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触れられた唇が気持ち悪い。
私はカバンからハンカチを取り出し、ごしごしと口元を拭う。
そんなことをしたって何も変わらないとわかっている。
わかっているけど、どうしてもやらざるを得なかった。
必死に取り繕っていたけれど、自分の弱さが悔しくて罪悪感は膨れるばかりだ。
江藤くんには、”迎えに行くから電話して”と言われている。
会いたくてたまらなくて、癒されたくて、すぐに電話をした。
けれど彼を待っている間に、私の気持ちはどんどん沈んでいく。
正広のことはもう好きではないのに。
きちんと別れるはずだったのに。
キスを拒めなかった自分。
自分の弱さや甘さが引き起こしたことは重々承知だ。
こんなこと、江藤くんに言えるはずはない。
言えるはずはないのに。




