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第二十一話 マリー

 ケーンと出会ってからの一通りの出来事を『マリーネット』に話した。彼女は羨ましそうに聞いていた。彼女は転移する手段がないようだ。


「で、ギルマスと『キャロル』は『アバロンの墓』に行くつもりなんですね、夜バージョンの」

「そのつもりだ」


 彼女は少し俯く。


「私の名前はマリー、ジョブは魔法薬学士です」

「AEWと同じじゃねぇか!」


 驚いて声を上げたのはケーンだった。自身のジョブを未だ不運に思っているのだろう。


使役者(テイマー)の方が断然いいですよ……完全な補助職業(サポートジョブ)は全くレベル上げが出来ない」


 沈黙が流れる。魔法薬学士は有能な補佐だ。しかしそれはレベルが最大の九十九まで上げていた場合だ。そのため初期はパーティーに寄生するしかないジョブなのだ。


 彼女はこう言いたいのだろう『約立たずだから放っておいてくれ』と。

 それは最善の行動だろう……しかし、俺たちにとっての最善の行動ではない!


「マリーは行かないつもりか?」

「……うん。足でまといになっちゃうし」

「はぁ。ギルメンの一人がこんなやつだとは思ってなかったぞ」

「……ごめんね」


 俺は偉そうに話しているもののこの中だけでなく『境界の旅団』の中で一番年下だったはずだ。それでもゲームと見た目の変わらないマリーにはギルマスとして偉そうに出来ていた。


「いいのか、マリー? このまま魔王が攻めてくるのを待って何もできずに死んでもいいのか?」

「それは! でも私のせいで死んじゃったら……」


 彼女は自身が無力なばかりに人が死んでしまうという事態になることを恐れているのだろう。

 しかし、それは他の人に対しての感情でいい。ギルマスとして頼って欲しかった。


「大丈夫だ、俺は、まぁ死なねぇし。『キャロル』を死なせても罪悪感に襲われることは無い!」

「おい! っても、ほら!うじうじするな。らしくもない、迷惑なんかかけてなんぼだろうが。ゲームと何ら変わんねぇよ」

「でも……」


 一方通行の会話になってしまう。俺たちの熱意を彼女の恐怖が受け流してしまう。再び沈黙が流れる。


「時間だ。マリー、明日もう一度来る」

「……分かった」


 俺たちは黙って店を出た。外からは肌寒い風が店内に吹き込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 徐々に日が暮れるのも早くなって来た十一月上旬、始まりの日から約一ヶ月が経ち人々はこの世界にも順応し始めてきている。


「はぁはぁ! ちーちゃん! そっち行ったよ!」

「了解」


 ピュンピュン! 正確に光の矢がイビルダーの脳天を貫いた。

 眩い光で出来た弓を扱う羽の生えた春川千夏はまるで天使のようだった。


 そして地上には二等の刀を持ち敵を切り刻んでいる少女がいた。彼女達二人にもレベルという概念は当てはめられている。

 中級モンスターのイビルダーはもう数えるのが馬鹿になるくらい倒した。そのおかげでレベルも六十を超えた。


「むっちゃん! 撤収よ! 日が落ちるわ」

「了解だよ!」


 日が落ちる。その後に出てくる化け物に彼女達二人はまだ敵わないと知っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 月明かりが廃病院を照らす。その中に野心に燃えるモンスターがいた。


 日々徐々に大きくなる力、倒されたイビルダーと倒されてしまった人達は全て吸収させてもらった。これで俺は魔王を倒せる力をも手に入れる!


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただいま〜、今日も無事だよ!」

「ただいま」

「おかえりなさい二人とも。先にお風呂に入って来なさい」

「は〜い」


 二人は浴室に向かう。この家はそれほど広いとは言えない一軒家だ。しかし、単身赴任中の父親が風呂好きで浴室だけは大きく改造されていた。そのため三人ぐらいまでなら一緒に入れるのだ。


「何度見てもなれないわ」

「あはは、これだけは勘弁してね。大切な傷だから」


 彼女の背中には斜めに大きな傷が刻まれていた。

 切り傷なのか、これほどの傷を負う状況とは一体どんな状況だったのだろうか。

 そもそも師匠とは何の師匠なのだろうか。


 そこに突っ込めるだけの勇気はなかった。聞いてしまえば今の関係が根本から崩れてしまうような気がしたからだ。


「どうしたの、ちーちゃん?」

「何でもないわ」


 私も彼女に対してジョブのことを言ってないんだしお互い様か。


「ちーちゃんも胸ないね」


 頭を洗っていると後から胸をモミモミしてくる不埒者がいた。毎日のように揉んでくる彼女には一度罰を与えなければ。


「そういう貴方もないでしょうが!」


 その言葉と同時に羽を出した。背中に張り付いている彼女もさぞ驚くことだろう。


「ちーちゃん、残念だったね」


 モミモミは止まらない。何故だろう?羽をぶつけるつもりでやったのに彼女の手は止まらない。


「この羽は物理無効化っぽいよ」

 モミモミ、モミモミ。


「そう、それは残念。で、覚悟はよろしい?」

「あわわ、やりすぎちゃったかな?」


 ゴーン、たんこぶができるのは避けられないであろうゲンコツが振り下ろされた。

 こんなやり取りを毎日出来ている私達は幸せだと思う。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目覚めのいい朝、彼女達はまた廃病院へと足を運んだ。


「今日こそたどり着けると言いけれど」

「レベルも上がって来てるから大丈夫だよ! ほら行こう!」


 病院の正面玄関だったであろう場所から中に入ると、それは別空間の入り口へと早変わりした。

 湧いて出てくるイビルダー達が今日も出迎えてくれた。


「行くわよむっちゃん」

「おう!」


 この広い廃墟のような別空間を抜け切ることが出来ていない。入ってきた門から出れば外には出られるが、それ以外の門は見当たらない。


「一度出ましょう、疲れたわ」

「分かった」


 出口にもなっている門を通る。


「「えっ!?」」


 しかし景色は依然として廃墟のままだった。

 こうして彼女達はダンジョンからの脱出方法を失った。

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