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怪音の誘い

作者: WOW

勢いで書きました。

初投稿です。

よろしくお願いします。

「あー、まただ…」

 深夜とも言っていい時間、男は「いい加減にしてくれ」と心の中で悪態をつきつつ無理やり目をつぶる。

「明日も仕事だし、早く寝たいんだけどな…」

 男が最近困っているのは、部屋の一角、箪笥と壁の間から聞こえてくるらしい原因不明の音である。

「らしい」というのは、この男が音の原因を調べない所にある。

 始まりは初夏の頃だったような記憶がある。寝る前は何も音がしないのに、「さて寝ようか」、と電気を消すと決まって謎の音がしめる。男は初めの内、「気のせいだろ」と思い、普通に寝ていた。

 しかし毎日のように音がするようになると、「これはおかしい」と思い始めてきた。男は怪奇現象の類いはそれほど信じてもいないが、これだけ毎日深夜に謎の音が鳴るという超状現象に対して恐怖心を抱くのは当然であろう。

 その結果、音の出所を突き止める、突き止めない以前に怖くなってしまった男は「まぁ多少うるさいけど、寝れないほどうるさい訳じゃないしほっておこう。」と思い、そのままにしていた。

 なので、箪笥周辺から音が出てるのは確かなのだが、それが裏から出てるのか、中から音がするのか、実際のところわからないのだ。



 …神経が太いのか、小心者なのかわからない男である。






「ふぁ~あ、ねっみ」

  結局、謎の音のせいで寝不足気味の男は、大あくびをしながら適当に手を抜きつつ仕事に打ち込んでいた。

「センパイ、最近ねむそうっすねー」

「あぁ、ちょっとな」

「何すか?彼女が毎日夜寝かせてくれないとか?」

「お前俺に彼女いないの知っててそれいってんだろ!」

「あっ、そうでしたねー(笑)」

  今話しかけてきたのは、同じ部署で働いている後輩である。一般的に「オタク」と呼ばれるような趣味を持ってる男にとって、今まで同じような趣味を持ってる人がいないこの会社の中は居心地が悪いまではいかないが、プライベートでも遊ぶような親密な関係になるような人が出来なかったのも事実である。

 しかしこの後輩はいわゆるリア充であり、オタク的な趣味も持っていないが、妙にこの男と馬があい、プライベートでもちょこちょこ遊ぶような間柄になっている。

「いやー、もう10月だっつーのに暑いっすねー、しかもクーラーは9月末までしか使っちゃダメってほんとこの会社ふざけてますよねー」

「まぁ最近景気悪いからな、金を削れるとこは削らないと」

「それはそうなんだろうと思いますけどねー……」

「あっ、そっか」

「ん、どうした?」

「センパイもフィギュアとかゲームとか買うために、女に使う金を削ってんですねー」

「女は金かかりますからねー、納得、納得」

「お前もう仕事手伝ってやらんぞ」

「あー!冗談ですってー!これからもお願いしますよー」

 

 

 そんな感じで雑談をしつつ仕事を無難にこなしていき、今日の仕事も終わろうかという時間になった時に男は有ることを思い出した。

「小林、そろそろ上がるか?」

「そうっすねー、これが終わったら帰ります」

「ところでお前、この間学生のころ肝試しで色んなとこ行ったって言ってたよな?」

「そうっすねー、幽霊なんて非科学的なもんは信じてないっすけど、それを居ないって証明するには自分で実証するのが一番ですからねー」

「だからそんときは友達とかと色んなとこ見て回りましたねー」

「幽霊が存在しないことを証明したかったのか?」

「んー、まぁそんなとこっす」

 と言って小林は何故か少し寂しそうに笑った。

「それはともかく、急に肝試しってどうしたんすか?」

「センパイは一緒に肝試ししてくれるような女いないでしょうに(笑)」

「お前は二言目には女だな……」

「センパイも早く彼女作ればわかりますよ」

「上から目線が妙に腹立つわ!」

「ははっ、じゃあそろそろ帰りますかー」

「センパイ、おつかれーす」

 会話を切り上げ、帰ろうとした小林を男が引き留める。

「なぁ小林、このあと暇か?」

「はい?まぁ暇ですねー、飲みにつれてってくれんすか?ごちでーす」

「それはまた今度な、別件でお前に頼みがあるんだが……」

「なんすかー?」



「今日、うちに泊まってくれないか?」



「…………センパイ」

「ん?どうした?」

「女にもてないからって遂に男に……」

「違うわ!!」






「いやー、マジでセンパイがそっちの道にいったかと思ってビビりましたよー」

「まぁ俺も説明不足だったかもしれないけどさ……」

 今二人がいるのは問題の男の家だ。自分で謎の音の原因を探求するのが怖くなってしまった男は、後輩の小林が怪奇現象などのオカルトネタが好きだと言っていたことを思い出し、謎の音の確認を任せようと画策したのだ。

「俺を家に呼んだ理由はわかりましたけど、ほんとにそんな音なるんすかー?」

「あぁ、まぁ信じられないだろうけどな、自分で確認すんのが怖くなっちゃって」

「それで俺を呼んだと」

「ザッツライト」

「何故に英語……」



 それからしばらく経ち、深夜0時頃

「センパイセンパイ、もうこんな時間っすけど、そろそろっすか?」

「それがなぁ、不思議なことに電気を消して寝ようとしない限り鳴り出さないんだこれが」

「電気が着いてると鳴らないってことですか?」

「それとも電気が消えてても自分が寝る態勢じゃないと鳴らないんすかね?」

「いや、そこら辺の細かい確認はしてないな」

「まぁでも純粋に眠くなってか来たしもう寝ようぜ」

「うわー、だいぶ適当だよこの人」

「ってことでそろそろ寝るか」

「うちは布団が一つしかないからな、俺は布団で寝る。」

「お前は玄関にでも寝ててくれ、音がし始めたら呼ぶから」

「自分で呼んだ客人を玄関で寝かせるとかどんだけ鬼畜なんすか……」

「冗談だよ、冗談」

 そんな軽口を交わしつつ、ふすまを開け何かを取り出す男。そしてそれを小林の方に差し出した。

「ほれ、これ使え」

「寝袋とか初めてですよー」

「ところで何でこんなん持ってんすか?」

「ああ、昔山登りしてた時期があってな、そんときのだ」

「まぁ、山登り自体はすぐやめちゃったんだけどな」

「へー、そうなんすねー」

「じゃあ寝ますか?」

「そうだな、音がし始めたら確認頼むわ」

「了解でーす」



 それからすぐ電気を消し、二人とも寝る態勢を整えた。

「いやー、俺自分のうち以外で泊まるのひさびさっすよー」

「そうなのか?毎日違う女の家に泊まり歩いてるんじゃないのか?」

「センパイが俺のことどう思ってるかよく分かりました」

「俺けっこう一途なんすけどねー」

「…………へー」

「絶対信じてないよこの人……」

「いやー実際マジで俺は一途なんですよ?ただ何て言うか俺の熱すぎる情熱がただ一人の女性を愛させてくれないっていうか?」

「逆に言うと女性の方が俺の愛を受け止めきれないっていう面も有るかもしれないですね」

「あっ、だからみんな3ヶ月位で俺の元を去って行くんですね!」

「みさきちゃんもあいちゃんもチャラすぎて無理って俺のことフっていったけど、本当の理由はそういうことだったのかー」

「だからと言って俺のこの重すぎる愛を受け止めてくれる人を探すのにどんだけ掛かるかわからない。その間彼女が居ないのなんて耐えられない!」

「いったい俺はどうすればいいんだ!」

「センパイはどう思いますー?ってかセンパイの周りに包容力のある綺麗な女の人居ないんすか?」

「あっすいません、センパイの周りに女性なんていなかったですね(笑)」

「…………」

「あれ?無視ですか?もしかして図星だったから怒っちゃったんですかー?」

「……………………」

「…………え?ほんとに怒ってます?」

「…………………………」

「すいません!俺調子に乗りすぎました!だから許してください!」

「…………zzzzz」

「って寝とるーーーー!!!」

「え?マジかこの人」

「自分で俺のこと呼んどいてこんなすぐ寝る!?」

「センパイ、起きてくださいよセンパイ!」

 そう言いながら男の体を揺らす小林。

「………………zzzzz」

「全然起きねーー!!」

「ウソだろ?もうこれ音とか関係無いじゃん!」

「はぁ~あ、もういいや、俺も寝よう」

「どうせ謎の音もセンパイの気のせいだろ」

「ってかセンパイいつから寝てたんだろう、もしかして俺ずっと独り言いってた?めっちゃはずいじゃん」

「明日になったらセンパイに文句言ってやる……」





 それから約20分後、ようやくうとうとし始めた小林。

 しかしそこで音が鳴り始める。


 カタッ

 カタカタッ

「センパイ……うるさいですよ……」


 トン

 トントンッ

「うーん……」

 呻きつつ音から逃げるように縮こまる小林。

 しかし……


 ドンッ

「うおっ!」

 かなり大きな音がして、反射的に飛び起きてしまった。

「もしかしてこれが……?」

「センパイ、これですか?センパイ!!」

 男を起こそうとするが全く起きる気配がしない。その間も謎の音は鳴り続けている。

「くそっ、全然起きねぇ」

 もう起こすのを諦め、自分一人で原因を確かめに行くことにした。暗闇のなかで音の出所までいくのはさすがに怖かったので、電気を着けようとしたときあることを思い出した。

「そういえば電気を消してないと鳴らないって言ってたような……」

 かなり不確定な情報だったが、電気を消したまま行動することにした。寝る態勢がどうとか言う話は「よく考えたら寝たまま調べられないじゃん」という根本的なところに気付き、全く気にしないでおいた。

 しかし暗さに目が慣れていない状況で、しかも他人の家で物の配置もわからない中動くのに少しだけ躊躇った小林は、携帯の明かりで探りさぐり原因と思われる箪笥まで向かうことにした。

 もし携帯の明かりすらアウトで、音が鳴りやんでしまってもそれはそれでもういいと割りきり、足元を照らしつつ箪笥まで移動した。

「どうやら携帯の明かりくらいなら大丈夫らしい」

 恐怖心はあったが、それ以上に好奇心の方が上回っていた小林は、いよいよ原因と思われる箪笥の引き出しに手をかけた。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 恐怖心に打ち勝つ為に独り言を呟きつつ、上から引き出しを開けていく。音は鳴りやまない。

 箪笥の中に入っていたのは、上の方は衣類、中段にゲームやらラノベやらがところ狭しと入っていた、そして一番下の段には……

「……センパイ、俺来る前に片付けとこうとか思わなかったのかな」

 いわゆる成人向けのあれやこれやがぎっしり入っていた。

「……まぁ今日の給料ってことで」

 なんてことを呟きつつ、自分の服の下に自分好みの雑誌を何冊か拝借する小林。

「引き出しの中は違う……かなぁ」

「もしほんとに心霊現象的なやつだったら素人の俺に原因なんてわかるはずないけど……」

「後は箪笥の裏を調べてみるか」

 一番下の引き出しの中身を見てからすっかり気を抜かれてしまった小林は、音が鳴りやまないのもあまり気にならなくなり、裏を一通り見てもう終わりにしようとした。

 箪笥をゆっくり動かし、裏を携帯の明かりで何か異変がないか見ていく。

「やっぱり特に何も……ん?」

 そこで見つけたのは小さな穴だった。箪笥のちょうど真ん中に、だいたい直径10センチくらいの穴が空いていた。それとなくスマホの明かりをその穴に近づけ、中を覗いてみると




 何も見えなかった。




 その瞬間、小林は全身から汗が吹き出してくるのを感じた。

 もし、そこに穴が空いていたら引き出しの裏側が見えるはずだ。しかし何度見直そうと穴の中に見えるのは暗闇のみ。

「な……んだ?これ?」

 震える両手を畳につけ、耳をその穴に近づけてみる。



 ドッ



「ここから聞こえる……」

 一度は消えた恐怖心が、じわじわと、しかし音が聞こえ始めた時以上に沸いてきた。

 ごくり、と唾を飲み込み指を入れてみる。

「は、はは、マジかこれ……」

 穴のなかは全く感触がなかった。指を入れれば入れた分だけ入っていく。そして……

「何でもありだな……」

 穴の中に手首まで入ったとき、小林はそう呟いた。



 そう、穴が広がるのだ。

 何の感触もなしに。

「どうなってんだマジでこれ」

 そこで一旦手を引き抜き、深呼吸をして落ち着こうと試みる。

「落ち着け……」

 少しだけ平常心を取り戻した小林は、穴の向こう側を見てみたくなった。しかしこの謎の空間に頭をいれるという行為にどうにも恐怖心を拭えず、5分ほど好奇心と恐怖心の間で葛藤した後

「よしっ」

 と掛け声をかけ、ゆっくり頭を入れてみた。





 そこで見たのは本物の暗闇だった。

 自分が目を閉じているのか、開いているのかも分からなくなってくる。首を振って上下左右を確認しても何もない。上という概念、下という概念が確認できないほど、人類が経験したこともないような空間。そして何故か音は頭を入れた時から聞こえなくなった。

 例えるならやはり宇宙空間に似ているのだろうか。もちろん小林は宇宙に行ったことはない。しかし小林はこれは宇宙とは全く別の空間だと確信していた。

 星がみえないから、とかそんな理由ではない。

 漠然とだが「これは違う」と本能で感じていた。

 そんな空間を目の当たりにしている小林は、しかし恐怖心は微塵も感じず、そればかりか見とれてしまっていた。

 もちろん見とれる、と言っても何か有るわけではない。

 逆に何もなく、何も聞こえないその空間そのものに、神々しさを感じていた。




 どれくらいそうしていただろう、「時間と空間は同じものってどっかで聞いた記憶が有るけど、こう言うことか」などと、とりとめのないことを考えていた時それは起こった。

 今まで何もなかったはずの空間に、光があった。

 それは散発的に輝くような光ではなく、まるで最初からそこにあったかのようにずっと輝いている。

 その光を見た小林は、ごく自然にそれに向かって進んでいった。周りは相変わらず暗闇で、その光までの距離感も全く分からなかったが、それでも小林の心には不安や恐怖など全く無かった。

 浮遊するように進んでいきながら小林は呟く。

「行かなきゃ……」





「で?朝になったら小林さんが居なくなってたと?」

「……はい」

 悲痛な面持ちで警察官の問いに答える男。



 土曜、自分が寝過ごしてしまったことに気付いた男は、すぐに小林に謝ろうとした。

 だが家のなかに小林の姿はなく、自分より先に起きてそのまま帰ったと思い、軽い謝罪のラインを送り、後は月曜にもう一回謝ろうと思い、そのまま2度寝した。

 しかし返答もなく月曜になっても姿を現さない小林に不安を覚えた男は、小林の家にその日のうちに行った。

 古びたマンションに一人暮らしの小林の家には鍵が掛かっており、人がいる気配も全くなく、そして小林の家族の連絡先など知ってるはずもなく、警察に相談した。

 1日会社を無断欠勤したくらいで警察に捜索届けを出した男の行動は、少し慌てすぎだと言えなくもないが、しかしそれは正解であった。



 男にとって愛すべき後輩、小林には家族が居なかったのである。

 父は小林が3歳の時に蒸発、母親は6歳の頃に死亡。

 妹が一人居て、両親が死んだ後二人とも親戚に預けられるはずが、何があったのか妹の方だけ預けられ、兄である小林はその後孤児院で育ったらしい。

 そして男の予想とは裏腹に、親しい友達は居らず、もし男が捜索願いを出さなければ、警察が動き出すのはもっと後になったことであろう。

「お前も、ずっと一人だったんだな……」

 人知れず男は、そんなことを呟いた。





 警察官から小林の身辺の状況を聞き、あなたを疑ってますオーラ全開の取り調べを受け、家に帰ったのは深夜であった。

「あー疲れた」

「第一発見者は疑われるってドラマのなかだけじゃ無かったのかよ……」

「まぁでも、一番怪しいのは俺だよな……」

「小林……どこにいんだよ……」




 それから1週間経った、しかし小林の行方は全くつかめず、警察が何度か男の家に取り調べに来た。

 また、会社の中でも小林失踪の話題で持ちきりで、有ること無いこと無責任に囁いている会社のやつらに腹が立ったりしていた。

 男の周りで変わったことと言えば例の音が鳴らなくなったことだ。今までうるさいくらいに鳴っていたのに、小林の失踪後、それがピタリとやんだ。

 男も自分ができる範囲で小林の行方を探してみたが、素人が警察の捜索よりもいい成果をあげられるはずもなく、更に3週間が経過した。





 小林失踪から1ヶ月、会社内ではもう小林の話題すら上がらず、最初から居なかったような雰囲気になっていた。

(人が一人居なくなったのに、こんなに簡単に忘れられるのか!)

(薄情ものどもめ!)

 心のなかでは他人に対して悪態をつくが、面と向かって言えず、それが男のストレスになっていった。





 ある日、とうとう我慢出来なくなった男は、飲めない酒を買い、家のなかで飲んでいた。

「こばやしーおまえどこいったんだよー」

「会社でまたしゃべるやついなくなったじゃねぇかー」

「お前の女自慢と軽口、また聞かせてくれよー」

「ばかやろうが、くそ……」

 泣きながら酒を飲み続けて、やがて飲み潰れて寝始めた。




 そして深夜、男はもう聞かなくなったはずの音で目が覚める。



 ガチッ



「……んーー?」



 トントン



「……うるさい」



 バンッ



「はっ!!」

 飛び起きた。

 久々の感じだった。

 約1ヶ月ぶりの、謎の音だ。

 懐かしさすら感じるそれは、やはり不快感と、若干の恐怖心を感じる。

 しかし今回はそれだけで収まらなかった。



 ♪~



「うおっ!!」

 それは男のスマホから鳴っていた。

 ほぼ誰からも連絡が来なくなったその音楽が、メールの着信音であったと思い出すのに少々の時間を要した。

「誰だ?」

 それは絶対に連絡が来るはずのない人の名前を指していた。

「…………は?」



 FROM:小林

 件名 お久しぶりっすー



 本文

 お久しぶりです!センパイ!

 いや、もしかしたらまだ俺はそっちにいるかもしれないっすね。

 あの空間を通るときに時空がねじ曲がるらしいんで、もしこのメールがワケわかんなかったらそんときまでスルーしてください!

 そんときってどんなときだー?って聞かれても教えられないっすよーあいつが言うにはこのメールも結構ルールギリギリらしいんで、詳しいことは言えないっす!すんません!

 ただ?やっぱりセンパイにはめっちゃ世話になったんで?何も言えないままじゃあれだなぁーと思って、無理いって連絡させてもらってる次第です!

 えーと、今生の別れみたいになってますけど、そんなことはないっす。もしセンパイが望むならまた会えます。

 こっちに来て結構経つけど、センパイのことは時々思い出します。センパイはオタクだし女にもモテないけど、見た目に反して仕事めっちゃ早いし、俺がきついときは何も言わないで助けてくれるし。

 だから俺がピンチの時、「あーセンパイ来てくんないかなー」って何回も思ってました。

 でも最近じゃ俺にも仲間ができて、なんとか支えあって頑張って生きてます。

 こっちはそっちと比べて生きるのが精一杯って時もあって、ほんとに帰りたくなる時もあるけど、全ては母さんの為なんで、頑張ります!

 それじゃあ、長くなってもあれなんで、最期にひとことだけ。





 センパイ、お世話になりました!!





 PS.引き出しの一番下に入ってたやつ、すっげぇ役立ちました!






「んだよ……訳わかんねぇよ……グスッ」

「ってかあれ持ってったのお前かよ……うぅぅ……」 

 小林からのメールを読み終わった男は、泣いているのか笑っているのか分からないひどい顔でうずくまっていた。その状態のまま約20分後ようやく立ち直った男は、洗面台に向かいながら今まで起こったことを冷静に考え直す。

 洗面台で顔を洗い、頬を思いっきり叩く。

 何度か叩き、頬が真っ赤になったとこで少しは平常心を取り戻した。そこでこのメールから分かることを考えてみた。

 まず分かったことは、これは直感だがもう小林には会えないということだ。「また会えます」なんて書かれてはいるが、その中身は別れの際に言うような印象を受けた。

 そして「あの空間を通るとき」という一言。

 メールが通る場所、そこを「あの空間」と読んでいることがわかる。スマホ、若しくはガラケーでメールしたときは確かに電波が空間を通るが、そこを「あの空間」なんて呼ばないだろう。それを敢えてそう表現しているということは、小林はその空間を見たことがわかる。

 あと「最後」が「最期」になってるのはただ間違えただけだろう。

 あいつバカだし、と微笑む男。

 そこまで考えて、一息ついた男は蛇口からそのまま水をがぶ飲みし、そして叫んだ。





「あれ持ってったのお前かーー!!」

 …………冷静になってもう一回しっかりショックを受ける男であった。







 閑話休題


「じゃあ俺も行きますか」

 男はリュックサックを背負いつつそう言った。

 男の中ではもう小林の居場所は大体掴めた。あいつはもうこの地球上全てを探してもいない、そういう確信が男にはあった。


 煙の様に消えた、後輩 

 鳴りやんだ、怪音

 約1ヶ月後、再び鳴り始めた、怪音

 それと同時に来た、後輩からのメール



 音、そして小林。

 その二つはセットであることは一目瞭然だと言える。

 小林の居場所、それを解決するには、音の出所である箪笥周辺を調べればわかるはずと男は考えた。

 幸いにしてまだ音は鳴っている。

「分かってる、今いくよ」

 男にはもうその音が、小林の呼んでいる声にしか聞こえなくなっていた。

 そして男は、箪笥に手をかけた。

読んでいただき、ありがとうございました。

もし感想とかくれると嬉しいです。

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