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152・蛇 下

「……」


 狩夜の仮説を聞き、口をあんぐりと開け絶句する牡丹。そんな牡丹を無視して、狩夜はなおも仮説を続ける。


「おそらく、中央の首だけが高レベルの〔耐異常〕スキルを有しているのでしょう。でなければ、オーガ・ロータスの花粉に満たされていたこの地下空間を、自由に移動できることへの説明がつきません」


「オーガ・ロータスの異常状態を無効化しているというのなら、Lv6以上は確実ですね。まあ、グラファイト・バイパーならば無理のある数字ではありませんが」


 狩夜の仮説を補足するように口を動かす矢萩。その言葉に頷きながら、狩夜は矢萩に向けて問いを投げる。


「グラファイト・バイパーって確か、〔耐異常〕スキルを生まれ持っている上に、僕ら人間よりずっとLvを上げやすいんですよね?」


「はい。習得、及びLvの向上に必要なソウルポイントの量は、我々の十分の一。この特性はグラファイト・バイパーだけでなく、有毒の魔物全般、及び、火の民の一部に見られます」


 ここで一度言葉を区切った矢萩は、自嘲するように小さく溜息を吐いた。次いで、こう言葉を続ける。


「私も、〔耐異常〕スキルをLv9まで上げておくべきでした。そうすれば、オーガ・ロータスによる異常状態に抗うことができたのに」


「いや、それはしかたないんじゃないですか? 〔耐異常〕スキルをLv5まで上げておけば、ミズガルズ大陸に生息する魔物からの異常攻撃は、大概防げるんですから。それに、スキルをLv9まで上げるのは、必要なソウルポイントの量を考えると現実的じゃない――って、矢萩さんたちはそうでもないのか」


 Lvが設定されているスキルの習得、及びLvの向上に必要なソウルポイントは次の通り。


 Lv1 — 1000SP


 Lv2 — 2000SP


 Lv3 — 4000SP


 Lv4 — 8000SP


 Lv5 — 16000SP


 Lv6 — 32000SP


 Lv7 — 64000SP


 Lv8 — 128000SP


 Lv9 — 256000SP


 この様に、Lvが1増えるたびに必要なソウルポイントが倍、さらに倍と増えていく。最高値であるLv9まで上げるには、実に五十一万千ものソウルポイントが必要なのだ。


 一つのスキルを最大値にまで上げるのは、テンサウザンドになるよりも難しく、その道のりは果てしなく遠い。Lv9まで上げておけばよかった――などと軽々しく口にできるのは、累積ソウルポイントが五千万を超えており、基礎能力よりもスキルの習得、向上を優先してきた矢萩と牡丹ぐらいなものだ。


 そして、グラファイト・バイパーは、その果てしなく遠い道のりを、〔耐異常〕スキルに限り十分の一に短縮できる。


 Lv9までに必要なソウルポイントは五万千百。ハンドレットサウザンドを含む多くの開拓者を屠り、あの怪物もカルマブディスと同じく六万前後のソウルポイントを得ているはずだ。十分に手が届く数字である。


「そ、それにしてもあの怪物、ボク――じゃない、俺たちの方に全然近づいてきませんね? なぜでしょうか?」


「僕たちが普通に動いてるのを見て面喰ってるんじゃないですか? おおかた、主人であるカルマブディスから『倒れて動かなくなっている人間を襲え』とでも命令されてるんでしょ。獲物が上から落ちてきて十分な時間がたった。そろそろ動かなくなっただろう。今日はご馳走だ――って様子を見に来たら、僕たちは動いてるし、オーガ・ロータスはないし、主人は近くにいないしで、どうしたらいいかわからなくなってるんですよ、あいつ」


「オーガ・ロータスの異常状態で身動きできなくしたところに、あの怪物をけしかける。なるほど、テンサウザンドでも負けるわけですね」


「うへぇ……牡丹たち、あんなのの餌にされるところだったんだぁ……」


 おっかなびっくりされた青葉の質問に対し、狩夜、矢萩、牡丹の順に言葉が返される。専門家たちの返答に、一人だけ門外漢である青葉は「な、なるほど」と感心したように頷いた。次いで言う。


「と、とにかく、あれを倒さないことには先に進めないのは確かです。矢萩、牡丹、お願いします」


「「「……」」」


 この言葉に、先ほどまで饒舌だった三人が一斉に沈黙した。


 青葉の言うように、あの怪物を倒さないことには先に進めないのは事実。狩夜たちは早急にあれを撃破し、なんとしても地上に帰還しなければならない立場にいる。


 あの怪物の累積ソウルポイントは、主人であるカルマブディスと同じく六万前後。多くても七万ぐらい。しかもその大半を〔耐異常〕スキルの向上に消費しているのだから、あの怪物の基礎能力はサウザンド止まり。テンサウザンドである矢萩と牡丹なら、倒すのは簡単。


 青葉はそう考え、先ほどの言葉を口にしたのだろう。


 狩夜も理性ではそう考えた。事前情報から判断すれば、あの怪物相手に矢萩と牡丹が苦戦するわけがない。


 だが、理性が出したその考えを、野性が猛烈に否定する。狩夜の中の野性は、次のように声高に叫んでいた。


『あれはやばい! 不用意に近づくな! 独力で倒そうなどとは絶対に思うなよ!』


 そんな野性の意見を無視して、あの怪物がサウザンド級の魔物――毎日のように狩り続け、最近一人でも渡り合えるようになってきたユグドラシル大陸の主たちと同等の存在であると判断するのは、狩夜には無理だった。それどころか、今まで自身が遭遇した魔物の中で、最強の存在であるように思えてならない。


 矢萩、牡丹の目にも、あの怪物は与し易い相手とは映らなかったようだ。余裕なんて一切ない、真剣そのものの眼差しで、怪物を凝視している。


 可能ならば今戦うのは避けたい。おそらく二人はそう考えていることだろう。だが、草である二人にとって、上に立つ者である青葉の言葉は絶対だ。加えて、青葉たち三人には狩夜以上に時間がない。


 ほどなくして、矢萩と牡丹の両名は、意を決したように怪物へと歩を進めた。


「ではいってまいります。危険ですので、青葉様は決して近づかないようお願い申し上げます」


「叉鬼狩夜、青葉様のことよろしく~」


「あの、僕とレイラも一緒に――」


「いえ、叉鬼殿にもしものことがあれば、オーガ・ロータスによる異常状態の治療法が失われ、すべての望みは絶たれてしまいます。ここは我ら二人にお任せください」


 こう言って遠ざかっていく二人の背中を見つめながら、青葉は「武運を!」と叫んだ。そんな青葉の隣で、狩夜は生唾を飲む。


 非公式ながら、矢萩も、牡丹も、世界最強クラスの開拓者である。そして相手は未知の怪物であり、状況が状況だ。力の出し惜しみはしないだろう。


 テンサウザンドの開拓者、その全力戦闘を始めて自身の目で見ることができるとあって、狩夜の体にも力が入る。


 今後の試金石になるであろう戦い。その全てを見届けるべく、狩夜はその目を見開いた。

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