第一話 始まりの宮殿
はじまりま~す
あるゲームの頂点に立つ男がいた。その男がギルドマスターを務めたギルドはただ一つ、ギルドマスターの決まり文句、それは『絶対勝利、それが一番の楽しみだろ?』だったそうだ。
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「ここは!?」
とあるゲームの始まりの宮殿、その広場に瓜二つの場所だった。この広場にいる人物は俺達を含めて十一人、いきなりの事で状況が呑み込めていないが興奮がない訳ではないのは、春川以外のメンバーの顔を見れば明確だった。
『みなさま〜突然のことですみませんが、貴方達が今考えたことが正解だと思いますよ〜。そうここは始まりの宮殿の大広場! 貴方達の誰もが何度も見た光景でしょ〜う?』
確かに始まりの宮殿の大広場は蘇生場所として何度も目に焼き付いている。
「私、この光景なんて見たこともないのだけれど」
この発言の主は春川だ。この光景を見たことがないなど今どき珍しいがおかしい事でもないだろう。
『おやおや? 君は間違えちったかな? すぐに返してあげるね』
一度目が合って何か言おうかと思った瞬間、春川は消えた。
『安心して元に戻しただけだよ〜、では本題に入る前に自己紹介をしま〜す。僕はゲームマスター、君達が大好きな【アナザーエデンワールド】の製造者で〜す。』
「「「ッ!?」」」
【アナザーエデンワールド】、地球上最も売れたゲーム。VR型の擬似世界の中で自由に冒険するゲームだ。製造者、会社の情報がないのにも関わらず運営としての働きは超一流なのだ。
『ランカーの皆さんも自己紹介してくださ〜い』
ランカー、それは【アナザーエデンワールド】の全ユーザー中で総合能力値が高い上位十位までのことを指す呼び名だ。
『言語翻訳機能もゲームと一緒なので大丈夫で〜す。では十位から順番にユーザーネームをお願いしま〜す』
沈黙が訪れる。ここにいる十人がランカー、ランカーが現実世界で出会うことなどないと思っていたので中々に感慨深いものもあるが何もかも始めなければと口を開こうとした時、
「俺は五位の『オーガ』だ、よろしく頼むわ」
金髪の兄ちゃんが俺より少し早かった。そこから時計回りという事になった。
「わ、私は二位の『ユキノ』です、よろしくお願いします」
白髪のショートカット、一部に水色の髪の毛が混ざっているアニメの様な髪の毛だが同い年ぐらいだろうか。
「僕は十位の『メガネ』です、お願いします」
眼鏡をかけた白人の少年だ。
「わちは三位の『戦闘王』じゃ、よろしくのう」
おばあさん口調なのに比べて外見は幼いアジア系の少女だ。
「俺は『カミック』、八位だ。よろしく」
黒人のオッサンです……ちょっと怖いです。
「私はねぇ七位の『サリーちゃん』よ、よろしくねぇん」
ニューハーフのお方です、違った意味で怖いっす。
「俺は九位の『タンク』だ。よろしく」
同い年ぐらいの金髪の青年だ。
「私は四位の『ヒメ』よ、よろしくね」
きつそうな、これまた同い年ぐらいの金髪の女の子。
「六位の『アンリ』です。ネカマですがお願いします」
茶髪の男、年は大学生ぐらいだろう。ネカマをしていたと言っていたが見た目が完全に男なので世界そのものが再現されていてもアバターが反映されているわけではないのだろう。
最後の俺に注目が集まる。
「俺は一位の『オウガ』です、よろしくお願いします」
そう、このゲームの世界でトップをとったのはいつだっただろうか、一位になってからは一度も落ちていない。いわゆる不動の一位と言うやつだ。
『自己紹介も終わったところでいよいよ本題に入りま〜す』
ゴクリと何人の唾を飲み込む音が聞こえただろうか、ランカー、それはつまり何らかの形で現実を犠牲にした事を示す。自分が輝ける世界、この世界が【アナザーエデンワールド】ならば喜べる事態なのかどうなのか、個々は別々の思いを胸に秘め次の言葉を待った。
『皆さんにはゲームの裏側、運営のパシリになってもらいま〜す! そこで先行配信! スキルをさずけちゃうよ〜、ポンッとな!』
ピ、ピピ、ログイン完了、データ更新、ギフトが一件届いています。
聞きなれたログイン音が頭に鳴り響き、視界の右上にメニューボタン、左下にステータスが表示されている。見慣れたあの世界そのものだ。メニューボタンの下にギフトが届いた事を示すプレゼントボックス型のボタンが出現している。そのボタンを押すと今まで存在していたステータスが一変し、長年育ててきたデータが吹き飛んだ。
job 世界運営準備係
level 999
attack 9999
lifepoint 9999
defense 9999
skill 神器生成
「おい! 俺の『オーガ』のデータはどこへ行った? 消えてないんだろうな」
データの上塗りとも見えた今の画面、もし本当にデータが消えたとほざくならば許されぬ暴挙だ、今の行為を許すということが出来るユーザーはこの中には絶対いないだろう。
『ん~、下の下界に落ちたら今のデータは消え去って元のデータが戻ってくるとは思うけど、ステータスは初期化されちゃうね~。もちろん素材とかもだよ、それは地球人に対してのルールだから変えれな~い』
下界は俺たちがいた世界のことを言っているのだろう、先天的なアビリティが九割を占めるあの理不尽な世界の事を。
『僕の創世スキルの一部の力を分けたスキル、神器生成スキルは武器生成スキルの上位互換版で~す。神器を作るのには回数制限がありますけど~君達にやってもらうお仕事の主軸になりま~す』
武器スキルとは鍛冶師のポプュラーかつ最大のスキルだ、あの有能スキルの上位進化など聞いた事もないが……
「未実装スキルですか……それとも新スキル?」
『おお~さすがです『ユキノ』さん、このゲームは僕だけで作ったんじゃないんだよ~、未実装も新しい物も色々あるんだよ~。とりあえず一武器作るのに十分なオリハルコンをプレゼントしたから作ってみ~てね」
ピロン! 最上級素材の一つの金属が届く。
使い慣れた双剣を想像し、というわけではない。スキルを使用し素材を選ぶ、作る武器種を選択する。
目の前に出現した金属が光を帯び形が変わり、シルバーの双剣が出来上がる。固有名はないが立派な双剣だ。
『これから皆さんに~全ユーザー、約七十億が死なないために武器を作ってもらいま~す。詳しいことは体で覚えてくださ~い。ではチュートリアルを終わりま~す、最後に元の世界は今この時点から動き出しま~す、元の世界の事はこの宮殿の下を覗けば見えますのでいつでもど~ぞ。この床をぶち抜けば元の世界に帰れますが壊せるとは思わないことですねー』
最後の声だけトーンが違った気もしたが、そんなことを考えている瞬間に景色が変わる。
始まりの森、そこから十人十色の素材集めが始まった……運命は二週間後に動き出す。
『次回、キャラ紹介を挟むかもしれませ~んよ』