第二十四話 『仙境』
「お、お前達は!?」
驚きのあまり誰もが言葉を失っていた。
「お前達が日本の勇者達か。俺達はお前達と同じ勇者と呼ばれる者だ」
自分たちにとって難易度が高いダンジョン『仙境』で勇者達は彼らと出会ってしまった。何も知らぬ日本の勇者達の旅路は大きく変わってゆく。
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「初っ端から敵だ! 行くぞ!」
政府から支給された鉄製の剣を構える阿形智、それに連なり九つの輝きがそれぞれの武器に宿る。
剣五人、盾三人、杖二人だ。そして約立たずの旅人が一人。構成としては悪くない。
「この猿はとにかく素早い! 盾と杖のやつは下がれ! 杖、後方支援!」
素早く的確な指示が飛ぶ。阿形も中々にこのゲームをやり込んでいたのかもしれない。
この調子だとまず死ぬことは無さそうだ。
五匹の猿が消滅する。経験値が入るがまだレベルは上がらない。
「次に行こう。ここは効率が良くない」
ここの猿型モンスターは通常のダンジョンでも時々現れる。経験値モンスターの中では下に分類されるだろう。
「キャキャキャ!」
いくつかの集団に出会ったものの最初の猿型の一回り、二回り大きい猿型モンスターしか現れなかった。
時間的には一時間弱だろうか。みんなの疲労が目に見えるようになってきた。特に剣の勇者達は疲労が大きい。
「ゲームだとそろそろ終着点につくが、……現実は違うらしいな」
AEWの中の『仙境』は十人パーティーで約一時間で周回できる。しかし、半分の地点くらいから出現するモンスターが変化していたはずだった。
「ここで中間地点ってことか?」
目の前に現れたモンスターは小さな龍だ。『プライスドラコ』という名称で、本物の竜種と言われるモンスター程の強さは無く、大きさも小さい経験値モンスターだ。
「阿形、休憩を入れた方がいいんじゃないか?」
剣の面々の中でも一番疲労が見られたのは阿形だ。ゲームをやっていた分他の人のカバーにも回っている。
「そうだな。じゃあ十五分間休憩しよう。半分で見張りを交代。まずは俺と一緒のパーティーがするよ」
ダンジョンにはこうして休憩を取れるように岩陰などにスペースが設けられている。ここにモンスターが入ってくることはない。
現在パーティーは二つに分かれている。パーティーの最大人数は七人。武器のバランスを考え五人と六人のパーティーに分かれている。
俺は阿形と同じ六人パーティーだ。
パーティー内で得た経験値は共有される。等分される訳ではなく一人一人に得た経験値が入る仕組みだ。
「よし、行こう。後半戦だ!」
十五分ちょうどの休憩を終え小さなドラゴンへと向かっていった。
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「ふ〜終わった!」
最後に少し大きめのドラゴンを倒し出口が現れる。結局休憩を挟んでから一回休憩を挟みつつも二時間もかかってしまった。
外に出ると日は沈みかけ、薄暗くなった空には天然の輝きが顔を覗かせている。
「今日はこれで終わり。また明日来よう」
レベルは六十三まで上がった。悪くない出来と言っていいだろう。
十一人は薄暗くなった谷を後にし、それぞれの家へ転移した。
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ーー次の日、午前九時前
「行くか」
昨日の夜から家では左目に眼帯をはめていた。普段からこの色の目を晒すのには抵抗があるからだ。片目で過ごすとどのくらい不自由なのか、それを確かめていた。
結果、普段の生活には支障をきたすことは無さそうだが、大きく視野を失い戦闘時は困難しそうだった。
集合は現地に九時、まだ後五分ほどある。
「五分前行動って言葉もあるしな」
そう思い、転移した。普段から五分前行動を心がけている訳では無いので少しだけいい事をしたような気になった。
ダンジョン入り口には人だかりがあった。全員外国人で年も上のように見受けられる。人数は約三十人くらいだろうか。
「(わざわざ命をかけて何をしに来てんだ?)」
国から派遣されてきたとかにも見えない。町中で見かけても違和感はないだろう。だからこそ、この場では違和感がある。
「おはよう天塚、五分前行動か?」
「おはよう阿形、そんな偉くないよ」
時間にしては三十秒差ぐらいだったこいつも、五分前行動と変わんないな。俺と違って普段から心がけているのだろうか。
「今の人たち何者だろ?」
ダンジョンの中へと消えた集団を見て阿形が呟いた。
「さぁ、でもただの」
「おっすおはよう!」
最後まで言い終える前に横槍が入った。盾が武器の少年だ。名前は草壁 太郎。がっしりとした体型で盾にはうってつけの少年だ。
そこからはバラバラと転移してきて二分前には全員が集まっていた。
「じゃあ二日目行くか! 今日の目標は二週だ!」
おおー! という呑気な掛け声とともに中へ入る。さっき入っていった人達とぶつかるかもな〜とか思っていたが全くそんなことは無かった。
それはあの者達が勇者と同じかそれ以上のペースで敵を倒し、先に進んでいるということだ。
一周目が終わり外に出ると太陽はちょうど真上に君臨し、心地よい陽射しが顔を照らした。
「二週目に行く前に昼食にしよう!」
勇者のスキルの中には【調理】スキルも含まれていた。各自猿の肉やらなんやらを取り出し【調理】スキルに従って作っていく。
「それでは」
「「頂きます!」」
美味しい匂いが漂うものもあれば焦げ臭い、何故か腐乱臭がするものもある。
「こりゃ……食べられないな」
阿形のも酷かった。他にもひどい人はいたが、元の素材の味が完全に消えているのは阿形だけだったのではないだろうか。
そんな遠足のお昼の様な時間を過ごし、再びダンジョンへと足を踏み入れた。
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