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第十四話 魔王の実力

 時を少し遡ること数分……丁度勇者達と酒呑童子の戦いの決着がついた時である。


「よっしゃー!! あの酒呑童子に勝ったぜ!」

「うぅ〜怖かったよぉ〜」


 反応はそれぞれバラバラだが曇った表情をしているのは天塚(あまつか) 瞳也(とうや)ぐらいだった。

 天塚も酒呑童子と互角に戦えるだけの力を持ったクラスメイトが羨ましいだけで今の状況に異を唱えたい訳では無い。


「この調子でサクッと魔王も倒しちゃいましょう!」

「「「おおーーー!」」」


 こんな感じのノリで門へと向かう途中、天塚だけが地面に落ちている本来有り得ないものを見つけた。そしてさらに驚いた。

 近づいた時に出たのだ……『?()?()?()()()』というカーソルが。生腕の上に。


「ひゃっ!」


 堪らず小さな悲鳴が漏れ出た。それに気づいたクラスメイトの一人が『どうかしたのか?』と声を掛けてくれたが『何でもない』と答えるしかなかった。


 どう見ても人の手である物がアイテム化しているなど信じたくもない。死んだ後に解体され、利用されるかもしれないのだ。

 そんな余分な情報を魔王との戦いを前にしたクラスメイト達に伝える必要は無いと思ったのだ。

 しかしもし、勇者達の中で腕を失った人がいれば義手代わりに使えると思い、拾い上げ収納した。


 これが天塚瞳也の運命でけでなく、世界の運命を大きく変える要因になることをまだ誰も知らない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前が魔王か! 俺達は勇者だお前を討伐しに来た!!」


 テンプレの様なセリフを吐く勇者A、その言動は絶対的な自信から来ているのだろう。しかし冷静な者は恐怖に怯えていた。


「行くぞみんな『主人公補正』発動!」

「ほう、興味深いスキルを使う。ステータスが俺と同じになったか。それがどうかしたのか?」

「……!」


 勇者Aが絶句する。勇者達のステータスは確かに上がった。そこらのモンスターとは比べ物にならない。『主人公補正』はレベルも敵に調整される。そのレベルを見て絶句したのだ。


「レベルが4999だとーー? それでこのステータスなのか?」

「なんだ? 俺のステータスはお気に召さなかったか。ーーーーおい、ジョブを自覚したお前はどう考える? 戦争を禁止し平和を謳う日本が魔王の所に三十人もの子供を向かわせているこの状況を!」

「……何を言っているんだ?」


 傍から見れば天井の隅に向かって話しかけている痛い人にしか見えないだろうが、その目は霧化した俺をしっかりと捉えていた。


「この戦いの後、最後の答えを聞こう……よく考えた方が身のためになる。

 勇者達よ来ぬのならこちらから行くぞ? 死の覚悟を持って挑め。持ち合わせていないものは今なら見逃してやろう」

「きゃあ! わ、私もう無理!!」


 魔王は言葉を言い終える前に殺気をぶつけた。これまでにのしかかっていた威圧感が楽に思えるほど強い憤怒を感じた。


「お主らはいいのだな?」

 それぞれ顔を確認し、覚悟を決めた目で椅子に座る魔王を見る。


「たった十人の少年達、それでも容赦はせんぞ。

 我が憤怒よ、古の時を経て顕現せよ!『終焰の夢境(イラ・エーヴィヒ)』!!」

 世界が変わる。業火に包まれた戦場、その中で魔王と十人の勇者達は対峙していた。


「ここはっ?」

「これは小さな異空間。俺が創り出した世界だ。お前達勇者に特有のスキルがあるように俺達魔王にもあるということだ」


 まだこの魔王の様にスキルまで見通すことは出来ない。それでも何のスキルを使ったかは自分のスキル欄を見れば分かった。


 スキル『創造新星(ジェネレイト・ノヴァ)』。このスキルは自らの心に強く刻んだ世界を創り空間ごと転移することが出来る。その世界では己が創造神、無敵であると言えるだろう。


「構えろ勇者共。一撃目で死んでくれるなよ?」

 黒い靄が現れた。やはり霧化の時の霧ではない。その黒い物体は広がり魔王を中心に壁の様に展開された。


新時代の軍器(ドーン・ウェポンズ)!」


 その魔王の代名詞とも言える銃が黒い靄から無数に現れた。その標準は全て勇者達に向けられている。

 そして魔王はこちらを見た。


「よく見ておけよ」


 次はお前がこうなる番だとでも告げるように口元を少し歪め、勇者達に向き直った。


「くそっ! 盾の奴はガードしろ! 他は全員補助だ!」

「精々俺を楽しませろ」

 直後、凄まじい轟音と共に一斉掃射された。勇者達も何か声を出しているが全く聞き取れない。


 その弾幕が途切れる。勇者達の武器が放つ聖なる光はその輝きを失っていた。


「良くぞ耐えたな。……しかし、他愛ない」

 一発の銃弾が一人の勇者の体を貫いた。悲鳴が上がることは無かった。その痛みで気絶してしまっているからだ。


「出てこい。もう誰も生きてはいない」

 そう冷酷に事実を突きつける。生きていないのは言われないでも地面を見れば分かった。その血の池は勇者となってしまった高校生達の受ける必要のなかった報いだ。


「何で殺した! 何のために、殺す必要なんて無かっただろうが!」

 人間として当たり前の心の叫びが口から飛び出る。それを聞いた魔王の目付きはより一層鋭くなった。


「本気で言っているのか? お前は勇者達の力を見て恐ろしいとは感じなかったのか?」

「ッッ! ……それは!」

「そうだ。それは生存本能として正しい。何も間違ってはいない」


 言い返す言葉が見つからない。違うと否定したいのに否定出来ない本心がそこに現れていた。


「それでも、俺達は魔王だ。……この世界にとっての悪になってしまった」

「だから黙って滅びろと? ふざけるな!! 俺がここで倒されて何になる? 恐怖が少し薄れるかもしれん、だが()()()()だ!」


 この魔王が倒される事で周囲の、いや日本全土、全世界に希望を与えられるかもしれない。

 しかしそれだけだ。それではあのゲームマスターには届かない。あの塔の頂上に居るであろうゲームマスターに辿り着くことすら出来ないだろう。


「最後の答えを聞こう、特異点。お前の存在は本来有り得ないものだ。しかしこちら側に着くならば考えてやらんでもない」

「……一つ質問をさせてくれ魔王。いや第六天魔王・織田信長! お前は自身の行動を悪と思うのか? 魔王という使命感のみで悪事を働いているのか?」

「……」


 沈黙が流れる。周囲の炎は未だ消えず燃え盛っている。

「使命感。確かに我ら魔王が顕現する時に我らを呼び顕現させた人物がいた。人間の醜さを語られ、その残虐性を語られ、……その未来を語られた」

「ならお前は!」

「勘違いするな、語られ最後の答えに俺はこう答えた。『貴様は何一つ理解していない。その汚点を含め人類の美点だと何故気づかない!』と。相手は何も答えなかった。そして俺はこの世界に降り立った」


 再び沈黙が流れる。周囲の炎はこころなしか高くなってきているように感じた。


「故に俺は己の行為を悪なんぞと思っていない! これが正しく、これが成功への最短ルートだと確信している!!」


 ああ、これが天下を目前に儚く散った男の目か。違う、天下統一その礎を築いた男の目だ。

 俺は勘違いをしていたのか。



「……この神野凰雅、数々の御無礼を心からお詫び申し上げます、魔王。俺は魔王としてこの世界を生きる」

「ならばこちら側と言うことでいいのだな。もう戻れないぞ」


 しかし譲れないものだってある。

「勘違いしないで頂きたい。俺は魔王になる、だからと言って貴方の行為を肯定する訳では無い。俺は魔王としてお前の行為をーー否定する!!」


 周囲の炎が一気に燃え上がった。

 今の答えが最善だったかと問われれば自身を持って首を縦に振ることはできない。未来に痛い目に遭うは目に見えている。

 ーーーーそれでも後悔だけは決してないと自身を持って答えることが出来た。


「ふふ、ふはははははははは! 愉快愉快これは愉快だ!魔王でありながら人間としての理性を持ち合わせた結果がこの答えか! 全く片腕を失った上で魔王に喧嘩を売る人間などどこにもいないぞ?」

「ーーへっ!?」


 想像していた反応とどれも違い過ぎて思わず間抜けな声が飛び出た。

 腹を抱えて大笑いする魔王は愉快そうにこう言った。


「この『憤怒』の魔王、織田信長が貴様の意思をしかと心に刻み込んだ! 精々死なぬよう励めよ『虚飾』の魔王‼︎」


 《ステータス》


 job 魔王 Lv30

 family 吸血鬼

 attack 4200

 lifepoint 11200

 defense 1300

 skill

 神器生成0/3 転移 隠密 調理 貫通 切断 索敵 虚飾(ベリアル) 創造新星(ジェネレイト・ノヴァ) 魔王特権 神気解放 吸血鬼化

 ※神気解放はjobと相反するため使用不可です。


(なんだかよくわからないが認められたならそれでいいか!)

 この時凰雅はステータスの下に出ている注意書きに気がついていなかった。

 一難去ってまた一難、帰宅した凰雅の口から大きなため息が吐き出されるのはそう遠くない未来だろう。

いよいよ魔王としての凰雅の物語が始まっていきます! 感想等宜しかったらお願いします。

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