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ペルソナ・ノン・グラータ 日本鎖国  作者: テロメア
第1章 後篇
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      ♪ 数週間後 ♪




 ☆大阪 関西国際空港(夜)



 風見蕾の復讐のために月女は空港に付いて来ていた。

 どうやらターゲットのウィッチガールは海外遠征に出ているらしい。

 蕾は取り敢えず、ウィッチガールの思考回路を考えて日本と揉めている国にするようだ。

 月女はエアチケットを購入しに行った蕾を空港内にあるベンチで待っていた。

「おーそーいーっ」

 待ちくたびれてそうぼやくが、蕾は一向に戻ってこない。

 暇すぎて持ち前の長い金髪をくるくるとして暇を潰す。

 その内それがだんだん楽しくなってきて、片手でポニーにしてぶーんと振り回して遊んでいると、ふと自分が暇すぎて壊れているのに気が付いて、月女は項垂れた。

 何やってんだろう、わたし……。

「ぁ――っ!」

 すると、息を呑むような声が聞こえたので月女が顔を上げると、そこには真っ青な顔になった日本人ではない目の小さな東洋人らしき少女と目があった。

 月女が愛想でにこっ、としたが少女は慌てて走って人混みに消えてしまった。

 何だったんだろう? と、思った尻から忘れた。

 ぼんやりとがやがやとした喧騒の空港内を見渡す。

 簡素な人を出迎える気ゼロな関西国際空港の殺風景な風景が広がっていた。

 空港ハブ化を唱える前に内装を変えた方が良いだろうと月女はぼんやりと思った。

 しかし、そんな殺風景な中にも人はたくさん溢れている。

 人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。

 人混みは人間の文明の象徴である。

 人のあるところに文明有り――月女は、人混みがそれなりに好きだった。

 何より、『人』という存在が好きだった。

 月女の趣味の一つが人間観察なのだから、当然の帰結の好みだった。

 そんな月女がいつものように人間観察をしていると、空港の入国審査をしているところが何やら騒がしい。どうやら、日本人以外の東洋人団体客が揉めている――と思ったら、その向こうではオーストラリア訛りの英語の怒声が聞こえ、白人団体客が同様に揉めていた。そのそれぞれの手には何やらアルファベットやら簡体字の漢字、ハングルらしき文字が赤色で殴り書きされた段ボール製のプラカードのような物が折り畳まれている。文字は読めない。

 そして彼らは何やら職員と言い争っている。

 何なんだろうと思いつつ、ぼんやりとそちらを見ていると、一人の東洋人の男がヒステリーを起こして金属探知機を強引に走り抜けた。

 それと同時にビー、と警報音が鳴るが、それでもお構いなしに彼は走り抜けた。警戒していた警備員達がその男を止めようとするが、その男は腰から抜きはなった一挺の拳銃で警備員二人を撃った。

 乾いた数発の銃声。

 一瞬の出来事で、喧騒が包んでいた空港の空気は凍り付き、辺りに静寂が走る。

 周りの客達が突然の銃声に皆自分の耳を疑い、その音の方を向いて固まる。

 が、周りの客達がその事態を把握する前に、その男の行動に次々に入国を止められていた他の団体客達が金属探知機を次々に通り抜け、辺りは警報音がけたたましく鳴り響く。その現状にようやく事態の異常に気付いた周りの客達は悲鳴と怒声で溢れかえる。

 一体、何が起きているのか分からなかったが、取り敢えず避難した方が良いだろうと、月女は判断して蕾を呼びに行こうとベンチから立ち上がる、と――


「見つけたぞッ!!」


 声が飛んできた。

 その声は月女自身に向けられたものだった。

 月女はそれに反応し振り返ると、

「魔女めッ!!」

 という声とともに先程の男がその銃口をこちらに向けていた。

 まずい――と、思ったときには既に銃声は鳴り響いており、銃弾が月女の額を撃ち抜いた。額を抜け頭蓋骨を抜け、脳味噌を螺旋状に回転する弾丸に(かく)(はん)され、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる感覚が背筋にまで走り抜けた。

 そして掻き混ぜられ大きく螺旋を描いた弾丸は、後頭部を大きく抉って――頭皮の肉片と長い金髪、頭蓋骨の骨片と脳漿、そして血の彼岸花を大きく咲かせた。

 真っ赤に飛び散った脳漿と血液はそのまま先程まで座っていたベンチを赤く染め上げる。

 月女の長く美しい金髪が、自らの赤い血液で染め上げられる。

 一瞬の意識の混濁。

 ――しかし、同時に修復が始まる。

 それは月女がベンチに倒れ込んだ時には既に終わっていた。

「いったーいっ!」

 脳味噌を掻き混ぜられた灼熱の痛みと、修復してベンチに頭を強く打ち付けた痛みに月女は頭を両手で押さえてごろごろと悶絶した。

「何すんのよ、こんにゃろっ!」

 ――と、鼻に残った血をふんっ、と()みながら反論すると、男はかたかたと震えだした。そして何やらぶつぶつと北京語で言っている「やっぱりだ……やっぱり、ネットで見たとおり――バケモンだ……」と。魔女だ、と。

 そして、かたかたと小刻みに震える拳銃がこちらに再び狙いを済ます。

魔女(ストリゴイイ)、ねぇ」

 言霊というものは魔法には欠かせないものだ。

 発した言葉が現実になる――つまり、彼が発した言葉もまた力を持ち、現実になる。

 月女は魔女たる妖艶な笑みを湛え、一瞬の内に『霧』に成り、相手の真正面に一瞬にして間合いを詰め、銃身をぎゅっ、とその小さな幼い両手で包む――同時に、左手で相手の指がトリガーを引けないよう押さえる。

「前戯もないなんて、どんなモラルの低い国から来たのぉ?」

 そう小さな身体には不釣り合いなぐらい艶めかしい笑みを浮かべて、右手で掴んだ拳銃の銃身を、ゆっくりと長く尖らせた舌の上に乗せて、ぬぷぅっ、と口に含んだ。銃身を咥えると「――んっ」と、甘い息が抜ける。大量の唾液を含んだ口腔から一度引き抜かれると、その無機質な銃身が妖艶な光沢を纏い、水っぽい鳴き声を上げる拳銃。機内に持ち込むためにプラスチック製で作られたその簡素な拳銃は、少し、ずっと保持していた男の味がした。

 大量の唾液が入り込み、空気の逃げ場が無くなった銃口から気泡が口腔内でぽこぽこ溢れ、弾けた――自らが持つ拳銃を何の恐怖もなく愛撫する少女の姿に、完全に青ざめている男を見やって、にやりと月女はした。


 瞬間――ガギリッ、と。


 その愛撫されていた銃身が砕け、愛撫の永遠の終了を告げる。

 その断絶音に短い悲鳴を上げる男。そして小さな両手が離され、ようやく拘束から逃れられたその男は銃身の無くなったプラスチック拳銃を持ったまま、尻餅を付いてその場で月女を見上げて震えていた。

 月女は噛み千切った銃身を舌の上で這わせて、くぱぁ、と()()っぽい口を開き、舌を垂らして噛み千切った銃身を床に落とす。透明の糸を引いた銃身が月女の幼い口から零れて、がちゅぁっ、と、大量の(れい)(ろう)な唾液に包まれた銃身が床に落ちた。

 銃口からは透明な唾液が零れ、まるで自らの体液のように床に広がって果てていた。

 その幼い唇の端から垂れた雫が顎まで伝っていた。

 あ、これだと夢魔(モロイイ)みたいだったかな――と、少し思いつつ。

 その雫を先の尖った舌で艶めかしく嘗め取り、

「あははっ」

 と、月女は無邪気に明るく笑った。

 それは駄目押しに彼の心を砕くのに十分効果的だった。

 現に、目の前の男はがたがたと床で震えて動かなくなっている。

 周りのその男の仲間の思われる輩もそれぞれの手に持っている獲物を震えさせていた。

 月女は考える。どうしてこんな輩が入国できたのだろうか、と。月女が思うに、ハイジャックなり、機長なりを買収したのだろうと推理した。

 その証拠に、月女の周りにはどうやって機内に持ち込んだのか分からないような多種多様な銃や鈍器、サバイバルナイフに鉈を所持した東洋人に白人が取り囲んでいた。

 要するにこいつらは世界的な魔女狩り集団なのだろう。

 日本国外だけで騒いでいたのに、連日の日本国内での在日外国人達による魔女狩りに感化されて、自分達もしたくて仕方がなくなって来日したのだろう。

 そこまで思考が至った段階で、一人の白人が奇声を上げて持っていた鈍器を振りかぶった。

 その行動に、性的興奮で短気になっていた月女は深い溜め息を吐き捨てた。


「人間のこういうところ……嫌ぁい」




 蕾が騒ぎに気付いて慌てて駆け付けた頃には、辺りには死屍累々の惨状になっていた。

 辺りにいた日本人を含む普通の客達は濁流のように逃げている、そんな集団ヒステリーの中、蕾は駆け付けた。

 が、目の前の惨状にショックのあまり苦労して入手したエアチケットを落としてしまった。

 その落としたチケットがあっと言う間に紅く染まった。

「あ、蕾」

「何やってんねん、自分ッ!!」

 蕾は返り血でべっとりと真っ赤に染まった髪の月女にそう怒鳴っていた。

 そのいきなりの激昂にさすがの月女も驚いて、少しきょどっていた。

「え? えーと……自己防衛、的な?」

 べっとりと粘着質な血の付いた、本来ならさらさらで綺麗な金髪が包む頭を掻きながら、「たはは……」と、何やら弁解の言葉を探すように深い碧色の目線が彷徨っている月女。

 その言葉と態度に蕾は怒りなのか怖れなのか分からない曖昧な表情をしてから、

「……ええからもう、さっさと逃げるでっ!」

 と、躊躇い混乱しつつもその肉片や骨片と化した死体が散らばり、真っ赤な血に染め上げられた濡れた床に滑りそうになりながらも入り込み、血で真っ赤に染まった月女の細い手を掴んだ。その手は血でねちゃ付いていた。

「外国行くんじゃないの?」

 そんな惨状の最中に居ながらも、まだそんな暢気な問いをする月女に怒鳴るように答える。

「こんな状況でどうやって行くねんっ!!」

 蕾は震えながらも取った月女の手を引きながら、退路を探した。

 月女の小さな身体が「痛い、蕾……」という少女を、ひこひこと半ば引き摺るように出口を探す蕾。しかし、全ての出入口には人という人が殺到して我先にと競い合っていた。

 従業員用出入口を探したが、それは蕾にはどこなのか分からなかった。

「くそっ、はよ逃げんと……」

 そんな内心の焦りを口に出した蕾の耳に、どこからともなく慌ただしい無数の足音が響いてきた。振り返ると、そこには自衛隊の部隊が機関銃を構えて隊列を作って二人を取り囲んでいた。

 驚いて月女を見ると、月女の頭や胸に赤い点が彷徨っていた。

「なッ!」

 慌てて自分の身体も見ると、胸の所に赤い点が彷徨っている。

 二人とも既にスナイパーに狙いを定められているのだろう。そう理解できる程度の冷静さはあった。二人とも吸血鬼の身体故、撃たれても死ぬことはないが、脳をやられれば一時的とはいえ意識は飛ぶ。

 その間に拘束されてしまう可能性が棄てきれない以上、二人とも動くことはできなかった。

「やばいな……どうやって逃げ――」



『その心配は要らないよー』



 どうやって逃げるかを必死に考えていたら、どこからともなくそんな間の抜けた声がした。

 どうやら館内放送のスピーカーからのようだった。

『安心してくれて良い、僕は外務省時空局時空第二課誓約者管理室室長の本郷鉄郎だ』

 その訳の分からない並びの中で唯一分かったのは相手が日本国政府の外務省の人間と言うことだけだった。

 蕾は内心の警戒レベルを引き上げようとしたとき、意外な言葉が聞こえてきた。


『君達を――保護しにきた』

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