第三話 転移系ダンジョン
今朝の意見交流はややスムーズに進み過ぎた気もしたがやはり初見でダンジョンに挑むには危険が常に付き纏う。
「全く、周回組の方が数が多いとは何事なんじゃ! ワクワクが抑えられんわ!」
おかしな幼女は勿論攻略組、『カミック』もこっちだ。もう一人のメンバーは意外だった、第二位『ユキノ』。日本人にはまったくもって見えないがユーザーネームから見ると日本人の様な気がしてならない。
「そうですね、それよりもこのパーティーは魔法を使える人がいない。問題はそれですよ」
現実的な問題をぶつけてみる。実際、俺が双剣、『ユキノ』が両手斧、『戦闘王』が大剣、『カミック』がハンマーだ。サポートという役職を担える人がいない。
「大丈夫じゃろ、まぁ今の内にもう一つぐらい武器を作っておいてもいいかもしれんのう」
「それには賛成だ、攻撃の手数は増やしておきたい」
という訳で、武器を新たに作った。昨日得たオリハルコンとレアメタルで更に双剣を増やした。純オリハルコン製の双剣はナイフ型だが、今回は普通に片手剣を二本作った。
「全く、どんだけ火力を出したいんだ二人は」
「どうじゃ! かっこいいであろう?」
ふはは、と笑い声を上げる『戦闘王』は二本の大剣を装備している。
赤面して俯いている『ユキノ』も大剣を作っていたが、こっちは持ち替える用だ。
「まあいいや。行こうぜ」
呆れながらも頼もしい姿を確認して未知のダンジョンに足を踏み入れた。
「なんにもいないな」
「いないのう……」
桃源郷と言うにはおこがましいゴツゴツした谷だった。
いや何も居ないのではない、入り口が多すぎてどれに入るべきかを迷っているだけなのだ。
「初見にはしんどいダンジョンじゃ〜、適当にはいってみるかのう?」
このような選択肢が多いダンジョンは大概二つほどバッドルームと言われる突破不可能部屋が用意されている。
「まあ、それでもいいんじゃないのか? どうせ分からないんだし」
『カミック』のこの一言を聞いたと同時に『戦闘王』が一つの部屋に飛び込んだ。
「パーティーもクソもないな!」
慌てて飛び込む、武器はナイフ型の方の双剣だ。
中に入ると同時に爆風が出迎えた、どうやらバッドルームに入ったようだ。
「一旦部屋から出るぞ! バッドルームを攻略しに来たんじゃない!」
バッドルームとはいえ攻略が不可能な訳では無い、レアドロップがある事も多々ある。しかし、今はその為のパーティーではない、勝てる道理がないのだ。
「了解じゃ!!」
炎の不死鳥、フェニックス。この部屋の大きさではこいつの攻撃範囲から逃れられる場所がない。
「あの部屋の大きさはひどいのう……」
「まったくだ、それにしても一個目から引き当てるとは悪運が強すぎやしないか?」
「そうじゃろう!」
「褒めてないと思いますけど……」
「まあいいや、次に行こう」
隣なら大丈夫だろうということで、さっきの部屋の隣の部屋に入った。
ーーそれが間違いだった。
「まさか転移系のダンジョンだったとはのうッ!」
転移系ダンジョン、入室と同時に別の部屋に飛ばされゴールするまで出ることが出来ないダンジョンの事だ。
「馬鹿野郎! 仕事しやがれ!」
ガーゴイルの群れにが襲いかかってくる、Lv90にしっかりと揃えられているが数が数だ、余裕があるわけが無い。
「きりがないです、頭を潰します」
『ユキノ』の控えめな声が聞こえ声の出処を見ると、大剣を振るい群れの頭であるガーゴイルキングLv90への道を開き、両手斧を振り上げている少女がいた。
ガーゴイルキングの体が両断され一本の骨を残して消滅した。
「ナイスじゃ! さっさと片付けるぞ」
各々が武器を振るう、数分後のこの部屋にガーゴイルの姿は一匹足りともなかった。
「よし、次に行くぞ。ゆっくりはしてられないからな」
ゴールに着くまでの時間が分からない以上ゆっくり出来はしない。
「そうじゃの、何日も彷徨うのは嫌じゃのう……」
最短距離で五時間もかかるダンジョンもあった事もある、大概修正がすぐに入っていたが現実ともなるとそうもいかないかもしれない。
「……何も無いな」
「何も無いのう」
「ないです……」
「無いですね」
超広大な荒野に出た、モンスターさえもいない。
マップを確認するが現在地はしっかりと『桃源郷』を指している。
「戻るための扉もないとなると手の打ちようが無いな」
完全な転移と同様に荒野のど真ん中にいる。
「いや、そうでもないようじゃぞ? しっかりと壁はあるようじゃ」
背にある空間に手を当てるとしっかりと岩の感触が伝わってきた。手のひらにはザラザラとした砂が付いている。
「そういう事か!? 全員防御しろ!」
直後、ブォと風を切る音が聞こえ重い衝撃が襲いかかってきた。背後の壁にぶつかり肺の空気が圧迫され口からガハッ、という声にならない音が漏れる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫だ! 姿が見えればこっちのもんだ、倒すぞ!」
相手の攻撃を受けたと同時に景色が一変し、元の岩々が姿を見せた。ギガントスLv110、不格好な巨人が拳を振り上げる。
「スペースはあるようじゃ、突っ込ませてもらうぞ!」
二本の大剣を手に和装幼女が突っ込んで行く、それに『ユキノ』も続いた。
「俺達も行くぞ!」
俺と『カミック』も駆け出す。敵の拳は銀髪の女の子が振るう両手斧によって弾かれ巨人の体には二本の赤い線が刻まれていた。
ーーまったく、テンション上がってきっちまったじゃねぇか!!
全力で駆ける、迫り来る拳を難なく避けその腕を踏み台に巨人の顔面の正面まで跳躍した。
手に持つ鋭利な双剣は眼球にクロスを刻みつけることだけでは足らず首筋を切り裂いた。
「よっしゃ!」
凰雅が無邪気な笑顔を見せたと同時に巨人の首筋から血が吹き出し、消滅した。
ランキング一位の力は健在なようだ。
「それにしてもエフェクト機能を切り替えたいのう、流石に血だらけで生活するのは人としてダメな気がするのじゃが」
エフェクト機能とはR指定を受けない為に血ではなくライトエフェクトのみにすることができる機能だ。全年齢対象のゲームとしての当然の機能だろう。
「問い合わせの仕方も分からないしな」
【アナザーエデンワールド】に問い合わせ機能はなかった、必要が無いほどに不具合への対応が早かったのだ。そもそもほとんどバグなどが発生したという噂は聞いたことがない。今に思えば恐ろしい話だが何故か納得もいってしまった、あのゲームマスターを見れば人間を超越しているのは明確だった。
「時間もないし次に行くぞ、さっさとクリアしたいからな」
『カミック』の一声に頷き、次の部屋へと足を踏み入れた。