第十三話 有頂天の代償
改行の使い方を少し変えてみました!
読みやすくなった、間延びしているetc感想を頂けるとありがたいです!
「あれは!? 酒呑童子か!」
土煙が上がったところまで二百メートルほど、そこには巨大な刀を両手に振り回す一匹の鬼がいた。
「あんな化け物デバフなしじゃ勝てないぞ!」
酒呑童子は『鬼頭領』という名前のクエストのボスだ。物語の中で神酒を手に入れ酒呑童子に飲ませることで酒呑童子は弱体化し倒せるようになる。
弱体化せずに倒そうと思ったものは居ないだろう。
「でもあれは、なんだ?」
鬼の足元でキラキラと発光している何かがある。
(思い違いでなければ聖剣などが発する光だったはずだがそれが複数?)
「行くしかねぇか」
刀を片手に持ち駆け出す。この程度の刀では使い捨ても同然だがないよりはマシだろう。
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「マジかよ、一人も死んでないのか?」
別に死ぬことを願って出た言葉ではない。単純に目の前の出来事の処理が追いついていなかっただけだ。
酒呑童子相手に互角、それ以上で戦えているクラスメイトを信じられなかった。
「主人公補正ってまさにチートだな」
「主人公補正ってスキルなんて聞いたことねぇな」
「新しいスキルだろうよ、俺達勇者にだけ与え……お前誰だよ!」
「いい事を聞いたありがとさん」
突然背後から声をかけられた。振り向くとそこには同い年くらいの少年がいた。
「前見といた方がいいんじゃねぇか?」
前を向くと酒呑童子が刀を振り上げていた所だった。直後、その刀は振り下ろされ斬撃がすぐ横を通った。
「何で分かった、んだ」
驚きのあまりしどろもどろになってしまったが、答えを求めた相手は霧のように消えていた。
「今の動作で見分けられるのか?」
酒呑童子が刀を振り上げて攻撃するパターンはいくつもある。その中から一つを確定するのは可能なことなのだろうか。
瞳也は前に向き直り戦闘を見据える。酒呑童子の刀を受け止め、時に弾き。そして反撃している彼らを見て純粋に羨ましく思った。
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「これが勇者か……凄まじいな」
ふと、つい少し前まで一緒に過ごした九人を思い出した。しかし彼らほど勇者達の技は洗練されていない。
「魔王には勝てないだろうな」
あの魔王の、ゲームでいうところのレートが酒呑童子とでは三段階は違うだろう。雑魚モンスターとボス級モンスターくらいの違いだ。
つまり、酒呑童子ごときで苦戦するようではあの魔王は絶対に倒せない。
「俺じゃ助けにはなれないしな」
スキル『吸血鬼化』の能力はピカイチではあった。まずレベルに関係なく『霧化』と『吸血鬼の翼』を使えるようになり、レベルに比例して筋力や再生力が上がるらしい。これはシステム上の数字には現れない、身体的な特徴の一つとしてカウントされるようだ。
現在、酒呑童子の脇をどうにか飛び抜けられないかと機会を伺っている。酒呑童子の体力ゲージは三本が削り切られ残り二本となっていた。そのため動きが激しく中々隙間が見つけられない。
『霧化を使え。霧化は一部の例外を除いて物理的障害を無視できる』
(この声はっ!)
紛れもない魔王の声だった。しかし辺りを見回してもどこにも姿は見当たらない、それでもそこにいるという気配だけは嫌という程感じられた。
「霧化は完全に見えなくなる訳じゃ無いはずだ」
『レベル次第でどうにでもなる。奴らが我の所に到達するまでがお主が我と語らえる時間だ。天守閣で我は待っている』
そう言って気配は消えた。レベル次第、あの魔王のレベルはいったい幾つなのだろうか。
とか呑気に思っている間に酒呑童子のゲージが残り一,五本になってしまった。
「行くか」
刀を振り回している所に恐る恐る、出来るだけ急いで近づいた。
(これを使いこなせれば死ぬことは無いんじゃねえか?)
この時俺は間違いなく調子に乗っていた。それを後悔するのはそう遅くはなかった。
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「しまっッ! ぐぁぁ!!」
(油断した! くっ!)
悲鳴を根性で飲み込み傷口を手で触れる。その切断面は荒々しかったが『吸血鬼化』の効果かどうかは分からないが血は止まっていた。
何が起きたのか、それは単純なことだった。
俺は本当に物理的障害を無視できるのかどうかを試すため酒呑童子の足元で待機していた。そして俺は酒呑童子の足を通り抜けた。
実際に通り抜けた訳では無い。霧は一度散開し、通り抜けた後にもう一度収縮したのだろう。その間の記憶は無かった。
そこで俺は『無敵じゃん!』的な感じで調子に乗った。何度もそこで試しもとい、遊んでしまった。ボス級モンスターの中でも上位に君臨する酒呑童子の攻撃が効かない、それは大きなアドバンテージになるからだ。
(ほーれ、ほーれ! むっ、そろそろ行かねば)
口調が変わるほど有頂天だった俺は少し気づくのが遅れた。
背後から迫る刀に気づいた、そこで俺は思い出す。
酒呑童子の刀には悪鬼に対する絶対的な攻撃力があったことを。
悪鬼の王である酒呑童子の刀は同族に対して無敵状態になる。本来のゲームであれば悪鬼特攻武器の素材になるだけだが今は体が違う、吸血鬼も悪鬼の一種とも言えるだろう。
しかし時すでに遅し、回避し切るだけの猶予は無かった。精々自前の刀で受け止めるだけの猶予しか無く、大した抵抗力にならないと知りながらもガードした。
結果……肘の少し上、その部分から千切れた。利き腕である右腕は後方に大きく吹き飛ばされ一人の勇者の前に落ちた。勇者はそれを脇に蹴飛ばし戦闘を続行した。霧化はもちろん解けている。
腕を取りに行くリスクと腕が無いことのデメリット、そしてゴールが目前であることを天秤にかけた。
ーーーー俺は利き腕を捨てるという選択をした。
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「随分遅かったな、それに怪我もしている」
「御託はいい、それよりもお前は俺の何を知っている!」
「ふ、ふははははは!! 何をだと? お前は己の何を知らない? この世界の全てであるジョブに決まっておるであろうが! このうつけが!!」
二つのことが確信に変わった。
「……やっぱりか。教えてくれ、俺の正体は何なんだ?」
一つは俺が知らなかった俺の正体。しかしそれをほぼ確信した時点で俺のステータスから???は消えていた。
「残念だが時間切れだ。霧化でもして観戦しておれ」
もう一つはこの魔王の正体だ。
この戦いでこの魔王の逸話を上回る力を目の当たりにすることになった。
そして心底目的を達成する前に死んでくれていて良かったと思った。
皆さんは魔王の正体に気がついていますでしょうか? 凰雅がいる神社を調べたらすぐに判明してしまいますが是非予想してみてください!
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