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引っこ抜いたら異世界で マンドラゴラを相棒に開拓者やってます  作者: 平平 祐
第一章・引っこ抜いたら異世界で……
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020・クエストと階級 下

「上級の依頼は、立場のある方々からの無理難題と言ったところですね。今からお見せするのは、木の民の王であらせられる、マーノップ・セーヤ・ウルズ陛下直々の依頼です。ですが、受ける開拓者はほとんどいないのが現実です」


「国王陛下直々の依頼……ですか」


 国王陛下。つまりはイルティナの父親である。狩夜は、顔を真剣なものに変えながら、そのカードに書かれた内容に目を通した。




 依頼名【主の討伐】


 依頼者・マーノップ・セーヤ・ウルズ


 内容・生息地、固体名は問わない。ユグドラシル大陸に生息する主を討伐せよ!


 報酬・50000ラビス と《魔法の道具袋》




 ――もったいないことしたぁぁあぁぁ!!


 狩夜は、依頼カードを見つめながら心の中で絶叫する。


 狩夜の脳裏に再度浮かび上がるのは、昨日襲ってきた漆黒の四足獣。あの森一帯を支配していたと思しき、強大な主の姿だ。


 そう、狩夜とレイラはすでに主を倒している。この依頼の達成条件を、知らず知らずの内に満たしていたのだ。しかし、その証拠がない。狩夜たちが主を倒したと、ギルドに対し証明できないのだ。あの四足獣は、すでにレイラの腹の中である。


 狩夜は、一抹の期待を込めて、頭上に居座るレイラに視線を向けてみた。だが――


 フルフル。


 レイラは「ごめん、無理だよ~」と言いたげに、首を左右に振る。


 狩夜は、がっくりと両肩を落とし、うなだれた。


 ――だろうな。そうだと思ったよ。口で丸飲みじゃなく、肉食花で咀嚼してたもんな。


 レイラの体には二つの口がある。一つは顔にある口。もう一つは、普段は隠している肉食花だ。


 顔にある口は、恐らくレイラの本当の口ではない。大きさ不問、重量制限なしの、四次元ポケットのような器官に繫がる入口だ。その倉庫のような器官でも、血液だけは吸い上げ、自身の養分としているようだが、それ以外はそのまま残る。やはり、生物学上の口、消化器官系の最前端であるとは言い難い。


 レイラの本当の口は、頭の天辺から現れる肉食花のほうなのだろう。ハエトリグサとバラを足して二で割ったような、禍々しくも美しい肉食花。それこそが、魔草・マンドラゴラの口なのだ。


 漆黒の四足獣を食らったのは肉食花のほうである。顔の方の口と違い、吐き出したりは無理らしい。


 狩夜は「しかたない」と胸中で呟きながら、顔を左右に振った。50000ラビスもの大金と、《魔法の道具袋》とやらは確かに惜しいが、ここはすっぱり諦めたほうがいい。ないものはない。ここは気持ちを切り替えて、今すぐできる依頼をこなすべきだ。


 狩夜は「ありがとうございます。参考になりました」と言いながら、【主の討伐】の依頼カードをタミーに返却する。この依頼はまだ早い。初志貫徹。安全第一だ。


「他に何か質問はございますか?」


 【主の討伐】の依頼カードを手早くしまいながら口を動かすタミー。そんな彼女に対し、狩夜は昨日から気になっていたことを尋ねる。


「あの、何度か耳にした言葉なんですけど、ハンドレットとか、サウザンドってなんなんですか? 百と千って意味ですけど、開拓者と何の関係が?」


 先ほどタミーが口にした「ハンドレットの開拓者」。そして、イルティナとメナドが昨晩口にした「サウザンドの開拓者」。階級の様なニュアンスで聞こえるが、いったいどのような意味があるのだろう?


「それは、開拓者の大雑把な実力を示す言葉ですね。ハンドレットは、開拓者用語で『駆け出し』を意味します。そして、白い部屋での基礎能力向上に必要なソウルポイントが、一以上、百未満の開拓者を指す言葉でもあります」


 タミーの説明に、狩夜は「ああ、なるほど」と頷く。やはり、階級に近い意味の言葉であった。


 魔物をテイムした人間は、白い部屋でソウルポイントを使い、自身を自由に強化できる。そして、その中には基礎能力向上ともいうべき、四つの選択項目があるのだ。


 そう『筋力UP』『敏捷UP』『体力UP』『精神UP』の四つである。


 これら四項目は、始めは1SPで選択できるのだが、どれか一つを選択し、基礎能力を向上させると、四項目すべてが一律で1SP値上がりするのである。


 狩夜は1SPで『筋力UP』を、2SPで『体力UP』を選択、向上させている。つまり、次に何かしらの基礎能力を向上させたければ、3SPを消費しなければならない。そして、その次は4SP、さらに次は5SPと、際限なく増えていくのである。


 狩夜の基礎能力向上に必要なソウルポイントは、現在3SPであり、一以上百未満。つまり、叉鬼狩夜はハンドレットの開拓者で、『駆け出し』なのだ。


「それじゃあ、サウザンドは……」


「はい。開拓者用語で『一人前』。基礎能力向上に必要なソウルポイントが、百以上、千未満の開拓者を指す言葉です」


 予想通りの言葉が返ってきた。こうなると、その上を意味する言葉はおのずと想像できる。


「つまりその後は、テンサウザンド、ハンドレットサウザンド、ミリオンって続くんですね?」


「その通りです。それらは開拓者用語で『ベテラン』『最高峰』『未到達領域』という意味があります」


「『未到達領域』ってことは、ミリオンの開拓者は……」


「はい。いまだかつて、ミリオンの高みに上り詰めた開拓者は、誰一人として存在しません。そもそも、テンサウザンドですら数十人。ハンドレットサウザンドにいたっては、一人しか存在しません」


「なるほど」


 中々に険しい道のりのようだ。命懸けの仕事な上に、魔物が初めてテイムされたのが五年前なのだから、仕方ないといえば仕方ない。


 狩夜は何度か頷いた後で納得し、次いで身を乗り出した。そして尋ねる。ハンドレットサウザンドにまで上り詰めた、このイスミンスールにおける、最強の開拓者の名を。


「ズバリ、その一人とは?」


「水の民にして、世界最強の剣士。“流水”のフローグ・ガルディアス様です」


「フローグ・ガルディアス……」


 それが、イスミンスール最強の開拓者の名前。“流水”というのは二つ名だろう。


 ――二つ名とかまじかっけー。燃える。いつかは僕も、二つ名がもらえるような開拓者になりたいものである。


 叉鬼狩夜。現在十四歳。中学二年生真っ盛りであった。


「それにしても、開拓者の階級は基礎能力ありきなんですね。スキルは関係ないんですか?」


 スキルも、開拓者の強さを測る重要な判断材料だと思うのだが? と、狩夜は首を傾げる。


「そうですね……現状の開拓者は、スキルよりも基礎能力を重視します。どれほどすぐれた技を持っていても、ハンドレットの開拓者では、主や、ユグドラシル大陸の外に生息する魔物にはかないませんから」


 高度な技よりも、単純な力だと力説するタミーさん。スキルなど飾りだと言わんばかりである。きっと、魔法がないのも基礎能力を重要視する要因の一つになっているのだろう。金属不足で魔法がない。となれば、魔物への攻撃手段は、原始的な武器での近接戦闘がメインになるはずだ。そうなると、やはり身体能力がものをいう。


「先程名前が出たフローグ様ですが、彼はこのような言葉を口にしています。『開拓者にとって重要なのは、一に勇気。二に基礎能力。三にスキルだ』と」


「含蓄のある言葉ですね」


 似た言葉が地球にもある。『一胆、二力、三功夫』という奴だ。武術に置いて重要なのは、勇気、力、技の順であるという意味である。


「カリヤ様も、しばらくは基礎能力を向上させることに注力した方がよろしいかと。それに、スキルを使わなければ絶対に倒せないような魔物は、少なくともユグドラシル大陸には存在しません」


 タミーは「棍棒で頭蓋をかち割れば、大抵の魔物は死にますわ」と笑顔で口にした。女性にあるまじき物騒な物言いに、狩夜は若干顔を引きつらせる。


 まあ言っていることはもっともだ。生き物を殺すのに技など要らない。ほとんどの生き物は、何かしらの鈍器で力の限りぶっ叩けば、大抵死ぬ。


 先人に習い、当面は基礎能力向上に全ソウルポイントを注ぎ込もうと、狩夜は心に決めた。


「他に何か質問はございますか?」


「えっと……いえ、特にありません。クエストはとりあえず、この四つを受けてみようかと思います」


 タミーがすすめてくれたデイリークエスト。狩夜は、その依頼カード四枚を手に取った。


 【ラビスタ狩り】【害虫駆除】【ボア狩り】【ベア狩り】。これらの依頼を日々こなし、ソウルポイントとお金を地道に稼ぐ。それを当面の行動指針とした。


 【薬草採取】は今日のところはやめておく。狩夜には、この世界の薬草についての知識がまるでない。間違って毒草を採取したらことだ。


「いろいろありがとうございました。それじゃあ、僕たちは森に――」


「あ、カリヤ様、少々お待ちを。最後に、もう一つだけ」


 頭を下げ、背中を向けようとした狩夜を引き留めるタミー。そして、彼女はこう言葉を続けた。


「基礎能力の向上ですが、特別な事情がない限り、まずは『筋力UP』『敏捷UP』『体力UP』『精神UP』を一度ずつ選択することをお勧めいたします」


「え? なぜですか?」


「一と零では大違いということです。人間の壁を破るためとでも言いましょうか……とにかく、全ての基礎能力を一度ずつです」


 タミーは「いいですね?」と真剣な顔で念を押してきた。狩夜は一度首を傾げてから「わかりました」と答える。


「それじゃあ、今度こそ森に向かいます。また来ますので」


 再び頭を下げ、今度こそタミーに背中を向ける狩夜。タミーは「またのお越しお待ちしております」と言い、狩夜を送り出してくれた。


 ついに開拓者として活動開始である。さっそく依頼をこなそうと、狩夜はレイラと共に森へと向かった。

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