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引っこ抜いたら異世界で マンドラゴラを相棒に開拓者やってます  作者: 平平 祐
第一章・引っこ抜いたら異世界で……
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029・救えなかったもの 上

「う~ん」


 狩りを終え、開拓者ギルドでクエストの報酬を受け取った狩夜は、考えごとをしながらギルドの出入り口を潜る。


 現在狩夜の頭の中は、とてもじゃないが成功とはいえない先程の狩りの内容と、その反省で埋め尽くされている。中でも、一番の反省点は――


「やっぱり……戦いに夢中になって、視野を狭めたのが失敗だったな」


 そう。ベアとの戦いに集中するあまりに、周囲への警戒がおろそかになり、ワイズマンモンキーの接近に気付けず、奇襲を許した。レイラがいなければ確実に死んでいたであろう大失敗である。


 魔物との戦いにおいて、正々堂々の一騎打ちなど成立する方が稀だ。常に別の魔物からの不意打ち、横撃、挟み撃ち等を警戒する必要がある。理解していたつもりではあったのだが――つもりでしかなかったようだ。未熟としか言いようがない。


「ギルドがパーティを組むことを推奨するわけだ……」


 人間一人の視野はあまりに狭く、不安定で、不確かだ。それを数で補うのは、実に理にかなった対処法である。


「僕もパーティを組んだ方がいいのかなぁ……」


 と、狩夜が不安げな顔で呟いた、その時――


「よし! 次の木材とってくれ!」


「おい! ここぐらついてるぞ! もっとしっかり結べ!」


「ゆっくり持ち上げろ、ゆっくりだ」


 村の出入り口の方から、なにやら威勢のいい声が聞こえてきた。狩夜がそちらに顔を向けると、防衛用の柵の設置作業に従事するティールの男衆の姿が目に映る。


 昨日レイラが切り倒し、切り分けた大径木。その木材を使い、早速柵の設置作業を始めたらしい。


 地面に対して垂直かつ等間隔に突き立てられた木材。それらが短く切り分けられた木材と、周囲の森で採取されたであろう太くて丈夫な蔓で手際よく連結されていく。作業する男衆の周囲にはガエタノ率いる護衛の姿があり、水鉄砲を構えながら周囲に鋭い視線をめぐらせていた。


 汗だくになって作業するティールの男衆。辛い重労働にもかかわらず、皆の表情は明るい。ティールをこの手で復興するのだと、使命感に燃えている。


 狩夜はしばらくその光景を見つめてから、漠然と呟いた。


「レイラ、僕たちも手伝おうか」


 ティールの復興を手伝いたい。そういった気持ちももちろんある。だが、沈んでいても仕方ない。狩り以外で体を動かして、気を紛らわしたい。そんな思惑もあっての言葉であった。


 この言葉にレイラは「いいよ~」と言いたげに、ペシペシと頭を叩いてきた。レイラの賛同を得た狩夜は、作業現場に向けて足を動かす。


 すると――


「魔物発見! ラビスタです! 数一!」


 護衛の一人が大声を上げ、周囲に警戒を促してきた。


 村全体に緊張が走ったが、それは一瞬のこと。ラビスタ一匹なら大丈夫だろうと、すぐに安堵の息がティールの至るところから聞こえてくる。


 だが、誰にでも苦手というものはあるらしく――


「うえぇえぇ!? ラビスタ!? どこ! どこだよ!?」


 柵の上部を担当していた男衆の一人が、目をむいて慌てふためき、顔を上下左右に動かした。そして、手にしていた木材を勢いよく放り出してしまう。


 その木材は放物線を描いて宙を舞い、とある少年に向かって飛んでいった。


 銀髪で褐色の肌。初代勇者の血筋であるブランの木の民である。年齢は十歳未満と思われ、身長は狩夜よりも更に低い。そんな少年が、顔を地面に向けつつ、村の中をとぼとぼと歩いていた。


 下を向いて歩いているせいか、少年は自身に向かって飛来する木材の存在に、まったく気づいていない。


「危ない!」


 狩夜は叫び、駆けだした。強化された敏捷をいかんなく発揮し、少年と木材との間に体を割り込ませる。そして――


「よっと」


 木材を右手でキャッチして、ほっと一息。それと同時に「ラビスタ逃走! 見失いました!」という護衛の声が聞こえてくる。


「馬鹿野郎! あぶないだろうが!」


「ラビスタ一匹にそんなに驚くなよ。カリヤさんがいなかったらどうなってたか」


「す、すまねぇ。俺、ラビスタだけはだめなんだ。子供の頃に耳を齧られて以来、どうも苦手でよぉ」


 そう言いながら、木材を放り投げた男衆の一人が狩夜へと視線を向け「どうもすみません」と頭を下げてきた。狩夜は左手を上げ「大丈夫です」と言葉を返す。


 受け止めた木材を近くの民家に立て掛けた後、狩夜は助けた少年へと向き直る。そして、笑顔を浮かべながらこう尋ねた。


「危なかったね。怪我はない?」


 この言葉を受けた少年は、しばし狩夜の顔を見つめた後――


「別に、助けてくれなんて言ってない……」


 こう告げると同時に、右足で狩夜の左足を蹴っ飛ばしてきた。


 少年の思いがけない行動に、狩夜は驚き――直後、戦慄した。自身の頭の上から、凄まじい怒気を感じたからである。


 狩夜が恐る恐る視線を上に向けると――


「――っ!?」


 メロンのようなしわを全身に浮き上がらせ、凄まじい形相で少年を睨む、今まで目にした中で、最も恐ろしい姿をしたレイラが、その目に飛び込んできた。


 怒ってる。すっごく怒っている。狩夜に一撃叩き込んだ目の前の少年に対して、レイラは怒り心頭中だ。間違いなく激おこである。


 狩夜は慌てて両手を頭上へと運び、レイラを上から抑え付けた。次いで、早口で言葉を紡ぐ。


「レイラ、落ち着いて。僕は大丈夫。全然痛くなかったから。怒らないであげて。小さな子供がしたことだから、ね。お願い」


 必死にレイラを宥める狩夜。そのかいあってか、レイラは少年に対して明確な行動をとってはいない。とりあえず、取り返しのつかない事態は避けられたようだ。


 だが、油断はできない。


 狩夜がレイラを宥めるのをやめたり、狩夜が少しでも苦痛を訴えれば、レイラはすぐさま少年に対してなんらかの動きを見せるだろう。なぜならば――


 ゲシゲシ。


 少年は、狩夜がレイラを宥めている最中にも、狩夜の足を何度も蹴ってきたからだ。今も無言で狩夜の足を蹴り続けている。もっとも、子供の脚力ではソウルポイントで強化された狩夜の体はびくともせず、痛みはまったく感じなかった。


 それでも足に衝撃が走るたび、反射的に口から出そうになる「痛い」という言葉。それを鋼の意思で噛み殺しながら、狩夜はこの状況をどうしたものかと途方に暮れる。すると――


「こらぁザッツ! カリヤ殿に何をしとるかぁ!!」


 護衛の指揮を他者に任せたらしいガエタノが、怒声を上げながら狩夜と少年――ザッツという名前らしい――のところへと駆け寄ってきた。


 ザッツは、狩夜の足を蹴るのをやめ、ガエタノの方へと視線を向ける。


「ガエタノ伯父さん……」


「カリヤ殿はこのティールの救世主だぞ! お前だって病気を治してもらっただろうが! 恩人の足を蹴るなどと、いったい何を考えている! 木の民全員の顔に泥を塗るつもりか!」


 ガエタノは、ザッツの前に立つなりその頭を右手で鷲掴みにし、狩夜に向かってむりやり頭を下げさせる。その後、自らも狩夜に向けて頭を下げ、こう口を動かした。


「ほら、ちゃんと言葉にして謝るんだ」


 ザッツは、ガエタノに頭を鷲掴みにされたまま再び狩夜を見つめ――


「誰が謝るか」


 先ほどの焼き増しのような動作で、狩夜の足を蹴ってきた。


 ガエタノの「ザッツ!!」という怒声がティールの村に響く中、狩夜は自身の頭の上で “ブチ” という音がするのを確かに聞いた。そして、不穏な気配と共に動き出したレイラの葉っぱを、即座に両手で握り締める。


「……なんでだよ」


 自らの頭上に居るレイラの葉っぱを両手で握り締めるという、端から見るとかなりシュールな状況にある狩夜。そんな狩夜を、ザッツは肩を震わせながら睨みつけ、口を動かす。


「なんで……なんでもう少し早く、この村に来てくれなかったんだよ……」


「え?」


「もう少し早くお前が来てれば、父ちゃんも、母ちゃんも、死なずにすんだのに!」

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