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第十六話 龍王の異国

少し短めです。ごめんなさい

 龍王宮、そう称される城にあるモンスターがいた。

 その名は『龍王・アオスロット』、中華全土を恐怖で覆っている張本人だ。

 始まりの日、『龍王』は『人民大会堂』に出現した。まさにその時中華人民共和国の政治の未来を決める議会が行われていた。


「では日本への核弾道ミサイルを手始めに第三次世界大戦を始める。異議あるものはこの場で挙手を、なければこれを最終決定とし明日作戦を決行する!」


 首脳の働きを担う中央委員会総書記のとある人物がそう告げた。

 このままであれば第三次世界大戦が起こり日本に多大な損害を与えることになっていただろう。


 しかしあの日、十月九日の午後四時三十分。世界に災厄はもたらされた。運が良いのか悪いのか、『人民大会堂』はとあるモンスターの根城となった。

 中華人民共和国を動かしていた政治家が建物から出てくることはなく戦争を仕掛けるどころの話では無くなった。


 そして中国は古の王の名を語る『龍王』が統治する世界初の【異国】となった。

 そこにそんな事情を全く知らない少年が迷いこもうとしていた。……それが冒険の始まりだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「(おいおい、どぉなってんだこりゃあ?)」

 神野凰雅は中華人民共和国に来ている。とりあえず上海へ来てみたものの街の光景は歪なものだった。


「(賑わいすぎだろ! モンスターはどうなってんだ?)」

 想像していたのは厳重体制となり閑散とした街だった。しかし、道を往来するのも困難なぐらい人で溢れている。


「あっ! どれいだ。お母さん! こんなところにどれいがいるよ!」

「……は?」


 最初全く理解出来なかった。見知らぬ子供に指をさされ奴隷と罵られたのだ。


「ほんとねぇ、なんで入って来ているのかしら? おいお前何をしに来た? 命を捨てに来たのか?」

「何言ってんだ? 普通に……」


 こんな時に観光はおかしいか。じゃあゲームらしく行くか。


「レベル上げだ」

「奴隷が何を行ってるの? 今日の生贄はこの人?」

「はっ? 何を」

「みんな〜! 奴隷が一匹迷い込んだわ!」

「そろそろ怒るぞ!」

「奴隷が私達に? それは他の奴隷達を捨てるということでいいのかしら」


 この街はどうなってんだ!? とりあえず逃げなきゃやべぇ!!

 街の人達の注目は完全に俺に向けられている。人も集まってきているようだ。何故かモンスターも走ってきている。


「転移! 自宅!」

 ヒュン! 目の前には見慣れた家の玄関の扉があった。家の中にしっかりと転移出来たようだ。


「どうなってたんだあれは、はぁびっくりした」

 家に帰ってきたのは四時間ほどぶりだ。とりあえず魔王の所で話を聞き『中華人民共和国が広いからいいんじゃないか』と言われ、上海へ渡った。



 どんと尻から座り込んだ。そしてスマホを取り出し『中華人民共和国』と検索する。

「マジかよ、こりゃ深刻だな」

 そこには

『モンスターに支配された国を【異国】とすることが決定! 中国が第一陣を切った!』

 という大見出しの記事があった。


「あんにゃろ騙しやがったな」


『ふ、騙される方が悪いのだ』とあの戦国脳は言うだろう。まあ、その通りなのだが。

 しかし、あの様子では人権を失ったのだろうか?


「……行くか」

 人が酷い目にあっているかもしれない、それを知った上で放置するのは信条に反する。


「どこへ? 行方不明だった神野君はどこへ行くのかしら」

 空耳か、今この家に声を発する生命体はいないはずだ。


 無視して扉を押そうとする。しかし前と違うのはそこにワンテンポ、ロスがあることだ。

 普段右手で行っていたことをする時に最初から左手を使えることはほとんどと言っていいほどなかった。癖でまず右手が出てしまうのだ。


「どこへ? と聞いたわ」

「中華人民共和国へ」

 空耳ではないらしい。……あれっ!? 空耳じゃない!


「誰だ!」

 勢いよく後ろを振り向く、剣を左手に装備して。このご時世、人が刃物を持ち歩いていない訳がないからだ。


「あら覚えてないかしら? クラスも確か一緒だったはずなのだけれど。私は春川千夏と言うものです」

「春川! なんで俺の家に? どうやって中に?」

「それは鍵穴をよく見てもらえれば分かるわ」


 鍵穴は潰れていた。鍵としての役割はもう果たせないだろう。


「器物破損と不法侵入。どっちで訴えてほしい?」

「不法侵入でないし、器物破損も私じゃないわ。行ったのは貴方の()()()よ」

「あいつはここにはもう帰ってこない。妹の存在を知っているなら事情も知っているだろう?」


 彼女はもうよその国で幸せに暮らしているだろう。

 あの事件があった時、もう会えないことは分かっていたのだ。


「さあ? 貴方に妹さんがいたのを知ったのはつい先程よ。そんな事情なんて関係なしに学校の近くで右往左往していたから声を掛けてあげただけよ」

「へっ? 見知らぬ人を俺の家に上げたのか!?」

「ええまぁ、いなかったものですから」


 なんて身勝手な! 春川千夏はこんなやつだったっけ?


「ああ、貴方と違って学校では話していなかったけれど私はこんな感じよ」

「猫かぶってて悪かったな」

「そういう意味で言ったのではないのだけれど、まあいいわ。ほらご本人の登場よ」


 顔を二階に向ける。そこの階段からドタバタと足音が聞こえて来て数秒、軽やかな声が聞こえた。


「あっ凰雅にぃ! 帰ってきたんだ!」


 二度と会う予定のなかった少女の顔が階段の上から覗いた。そして昔通りに殴りかかってきた。

 その出会いは吉と出るか凶と出るか、それはまだ分からない。




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