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第四話 豪華な寝床

 数々の部屋を乗り越え、やっとオアシスルームと称される休憩ポイントであろう部屋まで辿り着いた。

「セーブ用の休憩ポイントのようじゃ、やっと休憩じゃーー!」

 かれこれ六時間以上もぶっ通しで戦い疲弊しているのは見なくても分かる。

「ダンジョン内で泊まることになろうとはな」

『カミック』の言う通りダンジョンにベッドが用意された休憩部屋というものも設置されているが使われることはほとんど無かったため大した作りにはなっていないはずだった。

 男子と女子に分かれ別々のドアノブに手をかける、一足先に女子二人から歓喜の声が上がった。

「「うおぉ、なんじゃこりゃ」」

 男子二人は見事に同じ反応を示した。それもそのはず、馬小屋レベルであろう内装に大して期待もしていなかったが見事に期待を裏切り、一端のホテルのような内装だった。

「まさかこれも新実装か!」

 面白いことしてくれるじゃねぇか、と口調が素に戻っていることにも気付かず目を丸くして驚いている凰雅を見て『カミック』は違う驚きをしていた。

「お前、そっちの口調が素か。なんで猫被ってんだ?」

 しまった、と思った時にはもう遅い。柔らかそうな羽毛布団の誘惑で素が出てしまった、学校生活でも猫被って過ごせていたから大丈夫だと安心していたからだ。油断大敵だな、

「別にいいだろ、まあ特にこのメンツで猫被って喋る必要もねぇか」

 ここで真面目で大人しい子を演じてもなんの意味もないな。

「別にいいけどさ、学生だろ? 普段の口調も、いやすまない、現実のことを聞くのはマナー違反だな」

「別にいいけど、現実もあの喋り方だ。あっちの方が人が寄ってこなくて助かる」

 元の口調で話すと人に絡まれやすいということは既に実証済みだ。完全に素を隠すことは出来ないが、乱暴な語尾を抑えることぐらいは出来た。

「さっさと寝ようぜ、明日中にはクリアしたい」

「ああ、その通りだな。周回組と違って大して素材も手に入っていないからな」

『桃源郷』は素材集め用のダンジョンでは別に無かったようだ。チラホラと金ピカのネコと遭遇出来たが目立った収穫はない。

 この世界に来て二日、まだ二日しか経っていないのにも関わらず関わりのなかったクラスメイトを思い出すと名前を思い出せるかどうか危うい人物が何人か出てくる始末だ。よっぽど充実していなかったことを実感出来た、ここ最近の体育祭やら文化祭といったストレスの原因となっていたことはある意味充実していたかもしれない。

 ハァとため息を一つ、光が消えたことを確認してその瞼を閉じた。


「全く、健康的な体だな」

 時刻は五時半、『カミック』もまだ起きている気配はない。

「しっ! お主、体重が重いのではないか? 床が軋む音が聞こえておるぞ」

 ギィギィと床が軋む音と部屋の前であの和装幼女の声がした。

「その胸、余計な脂肪が有り余っておるのう」

「か、からかわないでください……」

「(何してんだあいつらこんな朝っぱらから)」

 まだ布団から出る気はない、『カミック』が起きるまでは暖かい羽毛布団を堪能すると決めたのだ。

 ギィと先程より大きめの音が聞こえ光が侵入してくる。床の木が光に照らされ、そこには二つの影が映し出されていた。

「おぉ! これは使えそうじゃ」

 その声が聞こえたと同時に影がひとつ消えた。よく見なければ分からない程に暗闇に溶け込んだ和装幼女が悪い笑みを浮かべ布団に近づいてくるのが見える。

「(何をする気だ!?)」

【アナザーエデンワールド】にもPK、プレイヤーキルは存在する。ペナルティらしいペナルティもない、がメリットも大してない。何が楽しいのか分からないが一つの楽しみ方という捉え方をされている。

 それはゲームの中での話だ、この世界の死はどういうものかが分からない以上絶対にしてはいけないだろう。それも寝込みを襲うなどマナー違反もいいところだ。

 真横まで来て立ち止まった。そこで和装幼女に声がかかる。

「『オウガ』さん起きてるよ、多分……」

「ひょえ? ならば『カミック』にしようぞ!」

 随分間抜けな声を出したものだ。忍び足で『カミック』のベッドに近づいていく。

「何をする気だ?」

 流石にPKということはないだろうが、何しろ初対面の人の中でもかなり個性が尖った人物だ、何をしでかすかわかったものではない。

「ちょっとしたイタズラじゃ」

 そう言いながら『カミック』のズボンに手をかけた、そのままズボンを下ろそうとしている。当の本人は全く気づく様子がない。

「そこまでにしろ、これ以上は見たくねぇ」

「なんじゃ、一度夜這いと言うものをやってみたかったのじゃがしょうがないのう」

「このエロガキがっ! そういうのはもっと歳食って成長してからにしろ、てかやるな!」

「チッ! 次からは『オウガ』がいない所で挑戦してやる、それにしても口調が変わったのう。そっちが素じゃな、しっくりきおる」

「そうだよ、それより朝飯にしよう、ネコの肉はそろそろ飽きてきたから別のに」

「お主、ネコ以外の食材アイテムを持っておるのか?」

 昨日あんだけモンスターを狩ったんだから何かあるだろうとバッグのアイコンを選択し、食材アイテムだけに限定する。

「こ、これはっ!」

「何もなかったであろう?」

「いや、一つだけあるぞ。『ロックバードの肉』だ」

「ほう、一人だけそんな物をドロップしておったのか」

「ずるいです……」

 二人の視線が痛い、

「分かった、分かった。お前らも食えばいいじゃねぇか」

 目を輝かせる『ユキノ』と、涎を垂らす『戦闘王』。その時やっと『カミック』の瞼が持ち上がり目を覚ます。第一声、

「朝からテンション高いな、朝飯どうする? 俺、ロックバードの肉とか結構食材アイテムドロップしてたから作ってやろうか?」


 朝はロックバードの肉を美味しくいただいた、まるで手羽先を食べているような食感で味は案外あっさりしていて朝でも普通に食べることが出来た。

「行くぞ、今日中にはクリアしたい」

「当たり前じゃ! 早く夜這いを仕掛けねばならんからのう」

「何か言ったかエロガキ?」

 幸い『カミック』の住んでいた国に夜這いという文化は無かったようだ、日本でも今どき夜這いする男の人などいないだろう。

「何を話しているのか分からんが入るぞ」

『カミック』の声で気を引き締め直す、決して余裕のある楽なダンジョンではない。

 足を踏み入れると景色が変わった、まるで草原だった。

「また幻術か? 懲りないダンジョンだ」

 計五回程この手の部屋に入り突破した。幻術を破るには敵への接触が必要なようだ。

「いや、ダンジョンの内装自体が変わったんだろう。普通にモンスターがいる」

 いつの間にか身についていた(戦いで通知音に気づいていなかった)スキル『索敵』。このスキルは敵がいるかどうかを示してくれる。狭い洞窟のような昨日までの部屋では役に立たなかったがこの部屋では役に立つ。本当に広大な草原のようだ、数十メートル先に敵の気配を感じる、五体だ。いやー便利だな〜索敵スキル。

「とりあえず敵のとこまで行こうぜ、五体なら問題ねぇだろ」

「そうだな、一応幻術かもしれない油断するな」

 草原を歩く、心地よい風が服をなびかせる美しい風景とは反比例に汚い顔が近づいてきた。

「ゴブリンランサーか、カウントで仕掛けるぞ。三、二、一!」

 四つの影がゴブリンランサー達に襲いかかる。その汚い顔をした異物は手に槍を持ち戦う、他にも剣や斧といった同種のモンスターが存在する。

 特に抵抗を受けるわけでもなく素早く屠る。返り血もモンスターの死体が消滅すると同時に消滅してくれる。

 赤黒い液体が消滅し、前を見る。よく見ると広大な草原の真ん中にポツンと小さな小屋が建っていた。

「桃源郷の物語か、何かあったかな……」

【アナザーエデンワールド】は物語や神話に基づいて作られたであろうダンジョンが多々存在する。『ユキノ』が言った通りあの小屋はラスボス部屋に繋がっているか、クリアのヒントになる物をドロップするモンスターが配置されているだろう。

「行くか、その前に雑魚掃除をしねぇとな」

 小屋の方からぞろぞろと汚い顔のモンスター達が歩いてきているのが分かった。

 飛んできた矢を双剣で斬り捨てたのを合図に四人はモンスターの群れへと飛び込んだ。

 数分後四人は小屋の扉の前に立ち、中に入ろうとドアノブを捻った。

「開かないな、まさか鍵クエか!」

 鍵お探しクエスト。このような重要な部屋に入る為には鍵が必要ですよー探してきてくださいな、というやつである。

 めんどくさそうに振り返り、あまりにも広大な草原を見渡し、

「「「「無理ゲー」」」」

 四人同時にため息をついた。

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