私はそんな夢を見る。
「君がいなくなったら、僕は君を探し続けるよ、何日も、何ヶ月も、何年も」
私はおかしくなって噴き出した。
まるでお伽話の王子様ね、そう言うと、彼は素っ頓狂な顔になって答えた。
「王子様なんて僕には勿体無い肩書だ」
少し頬を赤らめた彼に、私は意地悪く笑ってみせる。
気を悪くしたのか、赤ら顔の彼はそっぽを向いた。
そんな、幸せな夢を見た。
「王子様なんて、いるわけないの」
お世辞にも私は可愛らしい、なんて言葉が似合わない。
ごく平凡な顔立ちだし、身長体重も平均値、男を虜にする愛らしさも、惑わせるような豊満な胸も持ち合わせていない。
内面も、変にドライで少女趣味で、他人を嫌って、でも寂しがりやで、プライドが高い。
どう考えてもお姫様なんて柄じゃないし、元々誰にも成ることを望まれてはいないだろう。
ただの村人か召使か、或いは道端を通り過ぎる行商人か。
私は物語の外で生きている人間なのだ。
パンを咥えて、革靴を履き、家を飛び出す。
遅刻だ、遅刻だ。
私の頭の中の白ウサギは、時計を凝視し慌てて駆け出す。
この場合、首を刎ねるのはハートの女王じゃなくて先生なわけだけど。
兎に角、全力疾走だ。
そして私が角に差し掛かった瞬間。
「いたっ!」「いって!」
そこには、同じ制服を着た美男子が立っていたのだ。
なんて、また夢を見た。
……今度はどんな夢を見よう。
意地悪な幼馴染に翻弄される私?
一国の王の寵愛を受ける私?
爽やかな野球少年と付きあう私?
気弱な大学生と同棲する私?
あぁ、可愛い女の子と暮らすお話も楽しいな。
部屋の扉を叩く、誰かの声には耳を貸さず。
私は、私の夢を見る。