第十七話 静安区
重大なことが今の今まで見落としていたことに気が付きました!
序章で大活躍した【投剣】スキルをスキルに書き忘れていたのです。そこを修正しました。
今後気をつけます……。
上海郊外に一人の放浪者が佇んでいた。人気が全くないその街は廃墟同然だ。しかし、街にはまだ生活の後が残っている。
「ここまで手が及んでからは一日経ったかどうかだな」
逃げ切った人はいないだろうかと街を散策したが一人も見つからなかった。
「こんな状態のどこに城を建てる場所がある訳がねぇじゃねぇか」
なんであの魔王が素直に教えてくれると思ったのだろうか? あの時の自分をひっぱたきに行きたい。
流石に人が全くいない場所に城を構えてもただ隠居しているだけだろう。何にしろ違う街へ移ることにした。
「現地の人に現状を聞いてみないと何もわかんねぇな〜」
ネット上に挙げられている情報はごく一部のみだ。【異国】を危険視し情報規制を厳しく行っているのだろう。
「とりあえず上海の海辺の街へ!」
綺麗な海と大勢の人々が俺を出迎えてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ーーーー全く、どうしてこうなった」
俺の左手には縄がかけられている。そして俺は奴隷の列の一員になっていた。
「すまねぇな坊主、俺達のせいで」
「おっさん達のせいじゃねぇよ。それにこんぐらいならいつでも逃げれる」
事実逃げようと思えばどうにでもなった。俺が着いた時には住民は既に捕まっており、人質となっていた。相手を倒し助け出すことも出来ただろう。
しかしこの騒動の全体像が見えてない今、最も欲しいのは情報だ。それを手に入れるためこうして従っているフリをしている。
「口を慎め奴隷共!」
そう叫ぶ男性の上には【NPC】キム56824 と表示されている。つまりただのモブキャラだったNPCが武器を取り、プレイヤーを弾圧するために立ち上がったのだ。
ーーーーそれは恐ろしいことこの上ないことなのだ。
「これから静安区へと移動する! そこがお前らの死に場所となるであろう」
もうそろそろいいか……
「おっさん達、もう少し耐えておいてくれよ。転移! 静安区!」
【拘束】スキルも付与されていない縄を使っている時点でAEWのことを詳しくは知らないことも分かった。もう用はない。
「消えちまった、あんなスキルあったっけ?」
「さぁ? でも強そうだったな。片腕しかなかったけど」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここか、まぁ、もってこいの場所だな」
ビルが立ち並び、その中には人々の影もあった。街のビルの数は大きく減り見渡す限り五つのビルしかない。そして静安寺がある、勿論ダンジョン化してはいるが。
「(かなり大きいな。そういえば『龍王』のクエストの分身体のダンジョンがここか)」
『龍王』のクエストについてはまぁ分かる時が来る訳で。それよりもモンスターの数が問題だった。
「(ひふ、みぃ、とぉ。多いな)」
【索敵】スキルで確認できたのは各ビルに三十体、静安寺に五十体。合わせてこの街にいるのは二百体ぐらいだろう。
「流石に無理だな。どうしたものか」
【索敵】スキルで確認できるのはあくまでもモンスターだけ。武装したNPCについては効果を示さない。
「(っやべぇ!! ボスがなんで出てきてやがんだ!?)」
今のレベル、体、全てにおいて静安寺のボス、『五竜体・紫龍』に勝てる要素は一つもない。
そんなボスが静安寺の中から出てきて何をする気だ?
「「紫龍様、本日の生け贄でございます」」
手と足を縛り口も塞がれた人間が各ビルから三人ずつ献上された。献上したのは五人とも中級モンスターだ。やはりNPCよりもモンスターの方が上位にいるのだろう。
「ご苦労、では儀式を始める」
紫龍の周りに触手の様な水が生け贄の人数分現れる。
生け贄は持ち上げられダンジョンの真上で停止した。
「(くそっ! 助けるべきなのに!)」
魔王とはまた違う恐怖があった。この相手には勝てない、そう体は理解してしまっている。体が動かない。
「糧となれ家畜共」
殺された。目の前で十五人が一秒足らずで絶命した。
ーーーー何も出来なかった。魔王の力を有しながら。
「やっほ〜紫龍ちゃん。今日も来たネー……殺しにっ!」
一人の女性が現れた。何事もないように街を歩き紫龍の射程圏内ギリギリで立ち止まった。
「っ! やはり来たか楊 鈴玉!! 今日こそ貴様を殺す!」
「あはっ! やっぱり紫龍ちゃんはいいネー!!」
両手剣を装備し、紫龍より先に襲いかかった三体の中級モンスターと激突した。
「なってない、なってないネー!」
「「くっ!」」
その一度の激突で中級モンスター達は腹から血を流していた。一方女性は全く傷を負っていない。
「(何者だ!? それにあの武器も中々に強い!)」
シンプルなデザインの両手剣だが、その刃は鋭く並のものではないことが分かる。
「お前ら退け! 俺がやる。お前達は手を出すな!」
「おおーモンスター風情が何を気取ってんだかネー。お前達の人間ごっこには反吐が出るネー!!」
両手剣を手に走り出した。それを紫龍は水で幾つもの龍を作り出し迎え撃つ。
「知ってるネー。お前が紫龍の分身体のことは。それでも充分ネー!」
「減らず口を! 激流の八龍!」
「これはやばいネー、投剣! まだまだネー!」
両手剣で六つの水の龍を切り落としたがあと二つ残っている。しかし、両手剣は手元にない。
バシュ!バシュ!
「終わりネー!」
「くそ、やはりほんたっグハッ!」
なんと女性は小手を元々装備していたのか殴って水の龍を吹き飛ばした。そしてがら空きになった紫龍の懐に潜り込み、スカッとする一撃がモロに入った。
「経験値はいただくネー」
「くそ、今日もまた」
紫龍の体は水のように溶け消えた。しかしダンジョンの崩壊が始まっていないということは、信じられないが本当に分身体だったのだろう。
「また来るネー」
その女性はどこかへ転移した。
俺は状況の急展開に全くついていけずしばらく物陰で唖然としているのだった。
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