第二十二話 稲荷神
「なっなんで!? 今まで通れてたのに!」
「落ち着いて、むっちゃん! とりあえず目の前の敵を!」
「う、うん!」
と、むっちゃんを落ち着けたものの解決策は全く思いつかない。
「この霊格は!? むっちゃん!来るわ」
「もう来るの!? 」
異空間の中が夜になっていく。
『待ち遠しかったぞ小娘が! 』
おぞましい気と共に声が聞こえた。イビルダーをこの街に放出している元凶だ。
「何故このような事を?」
『俺はこの街の氏神だ。氏神という存在は人々の信仰ありきの存在だ。俺への信仰を全て奪っていったあの魔王がいなければ俺もこんなことをする必要はない!』
よく分かりはしないが人々の信仰? とやらを魔王に奪われたから倒してやろうとしているのか。
「夜になると貴方は強くなってしまう。だから今ここで倒させてもらうわ」
勝算などないが、これを外に出したらどちらにしろ戦うことになりそうだ。ならばできるだけ犠牲を減らすようにするべきだろう。
「ちーちゃん! 無茶だよ!」
「むっちゃんは黙ってなさい」
無理なのは百も承知。それでも逃げ道など残されてはいない。
『俺の子らをいじめてくれたお礼だ、しっかり殺してやる!』
氏神と名乗る化け物は尾が二つに割れている巨大な狐だ。真っ黒に染まり目は赤く染まっている。
「稲荷神・アスタリー! ちーちゃんやるんだね?」
「ええ、やるわよ。ここで倒し切る」
大きすぎる尾が振り下ろされる。避けざまにむっちゃんが一撃を入れる。
『なっなんだその刀は! なんなんだお前は!?』
巨大な狐が吠える。今の一撃は一本目のゲージを五パーセントほど削った。
「なんで狼狽えてるか分からないけどチャンスよ!」
「せいやぁ!」
むっちゃんの一撃は惜しくも避けられた。廃墟とも言えるこの空間を素早く駆け回る狐に光の矢は当たらない。
「ふんがぁ! 今だよ、ちーちゃん!」
だから私は力を貯めて大きな矢を作っていた。むっちゃんも私の意図に気づき狐の動きを止めてくれた。
ーーーー絶対に当てる!
ビュン!! ドガァァーーッン!!
光の矢は狐の頭を射抜いた。痛みに悶える狐の悲鳴は聞こえない。悲鳴を上げる顔を失った。
「やったねちーちゃん!」
「ダメっ! 離れて!」
狐の尾がむっちゃんを襲う。むっちゃんは吹き飛ばされ瓦礫に派手に突っ込んだ。
「むっちゃん! なっ!? 顔が!?」
狐の頭部がみるみる再生されていく。
『ガァァーーーーア!!』
獣のような叫び声と共に、狐の足元から木の根が飛び出す。それらは真っ直ぐ私を狙ってきた。
「くっ! 数が多すぎる! むっちゃん!」
呼んでも返事はない。四本あった体力ゲージは残り二本になっている。そのあと二本を削れる見込みは限りなくゼロに近い。
「とにかくむっちゃんを!」
木の根に追いかけられながらも彼女が突っ込んだ瓦礫を目指して飛ぶ。
瓦礫の中には額から血を流す彼女が倒れていた。
「大丈夫!? むっちゃん!」
「んっ、ちーちゃん! 後ろ!」
木の根が飛んできていた。
ーーーーこのままでは間に合わない!
「ちーちゃん、ごめん意識がもう……」
「むっちゃん! くっ! 」
むっちゃんの手を取り、決死の思いで横っ飛びする。木の根が足首をかすったものの大した外傷はない。
「門の付近に運んで、どうすればいいの!?」
門まで飛び彼女を横にしてあげる。
「門、使えるかも」
『ガァーーア! ヨクモ、カミノシトメ!』
木の根の数が増える。流石にまともにやり合って無事で済む数は超えているだろう。手数が追いつかない。
私は木ではなく門に向かって矢を放った。縦に伸びてくる木の根を上から叩くのではなく横薙ぎにした方が効率が良いと考えたのだ。
「よしっ!」
その試みは上手くいき、門から地面と水平に放たれた光の矢は木の根を横から粉々にした。
「でもこれじゃジリ貧! あと一手が足りない!!」
門から放たれる矢を制御は出来ない。一定方向以外には飛ばせない為、そう上手くは行かない。
「くそっ!このままじゃあ!? うっ!」
木の根が靴底を諸共せず足裏を削った。そろそろ手詰まり、打開策は見当たらない。純粋に力、手数において劣ってしまっているのはこの傷が物語っている。
「せめてむっちゃんの手を借りれれば……きゃぁ!」
木の根が羽を貫通する。物理無効化のおかげで無傷ではあるが、そこまで侵入されたということだ。
「もうダメっ!!」
……木の根を三本打ち損じた。新たに矢を装填している猶予はないーーーー間に合わない。
「おりゃーーーーーーッ!」
ドゴォォーーーーーーン!!!!
凄まじい轟音と共に眼前まで迫ってきていた木の根が吹き飛ばされた。
光の放流が放出されたのは門の入り口からだ。そこにはひとつの少年の影があった。
「あなたどっちなの?」
「すげぇな、見えてんのか」
関心関心とも言わんばかりに頷く少年。手には光輝く剣を持っている。
「それの答えはまた後で、先に倒すぞ!」
「無理よ! 逃走手段を見つけた方がいいわ!」
木の根が見知らぬ少年を襲う。器用に防ぐもののかすり傷が増える。
「たっ確かに無理そうだ! 門はもう一人の仲間がどうにかしてくれる!!」
「じゃあ喜んで殿を務めさせていただくわ!」
「のった!」
少年は駆け出した。それを追うように地面から木の根が飛び出す。
私は本体を狙うが普通の矢では木の根を貫通するには至らない。だから力を貯めた大きな矢を放った。
ドガァァン!大きな土煙が矢が地面に着弾したことを示している。
やはり足止めがなければ避けられてしまう。
「貴方の仲間はまだなの!?」
「分かんねぇ! けど、このままなら大丈夫だ!」
確かに一撃も食らっていないが、体力と言うものもある。このまま維持出来なくなるのを待つだけなら意味が無い。
バキバキ、バキバキッッッンーー!!
門の周りの空間にヒビが入る。
「仲間が来たのね!」
ドォーン!! 派手な音と共に扉が倒れ、土煙の中からシルエットが浮かび上がる。
『陰気臭く、狭いな。俺には似合わない』
その一言で空気を凍てつかせた人物、人物と言っても良いのかどうか。その者の名は魔王だった。
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