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第十一話  中々、屈折した女の子だな


               


「お嬢、マジですか?」

     

 タイラントは不安そうな目をギムレットに向ける。

     

「当ったり前だろ! ルシファー学園で最強のクラスって言ったらここしかないんだから。それに鬼に恨みを持っているのもね。たのもー!」

     

 時代錯誤な掛け声と共にギムレットが扉を開けたのは、ドラゴン族6年生の教室だった。


「むう。ヴァンパイア族の姫が何の用だ」

     

 午後の授業が終わると同時に入って来たギムレットに、入り口に1番近い席に座っていた生徒が問いかける。

 もちろん全員が省エネモード=人間の姿だが、強者だけが身に纏う強烈なオーラが漂っている。

     

「単刀直入に聞くけど、ドラゴン族で最強の生徒は誰?」

     

 そんなギムレットの質問に、1人の男子生徒が立ち上がる。

     

「我だろうな」

     

 素っ気ない言葉だったが、身に纏うオーラが他のドラゴン族と桁違いだ。

     

「うむ。彼、ヴリトラが全6学年の教室の中で最強なのは間違いない」     

「確かに」

     

 誰かの言葉に、他のドラゴン達が一斉に頷くのをチラリと見てからギムレットは口を開く。

     

「10年前に鬼がドラゴンを1発で気絶させた事があったけど、アナタが戦っても結果は同じだったかな?」

     

 ギムレットの言葉にヴリトラが怒鳴る。


     

「バカな事をぬかすな! それはドラゴンが戦いの素人だった頃の話! 己の身体を鍛え上げた上、訓練により戦闘力を極限まで高めた我にとって、もはや鬼など敵ではないわ!」     

「ひぃ!」

     

 怒りを露わにしたヴリトラの迫力に、タイラントは縮み上がってしまう。

 が、ギムレットは更に挑発する。

     

「ならそれを証明してみない?」     

「どういう事だ?」

     

 怒りのあまり半竜化しているヴリトラに、ギムレットは説明を始めた。

     

「ボクの教室に4本の角を持つ鬼が転入してきたんだ。粛清部隊のキャスでさえ逃げ出したくらいの強さを持った鬼がね。キャスのステータスはレッドの10だというのに」

     

 ギムレットの言葉を聞いて、ヴリトラは大笑いする。

     

「フハハハハハ、10! たったレッドの10だと!? 粛清部隊といってもその程度か! クククク、我のステータスを見せてやろう。ステータス表示!」

      

 ヴリトラが叫ぶと同期に表示されたステータスは。


 力                  1612     

 耐久力                1537     

 魔力                  884     

 ドラゴンファング・ドラゴンクロー   レベル4

     

 だった。

 もちろん文字は赤い。

     

「ドラゴン族は『ドラゴン・ホール』と呼ばれる修行場を作った。そこで地獄の修行をクリアして究極の肉体を手に入れた者だけが、ルシファー学園で戦闘技術を学ぶ事が許されるのだ」

     

 ヴリトラの言葉にギムレットは飛び跳ねて喜ぶ。

     

「やったぁ! じゃあ、鬼に挑戦するって事でイイんだね?」     

「うむ。というより、ドラゴン族が鬼を超えたという証明に、ぜひ戦ってみたい」

     

 頷くヴリトラに、他の生徒が口々に騒ぐ。

     

「待った! そういう事なら、何も最強のヴリトラ殿から戦う事はあるまい?」     

「そうそう。こういった事は下っ端から、と昔から決まっているだろう?」     

「ドラゴン・ホール出身のドラゴンの強さを世間に思い知らせるチャンスだ!」     

「私も加えていただきたい!」     

「最強生物の称号を再びドラゴン族のものに!」

「鬼に思い知らせる役は、ぜひオレに!」

     

「ハイハイ、じゃあ順番を決めて」

     

 思い掛けない事態にギムレットは、笑いがこみ上げてくるのを我慢しながらドラゴン族6年の生徒50人を集めて、知也と戦う順番を決めたのだった。






     

「放課後の今、アイツはここで空手の練習をしている筈よ」

     

 ギムレットはヒデキの空手道場の前で仁王立ちになって後ろを振り返る。

     

 そこに並ぶ50人のドラゴン族の姿に笑みを浮かべてから、ギムレットはヒデキの空手道場の扉を叩いた。

     

「たのもー。出稽古希望よ!」

     

「ほう、道場破りか。そんな命知らずがまだ、この世界にいたのか」

     

 道場からズイッと出てきたヒデキの前で、ギムレットが胸を張る。

     

「ここにトモヤという鬼がいるだろ? そのトモヤと戦いたいというドラゴン族がいるんだ。別に道場破りに来たワケじゃないよ」

     

 平然と言い放つギムレットに、ヒデキはドラゴン族の生徒達を見回してから、道場に向かって大声を出す。

     

「トモヤくん、ちょっと来てくれるかな」

     

「やた! ミンナ準備はイイ?」

     

 嬉々としてギムレットは振り返った。

     

「おう!」     

「楽しみだ」     

「早く戦いたいぜ」     

「腕が鳴るぜ」     

「いつでもこい!」     

「やってやるぜ!」    

「うおおおおおお!」

     

 やる気満々のドラゴン族の生徒達を見回してから、ギムレットは叫ぶ。

     

「トモヤ! 今日こそゴメンナサイと言わせてやるからなぁ!」

     

 そこに知也が道場の入り口からノソリと出てきた。

     

「え~~と、ヒデキさん、何事です?」

     

 呑気な口調でそう言う知也に。

     

「トモヤ! ドラゴン族がトモヤと戦ってみたいと言ってるんだ。この挑戦、ここで受けてもらうぞ!」

     

 ギムレットが正に王家の威厳を漂わせながら言い放った。

     

「さあ、1番手、行くのよ!」

     

 そしてギムレットが期待に満ちた目をドラゴン族の生徒達に向けるが……またもやイヤな空気が漂っていた。

     

「……ど、どうしたのかな? ボクの目が可笑しくなっちゃったのかな? 何だか顔色が悪いような気がしたりするんだけど……アハ、アハ、アハハ、そんな事ないよね~~、ボクの気のせいだよね~~?」

     

 しかし誰も言葉を口にしない。

 しないどころか、ダラダラと汗を流しながら下を向いて顔を上げようとすらしない。

     

「ちょっとちょっとちょっと!!」

     

 焦りまくるギムレットに、ヴリトラが弱々しく呟く。

     

「ヴァンパイアの姫よ、そなたは角が大きいほど鬼が強い事を知らぬのか?」     

「は?」     

「角の長さが5倍なら強さも5倍になるのだ」     

「ええええ!?」

     

 ヴリトラの言葉に、ギムレットは恐るおそる知也の角に目を向ける。

 どう見ても知也の角の長さは50センチ以上。

     

「今更ながら分かり切った事を聞くが、キャスの角は何センチだった?」

     

 ヴリトラの質問に、ギムレットは冷や汗まみれになりながら答える。

        

「じゅ、10センチくらいだったかな?」

     

「という事は、角が50センチの鬼はキャスの5倍強いという事だ。ちなみに角が1本増えたら強さが10倍になる事は知っているか?」

     

 更なるヴリトラの質問に、ギムレットはイヤイヤながら答えた。

     

「それはキャスから聞いた」

     

 そこでヴリトラは、ギムレットが絶対に聞きたくなかった言葉を口にする。

     

「つまりあの鬼の強さはキャスの500倍という事だ。キャスのステータスはレッドの10と言った

な。10の500倍という事は、あの鬼の力は5000という事だ。最低でな」     


 角の長さが5倍。そして角の数は、キャスより2本多いから、更に100倍。

 合計で500倍。子供でも分かる計算だ。


「という事は?」

     

 分かり切った事をギムレットは質問した。

 お願いだから否定して、という願いを込めて。

     

 でもヴリトラの答えは、そんな甘い期待など打ち砕く。

     

「力のステータスが1612しかない我に勝てる可能性などない。ましてや我以外の生徒達では絶望的だ」

     

 ヴリトラの言葉にギムレットが悲壮な顔で怒鳴る。

     

「今さらここでソレを言う!? じゃあ……全員でかかれ!」     

「え? え? え? 何の話?」

     

 事情が理解出来ずにオロオロする知也に代わって、ニヤリと笑ったヒデキがキッパリと言い切る。

     

「かまわんよ。ちょうど多人数を相手に戦う稽古をしていたところだ、最後に実戦練習ができるなんて、願ってもない。トモヤ君、相手をしてもらったらいい」     

「押忍!」

     

 稽古において、師範の言う事は絶対。

 だからトモヤはそれだけ口にすると、戦いの構えをとった。

    

『う』

     

 それだけで、かつて地上最強生物と呼ばれ、ドラゴン・ホールで肉体を極限まで鍛えた筈のドラゴン達が動けなくなる。

     

「どうしたんだよ! 全員でかかって来いなんて、馬鹿にされているんだぞ! ドラゴンの誇りに賭けて勝て!」

     

 ギムレットがドラゴン族の生徒に向かって怒鳴り散らすが。

     

「無理だ。あんな恐ろしい顔をした相手と戦う事など考えられない」

     

 1人のドラゴン族の生徒が重々しく呟く。

     

「相手に恐怖を感じると言う事が、どういう事か理解しているか? 自分では絶対勝てない相手、戦えば必ず殺される相手だから怖いと感じるのだ。本能が死を避ける為に、逃げろと囁くのだ。そしてその鬼を見た瞬間、魂が砕け散るほどの恐怖を感じた。つまり、どうやっても勝てない相手という事だ」

     

 そう言いながら、その生徒は下を向いてガタガタと震えている。

     

「何言ってるんだよ、ちょっと顔が怖いだけだろ! 戦ってみないと分からないじゃん! ドラゴン族の意地を見せろ!」

     

 大声で怒鳴るギムレットだったが、誰も顔を上げない。

     

「そ……そんなぁ……ドラゴン族でさえ? ……シッカリしろ! もうケンカ売っちゃったんだぞ! このまま無事に帰れるワケないだろ!」     

『う!』

     

 ギムレットの怒鳴り声に、ドラゴン族の生徒達はビクンと飛び上がった。

     

「どうせこのままじゃ殺されるぞ! 駄目もとで戦え!」

     

 ギムレットの言葉にドラゴン族の生徒達は覚悟を決める。


     

「そうだな。このままじゃ殺されるだけ」     

「なら死に花を咲かすか」     

「ドラゴンの最後の意地を見せてやる」     

「よし、一斉に襲いかかるぞ!」     

「準備はいいか?」     

「いくぞ!」     

「号令に合わせろ」     

「よーし!」     

「一」     

「二」     

「三! かかれ!」     

『うおぉぉぉぉぉぉ‼』

     

 ドラゴン族の生徒が一斉に叫び声を上げた……上げたのだが、その足は1歩も前に進んでいない。

     

「何!? 体が動かない!?」     

「これはまさか麻痺!?」     

「いや、石化では!?」     

「なら、体から力が抜けていくコレは、ライフドレインか!?」     

「息が出来ないのは……窒息効果?」     

「毒かもしれないぞ、目の前が真っ暗になってきた……」     

「そんなバカな! ドラゴンは常態異常無効のスキルを持っているんだぞ!」     

「なら、今の状態をどう説明する? お前は何の異常も感じてないのか?」     

「いや、いまにも死にそうだ……これはまさか、死の宣告!?」     

「イヤだ、死にたくない!」

     

 パニックに陥るドラゴン達に、知也は、ハァと溜め息をついた。

 知也にとって小さな溜め息だったが、実際には。

     

「ごはぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

     

 知樹は気づいていないが、とんでもないレベルの闘気を含んだ呼気は、ビリビリと大気を振動させた。 その大気の振動は、熱さや寒さを感じないはずのドラゴン達に、焼け爛れるほどの灼熱感と、凍りついた肉が剥がれ落ちるほどの凍結感をもたらす。

     

「何だ、この感覚は!」     

「体がガタガタと震える! まさかドラゴンである我が、寒いと感じているのか!?」     

「これが熱というものか? これだけで死を迎えそうだ」

      

 そして。

     

「もうだめだ! すまぬミンナ、死ぬなら故郷で死にたい!」

     

 恐怖に負けて!人が逃げ出した途端。

     

「ああ! 1人で逃げるなんてズルいぞ!」     

「にぃ抜けた!」     

「ワタシも抜けた!」     

「あ、待って!」     

「それならオレも逃げる!」     

「ごめんなさい!」     

「ヴァンパイアの姫よ、すまぬ!」

     

 ヴリトラを含めたドラゴン全員が逃げ出したのだった。

     

 ぴう、と風の音だけが空しく響く中、後に残ったのはギムレットとタイラントのみ。

     

「結局、何の騒ぎだったんだ?」

     

 よく事情が飲み込めない知也がそう尋ねた瞬間。

     

「いや~~、何だったんだろね? ボクにも良く分かんないや。アハ、アハ、アハハ。じゃあね~~」

     

 ギムレットは引きつった顔でそれだけ言うと、一目散に走り去っていった。

     

「お、お嬢! 置いていかないでくだせぇ」

     

 何度も転びながらタイラントがギムレットの後を追う。そんなギムレットの後ろ姿を眺めながら、ヒデキがニヤニヤと笑う。

     

「トモヤくん、中々屈折した女の子だな」     

「何の事です?」     

「どうしてしつこくキミに絡んでくるのか、それは……まあイイか。さ、稽古に戻りなさい」     

「押忍」

     

 素直に道場に戻る知也の背中を楽しそうに眺めてヒデキは呟いたのだった。

     

「青春だな」




2020 オオネ サクヤ Ⓒ

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