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148・奈落に集う者たち 上

「……あなたが、あの鹿角青葉さん?」


「はい」


「後二人しかいないっていう、月の民の男性?」


「相違ありません」


「……」


 ――ありえにゃぁあぁあぁああぁい!!


 鹿角青葉を名乗る少女――もとい、少年の正体を知り、狩夜は口をあんぐりと開け、声にならない叫び声を上げた。


 ――え? これが男? いやいやいやおかしいおかしい! どう見ても女の子じゃん!? こんな可愛い子が男なわけない! そもそも骨格が男のものじゃないし! 


 いる! この子よりも男として生まれるべきだった、ノウキンフトメアセクサプロテインマシマシの月の民が、どこかに絶対いる! ていうかいた! この前追いかけられたもん!


「あの……角は? 抜け落ちた直後とかですか?」


 性別間違えてますよウルド様ぁ! と、心の中で顔見知りの女神を糾弾しながら、狩夜は目の前の少年を少女と勘違いした、一番の理由を口にする。


 そう、青葉の頭には、牡鹿の証である角が、どこにも見当たらないのだ。


 あの容姿にして角がない。鹿の獣人でこれでは、狩夜でなくとも青葉の性別を見間違えるだろう。


「ふぐぅ!」


 狩夜の角に対する指摘を受け、右手で胸を抑えながら崩れ落ちる青葉。地面に横たわりそうになる体を左手でどうにかこうにか支えつつ、若干潤んだ目で狩夜のことを見つめ返してくる。次いで、今にも消え入りそうな声でこう答えた。


「俺の角は……その……母のお腹の中で姉に取られたと言うか、何と言うか……」


 どうやら、自身に角がないことを相当気にしていたらしい。雌鹿なのに角があることを気にしている姉とは、正反対の悩みであった。


 青葉のコンプレックスを無神経に刺激してしまい、狩夜の胸中で罪悪感が湧き上がる。が、一方で親近感も湧いた。狩夜とて自らの体にコンプレックスを抱える者の一人。他者にそれを刺激されたとき、当人がどんな気持ちになるかは、痛いほどにわかる。


 もはや確信に近い予感があった。青葉とは色々とわかり合える気がする。男同士だし、性格的にも紅葉と違ってとっつきやすい。きっといい友達になれるだろう。


「えっと……気にしてたんですね、すみません。頭なら何度でも下げますので、許していただけるなら幸いです」


「い、いえ、大丈夫です。女性に間違われるのも、角のことであれこれ言われるのも慣れてますから。ただ、姉が一緒にいるときには絶対に言わないでくださいね? ボク――じゃない、俺が許すと言っても、姉は決して許しません。問答無用で殴り掛かります」


「あ、はい。よく知ってます。というか、この前殺されかけました」


「え!? そうなんですか!? 家の姉がとんだご迷惑を――ってまさか、そのときのことをまだ根に持っていて、姉に復讐するために俺を利用しようと!?」


「だからちがーう! 紅葉さんとは色々ありましたけど、きちんと和解しました! いいですか? 今からあなたがした質問に、順番に答えていきますので、落ち着いて聞いてくださいね? まず、僕が誰かという質問ですけれど、僕の名前は叉鬼狩夜。一介の開拓者です。あなたのお姉さんである鹿角紅葉さんとは、その――知人以上友人未満ぐらいな関係です」


 まずは自己紹介だと、自らの名前を口にする狩夜。少しは安心するだろうと、紅葉と面識があることも併せて明かす。


 すると、予想以上の効果があった。青葉は両の目を輝かせ「え!? あなたが、あの叉鬼狩夜さんですか!?」と、興奮気味に声を上げる。


「あれ? 僕のことを知ってるんですか?」


「はい、もちろんです! この前姉が教えてくれましたから! わぁ! うわぁ! 感激だなぁ! ボク――じゃない、俺、姉からあなたのことを聞かせれて以来、ぜひともお会いしたいなって、ずっとずっと思ってたんですよ!」


「そ、そう……なの?」


 憧れのアイドルと対面したかのような青葉の反応に、思わず面喰う狩夜。次いで思う。いったい紅葉は、どのように狩夜のことを青葉に話したのだろう? と。


「あの、握手してもらってもいいですか!?」


 この言葉と共に差し出された青葉の右手を「う、うん」と困惑気味に握り返す狩夜。すると青葉は「えへへ」と、男とは思えない可憐な表情で微笑み、これまた男のものとは思えないほどに柔らかいその手に、ほんの少し力を込めてくる。


 ――やばい、何だか変な方向に目覚めちゃいそうだ!?


 心の奥底に芽生えかけた感情を振り払うかのように、青葉の手を少々強引に引っ張る狩夜。地面に座りっぱなしだった青葉を握手のついでに立ち上がらせた後、そそくさと手を離す。


「ありがとうございます」


 異常状態の後遺症を感じさせることなく立ち上がった青葉は、先ほどまで狩夜と繋がっていた右手を見下ろしつつ、本当に嬉しそうに礼を述べる。その一連の動作で顔を赤くした狩夜は、この子、男なのに見た目が好みのタイプだから質が悪い! と、胸中で叫んだ。

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