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第二十話 『マリーネット』

今回は凰雅だけです!

勇者と妹弟子達はまた今度!!

「これから暇なら『アバロンの墓』行かねぇか?」


 あれから五時間ほど一緒に素材を集めて貰い、刀が予備も含めて四本出来た。

『アバロンの墓』とはイングランドのグラストンベリーにあるダンジョンだ。アーサー王の眠る墓があると言われ、AEWでも大きく騒がれた。


 結局『アバロンの墓』はただの経験値ダンジョンでしかないという結論で落ち着いたのだが、アーサー王の墓に繋がるであろう伏線が多く張り巡らされていたのが原因か、大人気の経験値ダンジョンとなっていた。


「晩飯だけここで食べて行くならいいぜ。元々どっかの経験値ダンジョンには行こうと思ってたからな」


「晩飯って。ここ店とか何にもないぞ?」

「それは俺に任せてくれ。片手がない理由はそれから話すよ」

「了解だ。……何も無理しなくていいんだぞ」

「分かってら」


 あまりの罪悪感で右腕のことだけは話そうと思った。心配してくれているのは分かるが、迷惑はかけられない。


 俺はそんなことを思いながらもテキパキと金属の光沢を浴びた猫を調理する。ランカー達との時に何度も調理したおかげでやりやすい。


「お前、【調理】スキルも持ってるのか!?」

「まぁな、『キャロル』おじ、は持ってないのか?」


「だから『キャロル』じゃなくてケーンでいいって言ってんだろ? それに持ってるわけがねぇだろうが、【調理】スキルを持ってんのは料理人がジョブのやつだけだ」


 俺はふーんと適当に流しておく。ランカー達とのことはどう説明していいかも分からない。


「ほら出来たぞ」

「おお〜!! すっげえ美味そうな匂いだ! これが料理人に許された特権か〜」


「ん? 特権ってなんだ?」

「なんだギルマス、全然知らねぇんだな。【調理】スキルだけがAEWのモンスターを調理出来る方法なんだよ」


「へ〜、料理店でも開いてみるか」

「はははっ! もう遅いだろうよ!」


 確かにそれだけ料理人に需要があれば店を開くなど誰でも考えるだろうな。俺の街は魔王のせいで出遅れているからな。


「「「ご馳走様でした!」」」


 何故か約二十人で猫の肉を囲むハメになってしまった。こんな辺境の地に料理人がいるとは思わなかったのだろう。匂いにつられてゾロゾロと集まってきた。そうしてこの状態ができたと言うことだ。


「ほんとに金はいらないのか?」

「はい、商売じゃありませんので」


 この会話の繰り返しだ。意外と俺に気づく人は少ないが何人か気づき可愛そうな人を見る目と、失望していた人がいた。

 最も戦力になりそうなランキング一位のジョブが料理人ともなればそれはガッカリするのも当然だろう。

 実際は料理人なんかよりよっぽど酷いのだが……。



 それもやっとひと段落ついた。そしてケーンに右手のことを話した。


「そうか、調子乗って魔王の城に乗り込んだら、門番の酒呑童子に腕を吹っ飛ばされたと」

「そういうことだ」

「ならいいか。日本でテロでもあったのかと思ったよ」

「ん? 他の国ではあるのか?」

「そうか、……知らないならそれでいいや」


 しんみりした空気になる。何か辛い思い出でもあるのか悲しい顔をする。


「じゃあそろそろ行くか」

「もう夜だぞ?」

「だからこそだろ?」


 まっまさか!? このおっさん、あれ狙いか!


「まさかあれ狙いじゃねぇだろうな?」

「おお、もちろんあれ狙いだ」


 正気かケーン!? お化け屋敷どころじゃないぞ?


「命懸けのお化け屋敷なんてゴメンだ」

「なぁに面白いものが見れるはずだぜ? 早く行こうぜギルマス!」

「……じゃあお先に」


「へっ?」

「転移! 『アバロンの墓』!」

「そりゃねぇぞ! ギルマス!」


 あとから知ったのだが、【転移】スキルは数人を一緒に運べるらしい。知っていたはずだが自分が使うことは無かったので完全に忘れてしまっていた。


 ケーンには悪いことをしたなぁーとも思いつつも先についた俺は近くのハンバーガーショップで時間を潰すことにした。


「いらっしゃいませ〜、はぁ」


 入ったと同時に店員の挨拶とため息が出迎えてくれた。


「あ〜チーズバーガー、一つ」

「九十九ペンスになります」


 しまった! 完全に不法入国、監禁なんてしてるわけがない。

 てか、この店員どっかで見た気が……あっ!


「ギルマス〜何一人で行ってんのさ」

「悪ぃなケーン、金あるか?」

「ペンス?」

「ああ」

「ない」


 店員が初めてこっちに向いた。


「お客様、無銭飲食は禁止させて頂いております」


 やっぱり! こいつを俺はよく知ってる。


「じゃあ貸してくれよ()()()()()()?」

「へっ? もっもしかして、もしかしなくてもギルマスですか!?」

「久しぶりだなマリーネット、チーズバーガーを一つ頼む」

「りょ、了解です」


 店内に客は一人もいない。実のところ店員も一日に一人だそうだ。どこの飲食店もどうせ客来ないでしょ、って感じなんだそうだ。

 という訳で店員であるはずのマリーネットも客席に座っている。


「久しぶりだなマリーネット、アバターと本当に変わらないんだな」

「ちょっとギルマス! この人誰ですか? 馴れ馴れしくて気持ち悪いんですけど」


 俺とマリーネットが隣、向かいにケーンが座っている。彼女もアバターと中身を全く変えておらず見覚えがあった。

 俺は中身とアバターが一緒だと公言していなかったので驚かれることも多かったが、彼女はプレイヤーの時から公言していた。


「てんめぇ! まだ笑われる方がマシだったわ!」

「そう怒るなって、ぷぷ」

「んがぁ〜!! 俺だ!『キャロル』だ!」

「へっ?」


 当然のようにビビりまくっていたマリーネットの緊張が解ける。AEWでの『キャロル』の発言を思い出しているのだろう。上の空だ。


「ひゃー! 全く可愛げのない中身ですね!」

「うっせぇわ!」


 あはは、という笑い声が店内に響いた。何日かぶりに人々の笑い声を聞いた店も喜んだだろうか。





チーズバーガーの値段は日本円に換算すると約175円だそうです。ちょっと日本より高いですね。


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