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第二話  転入生が来るらしい



「転入生が来るらしいね」


 そう口にしたのはヴァンパイア族の王女であり、一族最強の魔力を持つと言われるギムレット。

 猫を思わせる生意気そうな表情をしているが、元々が神レベルの美少女なので、それすらも彼女の魅力となっている。


「ヘッ。この時期に転入してくるなんざぁ、少し腕力に自信があるだけのカン違いヤロウに決まってまさぁ。チョットばかり痛い眼に合わせて、そんな世間知らずに身の程を思い知らせてやるのも先輩の務めですよね」


 そう答えたのはワーウルフだ。

 身長2メートル20センチ。

 この格闘クラス1年1組の中でも、かなり大柄な生徒に分類される。


「タイラント、アンタの戦闘力はワーウルフの中でもトップクラスなんだから、少しは手加減してやりなよ?」


 ギムレットの言葉に、タイラントと呼ばれたワーウルフが余裕の笑みを口に浮かべた。


「もちろん手加減はしまさぁ、死なない程度に」


 ワーウルフ族はヴァンパイアを護る事を使命とする一族だ。


 ワーウルフは、魔族の中でも肉体の強靭さではトップクラスとして知られている。

 そんなワーウルフ族の中でも特に能力の高いハイ・ワーウルフだけが、ヴァンパイアの王族の警護に当たる事ができる。

 つまりタイラントはワーウルフの、10倍から50倍の強さを持つといわれるハイ・ワーウルフだ。

 

 そんな2人を、クラスの生徒は誰も止めようとしない。


 なにしろ魔力を体に纏ってパワー、スピード、防御力を大きくアップさせて戦うヴァンパイアの王女ギムレット。

 そしてヴァンパイアの王女を護る、ハイ・ワーウルフの中でも最強と噂されるタイラント。


 このルシファー学園史上でも有数の実力者と目されている二人に、ヘタな口出しをして目をつけられたくない、というのがクラス全体の空気だ。


 と、そこに。


「おはようでござる。転入生を紹介するでござるよ」


 そう口にしながら、担任教師であるムサシが入ってきた。

 それに続いて巨大な人影が入ってくると、ムサシの真後ろに立つ。

 想像もしなかった転入生の姿にシンと教室中が静まり返る中。


「デカい……」


 誰かの呟きが、妙に大きく響いた。


 確かに大きい。

 今ムサシが立っている教壇の上には黒板を照らす為のシャンデリアが天井からぶら下がっているのだが、入ってきた人影は、顔の上半分がシャンデリアに隠れてしまっているほど大きい。


 その巨大な人影が口を開いた。


「松本知也といます。よろしくお願いします」


 と、そこに早速、タイラントが突っかかっていく。


「おいおい! 人に挨拶する時は顔くらい見せたらどうなんだよ。どうも常識に欠けるようだな、テメエは。オレが教えてやるから付いて来い!」


(そういえば、そうだな。初めての異世界に緊張したのかな? つい急いで挨拶しちゃったけど、このシャンデリア、邪魔だったよな。よし、顔が見えるように前に出るか)


 教室に入るなり、周りの確認せずに自己紹介をした事を反省すると、知也はシャンデリアを潜って、進み出た。


「これでイイか?」


 そこで初めて知也は教室を見回す余裕を取り戻したのだが、声の主であるタイラントに目をやって驚く。


(ええ! ワーウルフ!? うわ、よく見ると、この教室、全員人間じゃない? 本当に俺、違う世界に来ちまったんだ……)


 確かに虎やライオン、熊などの獣人、トカゲっぽい者、羽の生えた者など、どう見ても人間ではない者ばかりだ。そして。


「お、鬼!?」


 最前列に座っていた生徒が上げた声に知也は戸惑う。


(鬼? 俺を見て鬼と言ったのか? ……鬼の身体を託すって祖父ちゃんが言ってたけど、本当に俺、鬼の身体になっちまってるのか!?)


 動揺する知也の耳に、更に入ってくる生徒達の声。


「うう……何て恐ろしい顔してんだ……」

「こ、怖い……」

「それに何て体してるんだよ、まるで鋼だ」

「いや、鋼なんてモンじゃないだろ、鬼なら」

「いくらハイ・ワーウルフ最強の戦士でも、鬼が相手じゃ……」

「こりゃあ、タイラントでも……死んだな」

「ああ、最強生物と言われるドラゴンを一撃で倒せる、唯一の種族が鬼だからな」

「しかもこんなに大きな鬼、初めて見た」

「ああ、身長が4メートル近くもあるぜ」


(4メートル!?)


 知也はそこで初めて、ミユやユイコ、ムサシが小さいのではなくて、自分が大きくなっている事に気がついた。


(どうりで体の感覚がヘンだと思ったぜ……あ)


 立ち上がって自分を睨んでいるタイラントと目が合い、知也は考え込む。

 

(俺はもう、この世界で生きていくしかないんだよな……でも俺、この世界の事を何も知らないんだよな。よし、せっかく教えてくれるというんだから、ここは好意に甘えよう)


 絡まれた自覚のない知也はタイラントの言葉をいい方に解釈すると、さっそくタイラントの好意に甘える事にする。


「喜んで教えてもらうよ、どこに行けばイイ?」


 そう言って知樹は愛想笑いを浮かべた。


 しかし、自分では気づいていないが、今の知也の外見は鬼だ。

 3メートル60センチの長身に凶暴なほど発達した筋肉を装備した、見た者全てを恐怖の底に叩き落とすほど凶悪な顔をした鬼神の姿だ。


 そんな外見の知也が発した言葉と浮かべた笑みは、彼の意に反して教室全体を凍りつかせた。


「喜んで、だってよ! つまりタイラント程度、余裕で殺せるって事だよな」

「どこに行けばイイ、だってよ! たとえ罠があっても平気って事だよな」

「しかもあの不敵な笑み! 自分の勝ちは絶対だという自信に満ちていたぜ」

「ええ、私だったら、あんな笑い方されたらショック死するわ!」

「さすが最強生物ドラゴンを一撃で倒す一族だぜ」

「いや、普通の鬼じゃないだろ! 見た事もないくらい大きいぜ」

「しかもあの筋肉! あんなに鍛え上げられた体、初めて見たぜ!」

「きっと普通の鬼の何倍も強いに決まってる!」

「じゃあ、さすがのタイラントも……」

「ああ、もうオシマイだな」


 生徒全員が恐怖に引きつった顔でヒソヒソと囁く中、タイラントは青くなってブツブツと呟いていた。


(おいおいおいおい! 何だよこれは! 何で鬼なんて正真正銘の化け物が、こんなトコにいんだよ! 地上で最強の生物ドラゴンを素手で殴り殺すんだぞ、勝てるワケねェだろ! ああぁぁぁ……何でこんな事になっちまったかなぁ? どーしてオレ、間違いなく殺される相手にケンカ売っちまってるんだ? はああぁ、気が遠くなってきた…………)


 失神寸前のタイラントだったが、そこにムサシの声が響く。


「タイラント君、残念ながら今から拙者の授業が始まるでござる。話とやらは日を改めて欲しいのでござるが?」

「は、はい!」


 裏返った声で答えた途端、タイラントはストンと椅子に座り込む。

 完全に腰が抜けていていた。


「生きてる? オレ、助かったんだよな……」


 ブツブツとうわ言のように呟くタイラントの横では、ギムレットがポタポタと流れ落ちる冷や汗で、机に水溜まりを作っていた。


「何⁉ 見ただけで魂が潰れそうなほど怖い顔してる…………こんな怪物がこの世にいたなんて……これが鬼?」


 青い顔で震えているギムレットと、放心状態のタイラントには目もくれず、ムサシが知也に教室の一番後ろにある特大の机を指差す。


「アレが君の席でござる。トモヤ君が前に座ると、後ろの生徒が黒板を見る事が出来ないでござるから、一番後ろで我慢願うでござるよ」


 今、知也が身に付けているのは、腰を覆う短い布だけ。

 つまり身体の殆どの部分がむき出しになっているので、知也が少し動いただけで、筋肉がうねり盛り上がるのがハッキリと見て取れる。


 その常識を超えるほど鍛え上げられた巨体が生み出す迫力に、教室中が再び騒ぎに包まれる。


「あの腕! 私のウエストより太いわ!」

「いや、オレのウエストより太いって!」

「首だって切り株みたいだし……」

「あの胸板の分厚さ! 一メートルを余裕で超えるんじゃないか?」

「凄い腹筋! 鉄鉱石を積み上げたみたい」

「大木のような脚をしてるわ」

「肩の筋肉が鉄球みたいだ」


 そして。


「分かりました、ムサシ先生」


知也が自分の席に向かって歩き出しただけで。


「何て歩き方だよ、桁外れの強さが滲み出てるぜ」

「体を覆う気の強さ、尋常じゃないぞ」

「うん。一瞬、意識が遠のいたわ」

「まるで噴火している火山を覗き込んでいるみたい」

「さすが鬼ね」

「鬼、恐るべし」

「訓練で相手に選ばれたら、殺されるかもしんない……」

「ひ!」

「ば、馬鹿! 怒らせるような事、言うんじゃねぇよ! 怖いだろ!」

「お前こそバカか! 聞こえたらどうすんだよ!」


 と、教室中が又もやざわめく。


「どんだけ俺って怖がられてるんだよ。これは早く誤解を解かないとな」


 席に着いた知也がそう呟いたところで、ムサシの授業が始まった。




2020 オオネ サクヤ Ⓒ

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