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第六話 クリスタルトータス攻略戦

 クリスタルトータスLv120、巨大な亀、もはや亀と呼べる代物ではないかもしれない。甲羅を背負った化け物だ。

「これまた新モンスターだな」

『カミック』の言う通り紛れもない新モンスターだ、甲羅は虹色の結晶で固められておりとても貫けそうにない。あともう一つ、本来の亀の武器とはならないであろう部位、尻尾が異常に攻撃的だ。

「来るぞっ!」

 亀の顎が開門しそこから吹雪が吹き荒れた。いわゆるブリザードブレスと言われる技だ。

「散開しろ! Lv120だ、攻撃は出来るだけ避けろ!」

「了解……」「了解じゃ!」「了解だ!」

 俺を真ん中に、左に和装幼女こと『戦闘王』、右に『ユキノ』と『カミック』だ。

「これは絶対四人で来るべきじゃねぇな!!」

 虹色のトゲが装着されている尻尾が振り回される、タゲ取りも何も近づくことが出来ない。

「タンク頼む!」

「「了解!」」

『カミック』と『ユキノ』が横薙ぎにしようと襲いかかってくる尻尾の攻撃を受け止め、亀を膠着させる。

「ナイスじゃ!」

 両手に大剣を装備する幼女が亀の前足を斬り叩く、亀の五本あるライフゲージの内の最初の一本の三パーセント程が弾き飛んだ。

「ダメだ! 今ので一割も削られた! 持たないぞ!!」

「まだだ、攻略のヒントの一つぐらい持ち帰る!」

 投剣スキルで弱点になりそうな場所を狙う。だが、当たらない、当たる前に尻尾で弾き飛ばされてしまう。

「これは、正規のクリア方法ではないの……」

「何か言ったか!? 『ユキノ』もう一度言ってくれ」

「正規のクリア方法ではないかもしれないと言いました…まだヒントがあったかもしれないっ!」

 猛攻が四人を襲う、全員のライフゲージが半分を切ろうとしていた。

「チッ!撤退じゃ!勝ち目がない、一旦引くべきじゃ!」

「分かった、一度戻るぞ!」

 一目散に入口に駆け込む、外は変わらず素晴らしい桃の木が立ち並んでいた。

「ハァハァ、あんなもんどうやって勝てってんだ」

 肩で息をしながら泣き言を漏らす『カミック』、確かにこのままでは勝つ確率はゼロだろう。

「『ユキノ』、さっき言ってた意味を教えてくれ」

「桃花源記は漁師が宮廷の人に桃源郷の事を教えるの」

「それがどうしたのじゃ?」

「宮廷の人達を連れて桃源郷に向かったのだけれど見つからず漁師は罰を受けることになる、この物語、あの亀を倒すには未だ未登場の宮廷の人達がキーになる。と考えた……」

「なるほどのう、ではこの鍵はまだ他の所にも使えそうじゃ」

「なら一度漁師の所に戻ってみようぜ」

 ガチャ、ギィ。扉は先程と同じ動作で俺達を迎え入れた。

「お主達、どうして戻ってきたのじゃ?」

「漁師殿、お主が監禁されておった本当の理由を教えてくれんか?」

「バレてしまったか、私は桃源郷の亀の忠告を破り宮廷に桃源郷の事を話した。宮廷の兵達と共にここまでやってきたが見つける事は叶わなかったのだ。そこで虚言と言うものは判断をされ私はここから出ることが不可能となった」

「兵達はどこにおるのじゃ? わしらはあの亀を討伐せねばならんのじゃ」

「兵達は死んでしまったはずだ、彼らの技と私の忠告があれば負けることはなかったはずなのにな」

「桃源郷にはたどり着けなかったのではないのか?」

 確かに話の中で矛盾が生じている。

「たどり着けなかった腹いせに兵達はあるべきはずの場所に火を放った、その行為が亀の逆鱗に触れ亀が岩の外に出てきたのだ。私は窓からその様子を見ていただけだったが今はその窓さえ閉じられてしまったよ」

「彼らの技というのは何じゃ?」

「貫通スキルと言っていたはずだ、もしあなた達があの亀に挑むなら一つアドバイスだ。甲羅を叩け、これを実行すれば倒すことは不可能ではなくなる」

「他にはないのか?」

『カミック』が役に立たなそうなアドバイスに失望し他のアドバイスを求める。

「……」

 沈黙、その行動はこのNPCが役目を果たし終えたことを示す。


「これだけの様じゃな、貫通スキルはどうすれば習得出来るんじゃったかのう?」

 ランサーやナイトの持つ初期スキルだが、レベルが上がる毎に効力が上がり、最大で相手の防御力を九十パーセント無視できたはずだ。

「全く便利なジョブだな」

『カミック』が呆れ半分、感嘆半分で言ったその言葉通りこの『世界運営準備係』というジョブは便利だった。

 ほとんどの中堅スキルまでは望むだけで身につけることが出来る。もちろん貫通スキルも例外ではなかった、これこそチートというやつだろう。

「行くか」

 綺麗に桃の木が育っているのを見て勿体ないと感じながら、嫌々発火スキルを発動した。ライター程度の小さな火が人差し指に灯る、そのまま真っ直ぐ腕を伸ばし木に引火させた。

 ごうごうと燃える中地響きが聞こえた。

「来るぞ! 俺と『カミック』でタゲをとる、『戦闘王』と『ユキノ』は甲羅を狙い続けてくれ!!」

「了解!」「了解じゃ!」「了解……」

「ガァァーー!!」

 いかにも化け物らしい咆哮が聞こえ、地面が割れた。

「『カミック』!」

「おう!」

 割れた地面もタダのエフェクトだ、そのまま真っ直ぐ突っ込んでいく。

 前回と同じように吹雪が放たれるが、密閉空間ではない草原では効果は激減している。

 すぐさま尻尾が斜め上から振り下ろされた。

「重いっ!」

 何とか俺と『カミック』で亀の動きを止めた。

「ナイスじゃ!」

 初撃ボーナスを狙った二本の大剣と一本の両手斧が同時に甲羅を叩いた。バキッ、鈍い音が聞こえ体力ゲージの一本目の四分が弾き飛んだ。

「ガァァァーーーー!?」

 大きな悲鳴を上げる巨大な亀の体力ゲージの上には見た事がないデバフが付けられていた、そのデバフの効果で体力ゲージがジリジリと削られている。

「このまま行くぞ!」

 二本の片手剣に持ち替え神器生成スキルを発動する、下位の武器生成スキルの効果が発揮され二本の片手剣は一本の大剣へと姿を変えた。

「タンク交代!」

 体力の三割が削り取られ、タンク係を交代し攻めに転じる。クリスタルトータスの体力ゲージは後二本になった所だった。

 亀の手足と頭が収納された、まるで閉じこもって守りに徹するような状態に見えた。

 ギュルギュル! 見事に回転し始め、回転につられて尻尾が猛威を振るう。

「回避っ!」

 止まらない、攻撃から逃げれない訳では無いが徐々にスピードが上がってきている。


 VR型ゲームの面白い所はスキルのみで威力が決まる訳ではないところだ、俗にシステム外スキルと言われている。言ってしまえば体の動かし方なども考慮されるという事だ、数字だけでは測れない勝負こそが醍醐味だと感じているプレイヤーも少なくはないだろう。

 ーーランカー達はその手のプロと言っても過言ではない。

 凰雅は大剣を片手に跳躍する、投剣スキルを発動した。高速回転する亀の頭は最早視認することすら困難だ。体全体を使い大剣を投げた、剣先は真っ直ぐ斜め下に降下していく。

 グサ。ブシューー。

「ガァ!? ガァァァーーーー!!」

 凰雅の剣先は狙い通り眼球に突き刺さった、視認することすら困難な頭部の眼球を狙って当てたのだ。

 高速回転は強制ストップがかけられクリスタルトータスはスタン状態に陥った。

「畳み掛けるぞ!」

 乱暴に振り回す尻尾は狙いなど定めていない、暴れているだけだ。そんな攻撃を食らう程ランカーは甘くない。みるみる体力ゲージが弾き飛ばされていく。

「ラスト!!」

 何度目かの鈍い音が響き、ドスンと亀は地に伏せた。既に体力ゲージは消滅している、やがてその体も崩壊し消滅した。

「これは!? おいおいすげぇな」

 ランカーが呆気に取られる程の光景が、亀が消滅した場所に広がっていた。

「真結晶石、オリハルコンよりも上位の新素材じゃな! それがこの量とは恐ろしい亀よ」

 キラキラと夕日を反射する虹色の鉱物は地面に数十個散らばっていた。最初に支給されたオリハルコンと同程度の量は確実にあるだろう。

「クリアみたいだな」

 視界にはCongratulations!!という表示が映し出されている、もちろん画面の中だけだ。クリア時に拾われていなかったドロップアイテムはランダムで等分され配布される仕組みになっている。


 ヒュン。次に目を開いた時はダンジョンの入口に戻ってきていた。

「帰るか」

「そうじゃのう、この素材のことは伏せておいてやろうかのう」

 にひひ、と陽気な笑みを浮かべ、四人とも満足感に浸ったままダンジョンの外に出た。

そこには美味しそうな夕飯を食べている()()の仲間達がいた。


【アナザーエデンワールド】という表記が長ったらしいので次回からAEWと略します。

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