第九話 目覚め
あの日から三日が経った、目覚めてから一日が経ち凰雅は誰もいなくなった部屋から出ようとベッドから立ち上がりため息をついた。
階段を降り一階の台所に立った。リビングを見渡し変化が無いかを確認する。
「戻ってきたんだな……」
とても学生一人で住んでいるとは思えない外観の一戸建てだが、現在住んでいるのは俺だけだ。家庭環境は少し複雑で、ここの家賃を払ってくれているのは叔母にあたる人で、いつもよくしてくれていた。
「繋がらないか」
無情にも電話のコールに答えたのはプープーという話し中の音だが、恐らく叔母は生きていないだろう。あの日家そのものがダンジョンに取り込まれた可能性が高い。ーー本当の家族はもう居なくなってしまったのかもしれない。
あの日、現実世界はもう一つの世界に侵食された。世界の騒動が落ち着いた時、そのアナウンスは世界中に向かって放送された。『こちらゲームマスターで〜す! AEWの世界に侵食された気分はどうですー? 皆さんが元の世界に戻したいならグランドクエストに挑んでクリアしてください! その方々には願いを一つ叶えて差し上げます! 勿論死者を蘇らせることもね』
ピコン! グランドクエスト『異界の王城を踏破しろ』が発注されました。
この通知は例外なく全人類に発信され、希望を与えた。
『じゃあゲームスタート!!』
血塗られた世界で様々な思惑が交差した、各国が科学兵器を持ち出すのにそう時間はかからなかった。グランドクエストの場所の為だけに新たな島が創造され、中央に巨大な七十二階立ての塔が造られていた。
いち早く動いたのはアメリカだった。軍用機AXー5、約二十機がアメリカの基地から飛び立った。音速を軽く超えるその機体は五分とかからず世界の異変に気付いた、太平洋の中央部、そこには未知の大陸が存在していた。
『本部へ通信! 対象の破壊を実行します!』
二十機から一斉掃射が始まった、元々偵察用で作られたAXー5には大型マシンガンが一つ取り付けられているだけだ。しかし、目的は完全に破壊することではなく威嚇程度のものだった。
一機体から約二万の弾丸が撃ち放たれた、七十二階立ての塔でも科学兵器を用いれば破壊は用意だと考えていたがその考えは改めさせられることになった。
『本部へ! 機体に異常がっ!?』
通信が途中で途切れたのにはしっかりとした訳があった、機体が来た道を本来不可能な戻り方をした。まるで巻き戻しが起きたように五百メートルほど後進し、機体が部品一つ一つ、そして素材の金属にまで戻されてしまった。
アメリカ政府はこの事実を世界に公表し、接近を禁止するように呼びかけた。
『腑抜けた奴らめ、出し惜しみをするな! 核ミサイルをぶち当ててやれ』
アメリカを無視し、核ミサイルをロシアは放った。中国と共同開発されたその核ミサイルは射程距離がほぼ世界全域という最新鋭兵器だ。
その兵器は北方領土の上空を通過し太平洋の中央、七十二階立ての塔へと直進、直撃した。暴風が吹き荒れ七十二階立ての塔の効果も期待できるものだった
た形で復元され、AXー5と同じ末路を辿った。
国連はこれを未知の現象として安易に攻撃、接近することを禁止した。更にダンジョン域とそれ以外の生活可能域を指定し、ダンジョン域を立ち入り禁止とした。
そして現在、ニュースではテキスト画面についての説明やダンジョン域の解放の見立てなどが報道されている。少し遅めの朝ご飯を食パン一枚で済まし、目の前の、自分にしか見えない自分のステータス画面とにらめっこを再開した。
job ??? Lv 1
family 吸血鬼
attack 3000
lifepoint 10000
defense 100
skill
神器生成0/3 転移 隠密 調理 貫通 切断 索敵 ??? ??? ??? 神気解放
これが現在の俺のステータスだ、世界の境界っぽいのをぶち破ってこの世界に戻ってきた事は後悔していないが……これはちょっとな、いくら何でもおかしいと抗議したい!
familyとは種族の事だろう、何故吸血鬼!? 一番はこれだ、人間じゃなくなってしまっている。
次にjobだ、種族吸血鬼と来ておいて不明……skill欄の不明になっている所はjob獲得時に初期スキルとして設定されているものだろう。つまり、jobが何なのかがわからなければ使えない。神気解放においては何も分からなかった。
そしてトドメの一撃、神器生成スキルを使い果たして作り出した双剣。
《ソーン・カスタロフ》
type 双剣
attack 5000
ability 絶断 灼熱操作
絶断 : あらゆる抵抗を無にする。
灼熱操作 : 熱を吸収、着装出来る。
まあ、見た事もない性能だった。attack 5000は文句無しにチートだし、abilityも最強の分類に入るだろう。この表記にはあと一文、続きがある。
limit level90以上
そう、よくある装備制限だ。これで残っていた切り札も使用不可能、元々アイテムボックスなどに入っていた素材や、装備していなかった武器もこっち側に来る時に無くなってしまった。
装備できる武器が無い、しかし冷蔵庫の中はカラッポ。このままでは昼ご飯以降食べるものが無くなってしまう。
台所まで歩く、そこでふと目に付いた物を二本手に取り、財布だけが入った鞄の中に放り込む。
ーーーー俺は買い物に行く!!
そう決意し、玄関のドアを開け外の世界、地球とAEWが混ざり合った異世界へと足を踏み出した。
ステータスの内容を増やしました〜




