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引っこ抜いたら異世界で マンドラゴラを相棒に開拓者やってます  作者: 平平 祐
第一章・引っこ抜いたら異世界で……
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008・白い部屋 下

「は、ははは……よ、よくできた夢だな~」


 と、狩夜が引き攣った笑みを浮かべていると、レイラは『次へ』をクリックした。すると、初めて見る別の項目が現れる。だが――


「あれ?」


 そこには『〔光属性魔法Lv1〕・1000SP』『〔闇属性魔法Lv1〕・1000SP』といった具合に、『光』『闇』『月』『火』『水』『木』『風』『土』の八つの魔法項目と、先程と同じく『次へ』『戻る』があるのだが、魔法項目はすべて灰色になっていた。どうやらこれらの選択肢は、現在選択できないらしい。


 狩夜が「なんでだろ?」と、タッチパネルを覗き込みながら首を捻っていると、頭の上から“ギリギリ”と、大きな歯ぎしりが聞こえてくる。


「レイラ?」


 名前を呼びながら、狩夜は頭の上に両手を伸ばす。レイラの胴体を左右から掴み、その小さい体を胸元へと運んだ。


 狩夜の目に映ったレイラは、とても悔しそうな顔をしていた。歯を食いしばりながら、その選択できない八つの魔法項目を見つめている。


「レイラ、どうしたんだよ?」


 再び声をかけると、レイラは、はっとしたように体を震わせた。次いで、気持ちを切り替えるように顔を左右に振り、蔓で『次へ』をタッチする。


 その後、レイラの動きに迷いはなかった。何か目当ての項目でもあるのか、もの凄い速さで『次へ』を連続タッチする。狩夜の目の前で、選択肢が表示されては消えていく。


 しかしまあ色々な項目があった。


 『〔長剣Lv1〕・1000SP』とか『身長を1cm高くする・1000SP』とか、凄いものになると『1歳若返る・10000SP』とか『性別を変える・10000SP』なんてのもあった。


 さすが夢。常識なんて糞食らえ、である。


 ほどなくして、レイラの連続タッチは止まった。そこには『〔ユグドラシル言語〕・1000SP』の項目がある。


「ユグドラシル言語?」


 当然だが、聞いたことのない言語体系であった。


 レイラは、その『〔ユグドラシル言語〕・1000SP』の項目をタッチ。するとタッチパネルに『ソウルポイントを1000ポイント使用し、叉鬼狩夜の魂に〔ユグドラシル言語〕スキルを転写します。よろしいですか? YES NO』と表示された。


 一度狩夜の方に視線を向けた後、レイラは『YES』をタッチする。


『叉鬼狩夜の魂に〔ユグドラシル言語〕スキルを転写しました』


 白い部屋にお決まりの声が響いた。メニュー画面に戻ると、謎の数字がきっちり『0・SP』になっている。


 レイラは蔓を伸ばし、タッチパネルの右上にある×印、閉じるボタンをタッチする。するとタッチパネルに『ソウルポイントの使用を終了しますか? YES NO』と表示された。レイラは迷うことなく『YES』をタッチする。すると、ローポリな狩夜の胸の中に、タッチパネルは消えていった。


 狩夜の両手の中で「ようやく終わったよ~」と言いたげに、レイラは全身から力を抜き、右腕から伸ばしていた蔓を収納した。そして、体を大きくのけ反らせ、狩夜の顔を見つめてくる。


 目が合うと、レイラは笑った。次いで「またね」と言いたげに、右手を振る。


 そのレイラの行動に、狩夜が訝しげに首を傾げた瞬間、唐突に明晰夢が終わった。



   ●



「ん? あれ?」


 何やら浮遊感のようなものと共に目を覚まし、狩夜は掛布団を持ち上げながら上半身を起こした。


「って、あれ? 掛布団?」


 狩夜が掛布団だと思ったものは、よく見ると巨大な葉っぱであった。そして、狩夜の下にある葉っぱの敷布団と同じく、レイラの頭部に繫がっている。


 どうやら狩夜が寝入った後に、レイラは残ったもう一方の葉っぱも巨大化させ、狩夜の上にかけてくれたようだ。


 そのレイラはというと、火の入ったかまどの前で体育座りをしていた。右手には乾いた流木を持っている。そして、狩夜が目を覚ましたことに気がついたのか、首だけで振り返り、狩夜の方に顔を向けた。


 「おはよう」と言いたげに右手を上げるレイラ。狩夜も葉っぱの敷布団から立ち上がり「おはよう」と返す。すると、レイラは巨大化させていた二枚の葉っぱを収縮。いつも通りの大きさへと戻した。


「火、ちゃんと見ててくれたんだな」


 手製のかまどには、レイラが一晩守った火が入っていた。レイラは誇らしげな顔で、コクコクと頷く。


 頑張ったレイラを労うために、右手で頭を撫でてやる。レイラに対する恐怖心を払拭しきれていないので、少しぎこちない動きになってしまったが、それでもレイラは嬉しそうだ。


 気持ちよさそうに目を細めるレイラ。狩夜は、そんなレイラに向かって口を開く。


「えっと、その……レイラ。一晩中火の番をさせて……ごめん。すごく眠くて、途中で起こしてくれって伝え忘れてた。ほんとにごめん。辛かったでしょ?」


 狩夜が大変申し訳なく思いながらこう言うと、レイラは笑顔で首を振り「全然平気だったよ!」と胸を張った。確かに疲れは見えないが、それとこれとは話が別だ。


「そっか……すごいな、君は。でも、次はちゃんと僕もやるからさ。今度は交代制で、ね」


 狩夜がこう言うと、レイラは「私がやるから狩夜はちゃんと眠ったほうがいいよ」と言いたげに、首を左右に振る。


「いや、でもさ、さすがに悪いって言うか……」


 再度口を動かす狩夜であったが、それでもレイラは譲らなかった。「狩夜は眠らないとダメなの!」と、厳しい表情で何度も首を左右に振る。


 狩夜は首を傾げた。レイラがこんなにも頑ななのは初めてだ。何か理由があるのかもしれない。


 思い当たるのは、昨日見た奇妙な夢。レイラも登場した、あの夢。


『叉鬼狩夜の筋力が向上しました』『叉鬼狩夜の体力が向上しました』『叉鬼狩夜の魂に〔ユグドラシル言語〕スキルを転写しました』


 狩夜の脳裏に、夢の中で聞いたあの声が蘇る。


 とりあえず、腕を曲げて力瘤を作ってみたり、両手を開いたり閉じたりしてみたが――別段変わったようには感じなかった。レイラも「何してるの?」と言いたげに、狩夜を見つめながら首を傾げている。


 狩夜は恥ずかしくなって、レイラから顔を背けた。そして思う。


 ――馬鹿か僕は、夢を本気にするなんて、どうかしている。


 赤くなった顔をごまかすために、狩夜は川に向かった。両手で水を掬い、顔を洗う。次いで喉を潤した。


「おいしい!」


 ――やっぱりおいしい。この川の水は最高だ!


 顔を洗った後は朝食作りである。昨日と同じようにレイラにウサギモドキを出してもらい、解体。レイラが守った火とかまどで、その肉を焼き上げたら完成だ。もちろん美味しくいただく。


「よし。それじゃいこう!」


 朝食と火の始末を終えた後、気合を入れるように叫ぶ。レイラも「おー!」と言いたげに、両腕を突き上げた。次いで狩夜の背中に飛びつき、頭の上へとよじ登る。


 目指すは川下。人里を探しにいざゆかん。


 気持ちを新たに、狩夜たちは川に沿って山下する。そうやってしばらく歩くと、川辺に佇む大きな岩の姿が目に入った。夢の中で聞いたあの声が、再度狩夜の脳内で蘇る。


『叉鬼狩夜の筋力が向上しました』


 狩夜は大きな岩をじっと見つめた。次いで、歩きながら右手をきつく握り締める。そして――


「おりゃあ!」


 大きな岩のすぐ横に差し掛かると同時に右腕を突き出し、巨大な岩を殴りつけた。狩夜の頭上では、レイラが目を見開き息を飲む。


 しばしの沈黙の後――


「いってぇぇええぇ!」


 狩夜は、有らん限りの絶叫を上げた。


 ――痛かった。すんげー痛かった。やっぱり駄目だった。全然強くなんてなってなかった。僕はなんて馬鹿なんだ!


 狩夜はすぐさま川に駆け寄り、川の水で右手を冷やす。問題なく動くので、どうやら骨に異常はなさそうだ。


 狩夜の頭から飛び降りたレイラが「大丈夫? 大丈夫?」と言いたげに、狩夜の回りをちょこまかちょこまか走り回った。なんだか非常に申し訳ない気持ちになってくる光景である。


 川の水で冷やし続けていると、どうにか痛みは治まった。狩夜は安堵の息を吐いてから、ゆっくりと立ち上がる。レイラもほっとした様子で、狩夜の体に跳びついた。


 再び川下に向かって歩きながら、なんとも馬鹿なことをしたと後悔する狩夜。そして、やっぱりあれはただの夢だったんだなと、再確認。


 あんな風に――ゲームのように強くなれるのなら、苦労はない。


 今はとにかく人を探そう。そして情報を集めよう。そう狩夜は心に決めた。


 そんな狩夜の背後で、何かが割れるような音がしたが――狩夜は気にせず、前へと進む。


 川下を目指して、狩夜たちは歩き続けるのであった。

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