムレット、キャス、タイラントが集まって来たところで、ミユは転送の指輪にタッチしたのだった。




2020 オオネ サクヤ Ⓒ

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