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『神様』にとって、我々の住むこの世界がもし、『神様』たちの文化の一つなのだと仮定するならば、我々は他人の文化を否定してはならないし、また侵してはならない。
これは我々『人間』同士でもよく問題となることだ。
それを烏滸がましくも仮定とはいえ『創造神』たる『神様』に苦言を呈し、我々を救うようにいうのは筋違いであろう。たとえ、この世界全てが『神様』の思い通りだったとしても、作家がただただ茫漠とした平和を描かないのと同様、『神様』=作家としてそうであろうと仮定するならば、その創作活動を我々の人権を云々というのはまったくの筋違いであろう。我々が我々が描いた二次元キャラクターの人権を守るのと同様にそれは無意味な行為である。
ならば、我々『人間』は一体、『神様』に何が出来るのか、或いは何をして貰えるのか、と考えると、答えは簡単に一つしかない――何も、である。
そう、『神様』は何もしてくれないし、助けてもくれない。
それは当然である。
我々『人間』が『二次元キャラクター』に対して行うのと同じで、それらは『神様』にとってまったくの無意味な行為に他ならないからである。
今、天国が未発見な理由もこれに起因する――ない、のである。
つまり、描いても面白くないから、ない、のである。
さて、だからこそ私が思うことは一つである。
この世界を我々『人間』が楽しむことは不可能である。
何故なら、価値観の違う者によって作られた世界だからである。
故に、我々が楽しめる世界は『物語(二次元)』なのである。
理想郷とは、決して行けない世界だからこそ『理想』の『郷(場所)』なのである。
だが、我々はそれを発見した。
この功績は大きいだろう。
だがしかし、それを否定するアンチ二次元論者がいる。
私にとってははなはだ疑問なのだが、彼らを論ずるなら、それは『現状維持システム』や『摩擦』と言えるだろう。生物には新しいものに出会ったらそれが何なのか確かめるために、いろいろと否定するという防御反応が生じる。
それが生物としての最初としては正しい反応だろうと思う。
ならば、彼らはその内に消えるだろう。
何故なら、我々にとって『物語(二次元)』は『この世界』と違い『無秩序』ではなく『秩序』と言う我々『人間』の美意識で作られているからである。
決して『神様』の美意識の『混沌』とは違うのである。
しかし、二次元もその内から見たら『混沌』として見えるであろう。逆に、我々の世界も神様から見たらこの世界は『秩序』で出来ているのであろう。すると、我々――神様や人間や二次元キャラクター――は、その世界の 〝外〟 からでないと自らの価値観や美意識に合う『理想郷』には触れられないのである。
だから、我々は物語を紡ぐのだろう。世界の理不尽に抗うため、理想郷に行くために――。
そしてそれは人間が人間である限り、人間が人間の価値観と美意識を持っている限り――『物語(二次元)』こそが人間にとっての『理想郷』なのである。
それは肯定に難くない。
緑川中学校卒業論文『二次元肯定論』より抜粋 本郷鉄郎
☆外務省庁舎
【美波】「兄ちゃんが好きっ!
血が繋がっていても関係ないもんっ!
大好き、好き・・・好き好き大好きっ!!」
美波の体温が自らの胸に広がる。
美波の言葉に未だ決心のつかない俺に、美波は小さく泣きそうな声でつぶやいた。
【美波】「愛してる・・・だから・・・愛して・・・」
俺の上に乗る美波の柔らかいマシュマロのような二つの胸が押し付けられる。
美波の潤んだ大きな瞳が、ゆっくりと俺の顔に近づいてくる。
その瞳には今にも涙が溢れそうだった。
これ以上、美波を悲しませたくない。
そうした気持ちが俺の中で溢れた。
だから、俺は
ピー、
「ん?」
携帯ゲームの画面が暗くなってバッテリー切れを告げていた。
あ、しまった、と鞄を漁ったがこんな時に限ってACアダプターを忘れていた。
……おいおい、『だから、俺は』どうなったんだよ?
「あ~あ……マジか」
はぁ、と鉄郎は溜め息を吐いてPSPの電源を落とした。
やはり、調子が出ない。いつもならこんな初歩的なミスはしないのに……。
イヤホンを外して、伸びを一つ。ずり落ちた赤縁の眼鏡を押し上げて、欠伸が漏れた。
すると、辺りが騒がしいのに気が付いた。
「何かあったのかなぁ……ふぁ」
と、鉄郎はまた一つ小さく欠伸を噛み殺し、ほぼ物置部屋と化した第三会議室の扉を開いて、ちょうど通りかかった女性職員を掴まえて訊いた。
すると、呆れた顔とともに怒声が返される。
「何かあったのかじゃありませんよ! 政府系統が混乱していて、日本中みんなこんな状態ですよっ!」と、日頃からの態度の説教も含めて言われたが、今の鉄郎からしたらそんな怒りなどどーでも良かった。
本郷鉄郎は、もともとこの省内では浮いた存在だった。
仕事は出来るが、基本的に仕事上最低限のコミュニケーションしかせず、同僚達も彼が何を考え、何を思ってここにいるのか分からなかった。
しかし、鉄郎にはそんなことどーでも良かった。
そもそも彼には現実の人間とまともに関わろうという気がなかったのだ。
故に、人間不信を起こすような外交の場でも何の苦もなく適応できたわけだ。
彼にとって、リアルは二次元そのものなのだから。
だから、彼は自分の世界――二次元ライフを邪魔されない限り、リアルに興味が向かないのである。
だから、女性職員の続く言葉が一番面倒だった。
「そんなことより、局長が呼んでいましたよっ」
廊下を面倒という重い足取りで歩く。
省内が騒がしい。誰もが自分のこなせる絶対的な仕事量を遥かに超える仕事をしていた。
だとしたらこの場合、呼び出されれば厭なことを押し付けられるのは確定事項だ。
即時退散したい気分だったが、リアルの稼ぎ場所がなくなってしまえば二次元ライフを満足に送れなくなってしまう。少なくとも、月々に出るゲームやアニメ、映画や漫画に小説、ライトノベルにフィギュアに同人誌などなど、お金の掛かる物はわんさかあるのだ。
仕事放棄は即ち二次元放棄=世界そのものの放棄に成ってしまう――少なくとも今の目的はそれ以外になかった――ので、鉄郎は仕方なしに局長室に渋々出向くこととなった。
欠伸を噛み殺して、顔に真面目成分を添付してドアを開く。
「局長、お呼びですか?」
その言葉に奥の椅子に鎮座していた加藤局長の前衛どころか後衛までもが全滅した頭皮が夕焼けに煌めいた。全滅した頭皮にある染みが心理テストの模様のようだとぼんやり思った。
「……どこを見ている?」
その言葉に、どう答えたものかと思ったが「……戦場です」と、テキトーに意味深なことを言っておいた。すると、口でちっぱちっぱと人を不快にさせる音を立てながら、加藤局長は「その通りだ、戦場だ」と、訳の分からないパスをどこかにシュートしたが、鉄郎は無視した。
「研修生のときに一ヶ月もしない内に、ゲルダム人民共和国を軍事路線から民事対話路線に切り替えさせ、その優秀な功績により異例の速さで外交官となった君なら我が国でいま、起こっている事態を分かっているね」
そうだよ、戦場だ、もはやこれは戦争なのだよ――と、勝手に続けてくれたので鉄郎はホッとしておく。しかし、嫌味は長いと加藤局長の相場では決まっているらしい。鉄郎はその嫌味に対しても「運が良かっただけです」とだけ適当に相槌を打っておいた。
我が国で今起こっていること――つまり、先日の国会議事堂の謎の襲撃事件などのことを言っているのだろうと、鉄郎は興味なさげに思った。
「君のやる気が今の国会議員の国防意識ほどに低いことは重々承知しているが、私は君の腕がずば抜けていることも知っている」
「止めてくださいよ。そんな安易なハリウッドムービーのヒーローみたいな立ち位置にするの、面倒じゃないですか」
「いやいや、君はヒーローだよ。これほどなくヒーローだ」
「どうしたんですか局長? ついに脳味噌が空になりましたか?」
「安心したまえ、脳味噌は使っても減らん」
「ええ、だから機能不全だと言っているんですが?」
加藤局長は一瞬考えたが、眉をぴくりとするだけで耐えていた。つまり、脳味噌は使えばシナプスが発達して増えるが、使わな過ぎて退化してなくなった、と。
「君が今気乗りしないのは分かる、しかし――」
「止めてくださいよ。同情の大安売りなんて今時閉店セールを万年している店ぐらいに下らないですよ。いつから局長の中の同情の単価が安くなったんですか?」
その言葉に、加藤局長は唸ってから話題を切り替えてきた。
どうやら分が悪いと思ったらしい。
「――どちらにしても、今の警察が当てにならん状態ではこの国が滅んでしまう。だから、君にはこの事件の早期解決と、それと同時に新しい役職に就いて貰おうと思う」
「いつから外務省はFBIに成ったんです? まあ、給料さえ保証してくれるなら、どこでもいーですけどね」
サボっていても馘首にならないから公務員になったようなものだから、と、今の鉄郎にとってリアルの仕事なんてこんな程度の感慨しかなかった。
「君に紹介しよう――彼は外務省時空局の田辺匡史君だ」
君の新しい上司だ――と、嬉しそうな加藤局長にそう紹介された男は会釈を一つした。
田辺と言われた男は、人の良さそうな皺を顔に刻んだ五十代ほどの男だった。
鉄郎も社会人として常識の範囲内でそれを返した。
「時空局?」
「詳しくは知らんが、とにかく君の異動場所が決まった。いやはや、私としてもとても寂しい限りだ。送別会もできないぐらい急ぎらしいから今すぐ荷物を纏めて異動してしまえい」
まったく悲しそうでも寂しそうでもなく、むしろ楽しそうにそして最後に本音が漏れている言葉にも、鉄郎はまったくの無関心に「いやー、お世話になりましたぁ」と、無駄に明るく厭がらせに返すぐらいには大人だった。
局長室をその紹介された田辺とともに楽しく出て、いきなり田辺は変なことを訊いてきた。
「君は、この世界をどう思っているのかね?」
「電気信号」
端的に、そして的確に鉄郎はそう答えた。
鉄郎にとって、このリアル(三次元+時間)もバーチャル(二次元)も大差はなかった。結局は眼球を通じて脳で認識される頃には電気信号でしかないのだから。
だからこそ、鉄郎は二次元のキャラクターでもリアルの人間のように扱うし、本気で恋をして『嫁』と呼べるほどの溺愛しているキャラクターもいるのであった。
そんな鉄郎の気持ちを知ってか知らずか、田辺は笑って、「面白い見解だ」と言っていた。
「君のように常識に囚われず、自由な発想ができ、なおかつ腕の立つ外交官を私は常々捜していたのだよ」
「そうですか、見つかって良かったですねぇ」
そして二人で嘘臭い笑みを浮かべながら、話は勝手に進んだ。
「真実を告げよう。この世界は実は一つではない」
「並行世界論ですか? それは一つの『平行』の方ですか、それとも複数の『並行』の方ですか」
「後者だ。この世界は無数に分岐している」
「へー」
「おや、興味がそそられないのかな?」
そう不思議そうにこちらを見てくる田辺に小さく肩を竦め「別に」と言った。
「この世界、例えば僕と貴方が見ている世界が必ずしも同一かと言われれば、それはきっと違うのでしょう。つまり、この世界そのものは一つであっても、観測者が二人いれば、さらに世界は異なる二つの姿を現す――つまり、観測者が二人いた場合、世界は原世界と観測世界×二となり、計三つの世界があることになります。つまり、世界は人の数だけ在り、そして誰にも正確に見ることのできない原世界が一つある」
これでこの世界は実は一つではないという先程の言葉は肯定できます――と、鉄郎は述べた。鉄郎にとっては至極どうでもいいことだった。
だが、それに感心しつつも田辺は「そうではないのだよ」と言った。
「そうではなく、この世界は原世界そのものが分岐し、そして無数に存在するのだよ」
未来も過去も現在も――と、田辺は嬉々とした目でそう語っていた。
「原世界が分岐する?」
その言葉にはいささか鉄郎も首を傾げた。
「ああ、成程。それなら確かに物理的な並行世界だ――しかし、世界という物質が分岐したとして、果たしてそのもう一つの世界を構成した物質は一体なんでしょうね?」
質量保存の法則に反する、と。
そうした鉄郎の言葉にも、田辺は的確な答えを持っていた。
「それはね、この世界が『光』そのもので構成されているからだよ」
その意外な答えに、流石に鉄郎も「はい?」と、疑問を投げ掛けていた。
さすがの鉄郎にも予想の範疇外の回答だった。
「つまりだ、本郷君。この世界そのものが一種の発光体が発した光の一つだと言えるのだよ。そして、その光故に分離しても物理的に何ら問題はない。何故なら、発光体が常に発光しているが故に、この世界のエネルギーは半永久的なものなのだよ」
その飛躍した言葉に、ある種の宗教的なものを感じて頭が痛くなった鉄郎は「ああ、宗教勧誘なら寝てからしてください」と、寝言を言うなというが、田辺の顔はまったくそうしたある種の宗教勧誘者の濁った瞳ではなく、れっきとした裏付けがある科学者の瞳をしていた。
「証拠となる者がいる、紹介しよう」
そうして、下ってきた階段の先にある扉を開くと、そこにいたのは――流れるような桜色の髪に輝く桜色の瞳、純白と桜色が綺麗にグラデーションされた綺麗なお人形のような美少女がそこにはいた。
まるでリアルから隔絶されたような完全な美を体現していて、その圧倒的な美に息を呑んだ鉄郎だったが、二次元『嫁』と瞬時に比較して魅力が失せたので、どーでも良くなった。
「――で? この非現実的なぐらい超絶上手いコスプレイヤーみたいな美少女が、どうかしましたか?」
「分からんかね? 彼女はこの『世界』の存在ではないのだよ」
「確かにリアルで桜色の髪と瞳はどうかと思います」
「ん? ああ、違う違う、そうではなく、その少女の肩の上に乗っている――彼女だよ」
その言葉に再び少女の肩辺りを見ると――そこには輝く小さな妖精のような者がいた。
そして、それはこちらに重力を無視して飛んできて、こちらを睥睨するように見てくる。
「妖精ですか?」
「その通りだ」
「とても妖精の形相には見えないような醜悪な表情に見えますが、これも仕様ですか?」
すると、その白い服の妖精がいきなりこちらの眉毛を思い切り掴んできた。
「痛っ」
「嘗めとんのかワレ、この妖精様のエミリア様々だと分かっての狼藉かよ、あァーッ!」
程度の低いヤンキーに絡まれた気分になった。
まさかの幻想体験なのにお子様の夢を壊すような妖精の性格にがっかりするが、そもそも自分は既にお子様ではなかったので仕方がないのかと勝手に納得する。
妖精がまだぶつぶつと「こっちは便利屋扱いであっちこっち狩り出されて疲れとんじゃ、クソが」と、鉄郎の眉毛をぎりぎり掴みながら言っている。
そろそろ鉄郎も何かを言おうとする、と――そこに澄み渡った凛とした声がした。
「お止めなさい。はしたないでしょう、エミリア」
すると桜色の魔法少女コスの少女が、鉄郎の目の前まで来て妖精の非礼を詫びた。
「わたしの名はハーマイオニーと申します。こちらはエミリア。どうぞ、よろしくお願いします、本郷鉄郎様」
眉毛を三本ほど抜かれたが、特にそれ以上の感情は浮かんでこなかった。
「あー、よろしく」
赤縁眼鏡のブリッジをくいっと上げて、
「――で?」
と説明を田辺に求めると、すぐさま説明の続きに戻った。
「彼女らはこの世界――つまり、この時空下には本来存在しない存在なのだよ」
「いや、今居るじゃないですか?」
実際眉毛も三本抜かれたことだし、と思ったが田辺はすぐさまその理由を説明する。
「それは同時両所存在で……えーと、つまりは幽体離脱だ。肉体という物質的なデータは他の時空には持ってこられないのだ。だから、彼女――ハーマイオニー君は魂だけをこちらの世界に持ってきているのだ」
ハーマイオニーの事だけに限定したことに引っ掛かったが、話の続きをまず訊く。
「……魂だけって。じゃあ、どうして霊感のない僕が彼女を視られるんですか?」
そもそも幽霊が認知されていないこの世界で話が飛躍し過ぎだとも思いつつ。
「バイロケーションは能力者でなくとも視られることがある。それは彼女ら霊能力者の力にも依るのだが、何よりどんな人間にも魂はあるからそれに共鳴させられれば視せることは可能なわけだよ」
「……魂って、どんな物質なんですか?」
魂の理論も曖昧に成りそうだったので説明を求めたが、至極端的に答えられた。
「タキオンだよ」
「タキオン?」
「時離体のことだよ。時間概念から離れている物質体のことだ――そして『時間』とは『光』そのものに他ならない。この全ての世界を包括した原世界には光物質以外にタキオン物質があるだけなのだよ」
「……成程。世界=光で、魂=タキオンと」
「そうだ、実に理解が早いじゃないか」
「では、妖精とは?」
「妖精とは私も詳しくは知らないが、光生命体らしいから、この光世界の有機生命体とは一線を画す存在らしいのだ」
その説明で大体の設定を頭で纏めていく。
そこで当然、疑問が生まれる。
「では、どうしてそのタキオンは魂となって光世界の身体に定着するんです?」
「え? え~っと、それは……」
ちらっと、妖精の方を見る田辺に妖精が面倒臭そうに答えた。
「タキオンとは情報収集のツールみたいなもんじゃからじゃ、ぼけ」
「あー、集合無意識とかそこら辺か。あー、はいはい」
そんな情報を収集してどーするんだ?
とか思ったが、神様が喰うのだろうとテキトーに納得した。
「貴様ぁ、本気で理解しているのか?」
「本気でなくとも理解はできるし、至極どーでもいい」
肩を竦めて、田辺の方に向き合う鉄郎。
「――で、結局、僕は何をすれば良いんでしょうか?」
魔法少女のコスプレイヤーが妖精の登場に本物臭がするのなら、仕方がない。
腹を括って理解できないものを理解できないものとして受け入れる必要を鉄郎は理解した。
そんな鉄郎に田辺は「実に良い質問だ」と、人差し指を立てた。
「君は先日の国会議事堂の謎のテロ事件を知っているね」
「ええ」
急に方向性が現実的な方面に向いたので、少し安心している自分が居るのに鉄郎は呆れた。鉄郎の見方だとこの事件の根本的な最初の事件は都内で起きた『カマイタチ事件』だろうと睨んでいた。
そう、あの謎だらけの『カマイタチ事件』である。
「そのテロ事件のどうやら犯人と思われるのは、彼女達と同類、或いは敵かもしれない存在なのだよ」
その言葉に頭がフリーズを起こしてしまい、理解が追いつかない。
「……はは」
乾いた失笑が漏れ、徐々に自分の感情とは関係なく情報が脳内で整理されていく。
つまり、魔法少女がテロリストで犯人、と。そのあまりに非現実的な推理だったが、どうやらこの場ではそれが真実のようだった。
胸の奥で黒いものが渦巻いた。
冷静さを取り戻すために、赤縁眼鏡を押し上げる。
「それで?」
「それで、だ。君にそれを解決してもらおうという話だよ」
そこで加藤局長の話とリンクした。
事件の早期解決と新たな役職――つまりは、そう言うことか。
「本郷鉄郎君、君には本日付で外務省時空局時空第二課誓約者管理室室長の任を与える」
住む場所もその他一切のことも保障する。異論はないね――という田辺に、「ええ」と、首を縦に振ることで答えた。
そして、その誓約者とは妖精と繋がりを持った者のことを言うようで、その管理対象が自称異世界の存在のハーマイオニーだった。
「取り敢えず、よろしく」
鉄郎が右手を差し出すと、それに無反応に逆の左手の甲をこちらに向けて差し出された。
どうやらその左手にキスでもしろというらしい、それが彼女の世界の流儀ならそれに従おうと、その小さく真っ白な手を取ると「跪きなさい」と、右脚の脛をガスッと、思い切り蹴られ、強制的に跪かされる。
指をこちらに唇に軽く当てて、「よろしくね」と暗い笑みをするハーマイオニー。
だが、それぐらいのことには耐えられる。
そう、耐えられるのだ――目的を持った今なら。
「わたし達は仲良く成れそうね」
そう、可憐な黒い笑みを浮かべたハーマイオニーに、しかし鉄郎は言葉を続ける。
「そうだねぇ、でも、仲良くするには――条件があるよ」
その言葉とともに言葉遣いも変わり鉄郎の顔に浮かんでいたのは、仕事の顔だった。




