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引っこ抜いたら異世界で マンドラゴラを相棒に開拓者やってます  作者: 平平 祐
第一章・引っこ抜いたら異世界で……
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013・あなたは勇者ですか? いいえ、違います 上

「それじゃあ、イルティナ様たちは初代勇者の子孫なんですね?」


「そうとも。私とメナドの名前には、共にブランが使われているだろう? これは初代勇者の名前の一部なのだ」


 狩夜の質問に誇らしげに答えるイルティナ。そして、彼女はこう言葉を続ける。


「我々木の民は、かつては排他的で、かなりの純血主義だったらしい。だが、初代勇者が世界を救ったおり、彼はパーティメンバーの一人であった、木の民の姫との婚姻を望んだのだ」


「ふむふむ」


「時の国王は初代勇者の功績を認め、二人を祝福し、婚姻を許した。やがて二人は多くの子をなし、私たちブランの血族が生まれたと言われている。本来の木の民と違い、褐色の肌が特徴だな」


 イルティナは「この肌が初代勇者の血脈の証であり、私たちブランの誇りなのだ」と笑う。


 狩夜は初めてメナドを見たとき、てっきりダークエルフかと思ったのだが、どうやら違うらしい。木の民。長く尖った耳といい、整った容姿といい、ほんとにエルフそっくりだが、別の種族のようだ。


 そして、狩夜は光の民であるらしい。正確には、地球人に最も近しい容姿をしているのが光の民なのだ。違いはほとんどないとのこと。


「木の民に、光の民か……」


 このイスミンスールには、木の民と光の民の他にも六種もの人類が存在しており、それぞれが独自の文化を形成し、別々の精霊を信仰しているという。


 火の民が、火精霊サラマンダーを。


 水の民が、水精霊ウンディーネを。


 風の民が、風精霊シルフを。


 地の民が、地精霊ノームを。


 木の民が、木精霊ドリアードを。


 月の民が、月精霊ルナを。


 闇の民が、闇精霊シェイドを。


 光の民が、光精霊ウィスプを信仰している。


 これらの種族にはそれぞれ身体的特徴があり、見分けるのは容易であるとのこと。特徴はきちんと教わったので、実際に目にすれば狩夜でも見分けられるだろう。


「さて、そろそろ夜も更けてきたが、他にも質問はあるかな?」


「あ、そうですね。えっと……」


 狩夜は右手を口元に当てながら考える。が、即座に質問が出てこない。いますぐ聞かなければならないことはあらかた聞きつくしたと思う。聞きたいことは今後いくらでも出てくるだろうが、それはその都度誰かに聞けばいい。


 地球に帰る方法も聞いてはみたが、やはりないとのこと。少なくともイルティナは知らないという。


 狩夜以外の異世界人、つまりは歴代の勇者たちも、結局は元の世界には帰らず、ここイスミンスールに骨を埋めたそうだ。そのおり、初代勇者は木の民と、二代目勇者は光の民と、三代目勇者は月の民との間に子をなしたという。四代目は【厄災】との戦いの後、行方不明になったとか。


 帰れないのならば、狩夜はこの世界で生きていくしかないわけだが――どうすればいいのだろう?


 日本の一中学生が、異世界でやっていけるのだろうか? 狩夜が人に誇れる特技など、祖父から教わった動物の解体技術ぐらいしかない。その解体技術にしても、ここイスミンスールでは当たり前の技術である可能性が高いのだ。この状況で、どうやってお金を稼ぐ? どうやって衣食住を手に入れる?


 海外旅行すらしたことないのに、いきなり異世界って何? イスミンスールって何? 人生がハードモードすぎやしませんか神様?


「カリヤ殿。そちらからの質問がないようなら、私からいいだろうか?」


「え? あ、はい。もちろん」


 イルティナの言葉に思考を中断し、言葉を返す狩夜。すると、イルティナは少し申し訳なさそうな顔をして、こう尋ねてくる。


「そうか。なら……その、くどいようで悪いが、カリヤ殿は本当に……本当に、勇者ではないのだな?」


 僅かな期待を含んだこの質問に、狩夜は思わず苦笑いを浮かべる。次いで思った。またその話か。イルティナ様もしつこいな――と。


「違います」


 イルティナの顔を真っ直ぐに見つめながら、きっぱりと否定する狩夜。


 この質問は、狩夜が異世界人であると打ち明けた直後にイルティナがしてきた質問と、ほぼ同じものである。


 叉鬼狩夜が勇者であるか、否か。


 この質問に対する回答は、一つしかない。


 そう『違います』だ。


 事実として違うのだからどうしようもない。叉鬼狩夜は勇者じゃない。普通の中学生だ。


「僕は勇者じゃありません。世界樹の声とやらも聴いていませんし、勇者の証の……世界樹の聖剣でしたか? それも持っていませんし」


 異世界からやってくる勇者たちは、みな一様に世界樹の声に導かれてこの世界に召喚され、世界樹の聖剣を携えて姿を現したという。そのどちらも狩夜には当てはまらない。故に、狩夜は勇者じゃない。イルティナの期待には応えられない。


 狩夜の言葉を聞いたイルティナは「やはりそうか……」と落胆の声を漏らした。次いで、未練を振り払うように顔を左右に振った後、こう言葉を続ける。


「いや、何度も確認してすまない。カリヤ殿が勇者なら……そして、世界樹の聖剣ならば、この状況も打開できるのに……などという、私の愚かしい願望だ。できれば忘れてくれ」


「はぁ……そんなにすごいんですか? 勇者って?」


 異世界人とはいえ普通の人間。一人の人間が世界の命運を左右するなどと、にわかには信じられない話だ。


「正確には、凄いのは勇者様ではなく、世界樹の聖剣のほうです。世界樹の聖剣には、幼生固定された世界樹の種が埋め込まれておりますので」


「世界樹の種?」


 メナドの補足説明に、狩夜は首を傾げながら口を動かす。


「はい。世界樹は、世界を支えられるほどの力を有する神樹。種とはいえ、その力は絶大。世界樹の聖剣から無尽蔵に力を引き出し、自在に使うことができる者。それが勇者様なのです」


「なるほど」


 要するに、世界樹の聖剣とやらは、平凡な一般人すらも救世の勇者にしてしまうチート武器なわけだ。

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