第十九話 もう、好きに言えよ
「ドラゴン300が、一瞬で倒されるなんて……」
呆然としているギムレットに。
「想像を絶する破壊力を持つ武器、それが仙器でござる」
ムサシはそう告げると、前へと進み出た。
「さて、拙者が相手でござる」
刀を構えたムサシに、人工勇者が暴風鞭を振るう。
1本のムチが100にも200にも見えるほど激しい攻撃だったが。
「ぬん!」
一刀で暴風鞭を斬り飛ばしたと思うと、人工勇者の背後に刀を振り切った姿勢のムサシが出現し。
どちゃ。
体を両断された人工勇者が、湿った音を立てて地面に転がった。
「皆、無事でござるか?」
ムサシの声に、ドラゴン達がヨロヨロと身を起こし。
「な、何とか戦えそうです」
ヴリトラが仲間を見回しながら答えた。
「よ、よかった……」
ホッとするギムレットにムサシが語りかける。
「指揮を執る者は、安易に命令を下すものではござらぬよ」
「はい……」
ギムレットは、素直に頷いた。
そんな二人の様子を見つめながら、知也は呟く。
「でも、このままじゃ人工勇者に勝てるのはムサシ先生だけという事か」
それを聞きつけたエウリュアレが。
「ワタシも勝てる」
そういうなり、身構える。
「エウリュアレ?」
どうしたんだ、と知也が聞く前に、1人の人間が現れた。
両手には暴風鞭と火仙槍を構えている。
人工勇者だ。
そんな人工勇者に対してエウリュアレは。
「見てて」
誰よりも早く反応して立ち向かうと、音速を超えて襲いかかってくる暴風鞭を手で払い落とし。
ドン!
エウリュアレは人工勇者に拳を叩き込んだ。その一撃は人工勇者を物凄い勢いで吹き飛ばすと、壁に叩き付ける。
「人工勇者を一撃か。さすが魔王軍最強だけあるね」
一目で絶命している事が分かる人工勇者にチラリと冷たい視線を向けてから、ギムレットが考え込む。
「今、人工勇者に勝てるのはムサシ先生とエウリュアレの2人だけって事か」
そう呟いたギムレットに、ミユが毅然と答える。
「3人です」
と同時にミユは、気配を消して物陰から襲いかかってきた人工勇者の首を、1撃でへし折った。
「トモヤ様、ミユも役に立ちますよ」
ミユが輝く笑顔を知也に向ける。
「あ、ああ、凄いな」
何の躊躇いもなく人間の命を奪ったミユに、顔を引きつらせながらそう答える知也に、ユイコがユルい声を上げる。
「わたしだって人工勇者くらい倒せるわよ~~」
エヘラと笑うユイコに、ギムレットがピシャリと言い放つ。
「ユイコは理事長室に戻って。理事長室からなら、ルシファー学園の全情報が分かるでしょ? そこから必要な情報をボク達に伝えて」
「つまんない~~」
相変わらずユルい声で文句を口にしているユイコを眺めながら、知也は疑問を漏らす。
「でも何で人工勇者が、こんなに次々と襲ってくるんだろ? 指揮系統は機能していないハズなのに」
その疑問に、ムサシが重々しい口調で答える。
「おそらく最初から命令されていたのでござろう。不足の事態が発生した場合、封印結界を守る人工勇者2000人の一部が出撃するように」
それを聞いて、ギムレットは決心する。
「ムサシ先生とエウリュアレは、ドラゴン族300人と教師5人を引き連れて、封印結界を解く事に専念して。生徒解放はボクと格闘コース1年1組、粛清部隊で向かうから。ミユ、同行をお願いしてイイかな?」
「非常事態だからしょうがありません。協力します」
ギムレットの頼みにミユがそう答えると、エウリュアレが不満そうな表情を浮かべた。
「ワタシもトモヤと行く」
そう言って知也に引っ付くエウリュアレだったが。
「トモヤ様から離れてください!」
ミユが青スジを浮かべて、エウリュアレを知也から引き剥がす。
「恋人同士の邪魔をするな」
文句を言うエウリュアレにミユが怒鳴る。
「トモヤ様はミユのモノです!」
「それは鬼女の勝手な言い分」
「何ですって、このヘビ女!」
「むか」
「何よ!」
「前から目障りだった」
「それはこっちのセリフよ!」
「やるか?」
「やってやろうじゃない!」
身構えるミユとエウリュアレの間にムサシが慌てて割って入る。
「お、落ち着くでござるよ。今はそれどころではござらぬ。拙者に免じて今はギムレット殿の命令に従って欲しいでござる」
「ムサシ様がそうおっしゃるなら……」
「ムサシがそう言うなら仕方ない」
ミユとエウリュアレが渋々頷く。
「じゃあ、ムサシ先生はエウリュアレと一緒にドラゴン族の生徒と教師を引き連れて封印結界破壊に向かって。ユイコはムサシ先生達に封印結界の情報を伝えて。ボクは粛清部隊と1年1組と一緒に教室解放に向かうから」
ギムレットは自分の言葉に全員が頷くのを確認すると。
「作戦開始!」
鋭い声で叫んだのだった。
「しかし俺達1年1組の生徒は、何の役に立つんだ?」
ギムレットとならんで走りながら、知也は素直な疑問を口にした。
このメンバーで人工勇者を倒せるのはミユのみ。
今の実力では粛清部隊も1年1組も、人工勇者に手も足も出ないのは間違いないからだ。
「粛清部隊は情報部隊でもあるんだ。ルシファー学園の殆どの情報は水晶版で分かる。そして1年1組は怪我の治療、体力の回復、魔法による身体能力の底上げなどの為さ。1年1組はサポート部隊としての能力も高いんだ」
知也の質問にギムレットが答えた時。
ドン。
知也は何かにぶつかってしまった。
人工勇者だ!
「ぐわああ!!!」
ビックリするあまり、思わず大声を上げてしまう知也だったが。
「ひいぃぃぃぃ!」
驚いた事に、人工勇者も悲鳴を上げて立ち尽くしてしまった。
「や」
そこにギムレットが一撃すると、アッサリ倒れてしまう人工勇者。
「驚いたな、ボクの攻撃でアッサリと人工勇者が倒れてしまうなんて。防御を忘れるくらいトモヤの顔が怖かったんだな。さすがトモヤ! 魂魄すら消失させる、最恐の顔面だ」
地面に倒れている人工勇者を見下ろしながら、ギムレットが呟く。
「ドンドン言う事が酷くなってるぞ……」
小さく文句を口にする知也だったが。
「まさか立ってるだけで人工勇者を倒せるとは思わなかった。よし、これならトモヤも戦力として考えられる!」
弾けるような笑顔でそう言うギムレットに、知也は黙り込むしかなかった。
そんな知也に代わってミユがギムレットに話しかける。
「でもかなりの頻度で人工勇者と遭遇しています。これは大量に人工勇者が投入されているという事ですね」
「そうだね。でもその分、封印結界を守る人工勇者は減るから、ムサシ先生達が楽になるはずだよ」
つまり今のギムレット達は、囮役でもあるらしい。
そして次の教室の前でギムレットが囁く。
「じゃあキャス! 教室の様子を調べて。ミユ、突入の準備はイイ?」
それに無言で頷くミユだったが、ギムレットは知也を見てポンと手を打つ。
「ミユはいつでも突入できる態勢で、教室の前の扉で待機。トモヤは教室の後ろ側の扉から飛び込むと同時に出来るだけ大きな声を上げて!」
「は?」
訳が分からない、といった顔の知也をギムレットが教室後ろ側の扉の前にグイッと押しやる。
「いいからやって!」
ギムレットの剣幕に負けて。
「分かったよ。うおぉぉぉ!」
知也が仕方なく、言われた通りに教室に飛び込んで、大声を上げると。
『わひぃぃぃぃ!』
教室中が悲鳴に包まれ、全員が気絶して倒れてしまった。
人工勇者を含めて。
「ふ、計画通り。やはり知也の魂をも無限地獄に引きずり込む恐怖の顔に、人工勇者でさえ耐えられなかったか」
グフフと笑うギムレットに、知也はもう文句を口にする気も失せてしまう。
「はぁ。もう好きに言えよ……」
知樹は大きくため息をつくと、力なく呟いたのだった。
2020 オオネ サクヤ Ⓒ




