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ペルソナ・ノン・グラータ 日本鎖国  作者: テロメア
第1章 前篇
4/28



      ♪




 物語とは『二次元』である。

 二次元の創造主は『人間』である。

 故に、『二次元』は『人間』の価値観である『秩序(コスモス)』を体現している。

 物語には明確な伏線があり、山場があり、結末が用意されている。キャラクターの言動は一貫しており、途中でブレたり、意味不明な言動は取らないのである。

 故に、我々にとって『二次元』こそ、我々が長年探し求めてきた『理想郷(ユートピア)』なのである。

 そこには理不尽な言動に困らされることも、理不尽な世界に押し潰されることも、理不尽な死に怯えることもない――。

 我々の理想郷(ユートピア)はそこに在ったのである。




 ☆中東 某所



 リリヤは後悔していた。

 リリヤは〈秩序派〉に属する妖精で、この一文字(いちもんじ)ゆまの誓約者(パートナー)だ。

 ゆまに妖精との誓約(ゲッシュ)を持ち掛け、お互いがお互いの利益になるとして――誓約(ゲッシュ)した。

 だが、それは間違いだったと、リリヤは激しく後悔していた。

 何故ならゆまは、誓約(ゲッシュ)してからここ一ヶ月ばかりずっと世界中でテロ行為に及んでいる。

 これは大いなる力を手にした者の初期暴走――なら、話は別だったのだが、この一文字ゆまという少女は、自らの信じる『正義』を実行しているのであって、決して有り余る力を得てしまったからの暴走ではないのだ。

 もともと、(たが)が外れていたのだ。

 そんな相手を誓約者として、自分のパートナーとして選んでしまったのだ。

 これは自分の大きな失態だとリリヤは感じていた。

 誓約者同士は、基本的にその相手の肉体的な死を迎えない限り誓約解除にはならない。

 つまり、やり直しは利かないのだ。

 この中東の砂埃の中、羽休めに近くの町で買った果物を頬張っているゆまを見た。

 ゆまはとても満足そうな顔をしている。

 ゆまが『魔法』を得てから最初に行ったことが、彼女の国の国会の襲撃だった。

 やれ「売国党は死ね!」だとか「濾過してヘドロだけが残った元与党も死ね! いつまで与党呆けしてやがる!」だとか、「反日党はこの世から消え失せろ!」だの、いろいろ叫んで大殺戮を繰り広げた。

 その後は雪崩の如く、ことある事にその『魔法』を行使し続けた。

 そしてその国を出て、出張サービスとばかりに世界各国の誘拐国家や環境テロリストやら戦争利権屋や反日集団などを徹底的に攻撃して、その組織を壊滅させていった。

 そして今は羽休めで、『魔法少女』とやらのトランスは解いてリラックスしている。

 遠くから聞こえてくるのは砂を舞い上げる風のみ。

「リリヤ」

「何?」

 突然に話し掛けられてリリヤはゆまの方を向く。

 自分の七倍はあろうかと思われる少女がにこりと笑った。

「ありがとう」

「へ?」

 突然のお礼に、リリヤは首を傾げる。

「リリヤのお陰で、あたし今までできなかった『正義』ができるようになったんだもんっ」

 お礼言わなくちゃバチが当たっちゃう――と、にぱっと燦々と輝く恒星のように明るく微笑むゆま。

 それに、リリヤはなら自分のことも言っておこうと思った。

「でも、ボクの方の誓約(ゲッシュ)も忘れないでね」

「うんっ、大丈夫、任っせてーっ!」

 と、胸を張って堂々と言われるが、激しく不安だった。

 ――と、突然、空気を裂くような爆音が聞こえてきた。

 振り向くと、後ろから一基のミサイルが飛んできていた!

「ゆ――」

 何かを言うよりも早く、ミサイルがゆまに届き――ゆまの右手に受け止められる。

 バシッ――と、ミサイルの金属がへしゃげる音とともにゆまの周りが青く光り、不可視の壁に阻まれ半球状にミサイル片がばらばらに散らばり――中の爆薬に火が点き、爆発。

 半球状に張られたバリアーの周りの砂漠の砂が弾け飛び、辺りを緋色の炎と砂だけが支配する――轟々と濛々と吹き上がった炎と砂の世界が、ゆまの一振りで瞬時にクリアになる。

 視界が晴れると、ゆまはいつの間にか魔法少女の青い衣装にトランスしていた。

 あれだけの爆発にも関わらず、ゆまはまったくの無傷だった。

「こほっ、こほっ――いきなりなんて、」

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて、

「失礼な殿方だことッ」

 完全に先程とは口調が変わり、狂気に満ちた笑みがゆまを満たしていた。

 今のミサイルでスイッチが入ったのか、戦闘モードの収拾の付かない笑み。こめかみには無数の青筋を走らせて、目を見開いて獲物を見つけた肉食獣のようにぎらぎらさせていた。

 目の前の地平線に広がるのは、無数の軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍軍。

 見渡す限りすべての地平線は無数の国旗を刻んだ軍隊がこの場を支配していた。

 ゆまはそれを見渡して、口に入った砂をツバとともに吐き捨てた。

「かっ、連合軍かよ! いつまでも戦勝国ヅラしてんじゃねえっつーの!!」

 ゆまが片手を上げる。

 その手にはペンが握られていた。

 ゆまにとってその『ペン』は魔法を具現化する緩衝材として使われる。

「そんなあなた達の間違った人生――」

 魔法は『信じる力』。

 故に、信じられるのなら何だって叶えられる。

 自分の中での理論でそれを『信じられる』と成ればの話。

 故に、純粋無垢な子供の方が誓約者に成れば魔法は強力となる。

『我々は国連(NATO)軍である。ユマ・イチモンジ、今投降すればこれ以上、攻撃はしな――』

 ゆまがその言葉には一切耳を傾けずに、疾風のようなペン裁きが彼らに向かって走る。

「書き正してあげるっ!」

 甘い吐息と一緒に漏れる言葉とともに走った『一線』によって、正面の国連軍はその瞬間――その一線引かれた軍隊がすべて真っ二つになり、爆発して吹き飛んだ。

「ああ? 何だってー? 聞こえないなー、雑魚がッ!!」

 地面を蹴り、急速に空中に飛翔する。

 飛ぶというのも、信じれば魔法は可能になる。

 どこでも自由自在に飛べる――ここまでの魔法使いは滅多にいない。

「あはっ、あははっ、あははははっ!!」

 空中に上がり、軍全体を見渡して、それらにすべて一線を引いていき――一掃する。

 次々に爆発していき、現在見渡せる限りの軍隊はほぼ壊滅状態になった。

 辺りには黒い煙と炎、そして砂埃が満たしていた。

「その程度で正義の邪魔をしようなんて――愚かなゴミ虫がっ!」

 顔を歪めてくつくつ笑い、舌でペンを艶めかしくひと嘗めした。

 戦闘機のジェットエンジン音が空中で無数にするのに気が付いた――瞬間、複数のミサイルが飛来してきていた。

 それを、ペンで次々に一閃していき――爆発。

 もはや、この『世界(えだ)』でゆまを止められる者はいないのだとリリヤは思った。

 ミサイルが爆発した煙が辺りを包み込む――そしてその煙が一つ、盛り上がった。

 次の瞬間――ゆまはその盛り上がった煙に蹴飛ばされた。

「ぐッ!」

 強い衝撃とともに、ゆまは砂漠の岩山に激突して停止した。

 岩山はゆまが激突し、そのバリアーで半円状に陥没して砕けた岩が足元に転がってくる。

「な、なに!?」

 口から血を吐き出し、ゆまはその衝撃の先を確認する。

 すると、その衝撃の先には一人の桜色の少女がいた。

 少女はゆまと同い年ぐらいで、優雅にこちらから対岸の岩山の頂上にふわりっと降り立つ。

 それはまるで人間が作り出した叙事詩で描かれる天使のようだった――咲き誇る鮮やかな桜色の巻き髪を纏い、白磁の(たお)やかな肌の美少女だった。

 同じく清艶(せいえん)な桜色の大きな瞳がこちらを見据えて、くすり、と婉美(えんび)に微笑んだ。

 そして見えたのはリリヤと同じく妖精が側に飛んでいる風景だった。

 何派かは――砂埃で見えない。しかし、この場合例え〈秩序派〉の応援であっても、同じように敵対し粛清されるのだろうとリリヤは厭な寒気がしていた。

「誓約者!?」

 ゆまのその問い掛けに、にこりと微笑んで甘美な声でいう。

「その通りよ。驚いたかしら?」

 その相手の質問に、「愚問!」と一喝するゆま。

「ライバルの登場ぐらい予期してたわ。何たって、そうじゃないと張り合いがないもの」

「あらそう、じゃあわたしがあなたのライバルということで良いのかしら?」

 そして、両者ともにそれぞれの笑みを浮かべて睨み合う。

 凶猛な笑みと婉美な笑みがぶつかる。

「あたしの名前は一文字ゆま!」

「わたしはハーマイオニー・マルドゥク=スサノオ――よろしくね」

 その言葉にゆまは足場を踏み締めて――飛翔する。

 飛翔の衝撃で小さく岩の地面が陥没した。

「よろしく――そしてさようならッ!!」

 ゆまが飛翔して一線を引こうとした瞬間――目の前に閃光弾が弾け、辺りは目映い白の世界になった。

「うっ!」

 目が眩み、次の一手は上からの強い衝撃――地面に再び叩き落とされる。

 砂漠に叩き落とされ、辺りの砂が円状に弾け、砂煙が辺りに漂う。

 咳き込み砂を口から吐き出し、目が眩みつつもゆまが目を細め顔を上げると――ミサイルが複数飛んできていた。

「ちぃ!」

 次々に一線で爆発させていくが、一つがこちらにそのまま飛翔してきた。

 それを右手で受け止めるが――足元が固まっていなかった故、そのまま爆発の衝撃で後方に大きく飛ばされる。数度地面をバウンドして、ようやく止まる。

 右手の表面が軽く裂け、血が流れ出て砂漠の砂を朱に染めていた。

「……くッ……国連軍を率いるなんて――卑怯者ッ!!」

 そんなゆまの様子をまったく先程の場所から動きもせずに、座って眺めているハーマイオニーは頭を小さく傾けた。

「あら、卑怯かしら?」

 そのまま大きく首を傾げて、その清流のような桜色の髪が乾いた岩肌に流れた。

「卑怯なんて言ったら、あなたのその強さも普通の人々からしたら卑怯ではなくて?」

 その言葉にゆるゆるとゆまは立ち上がって、

「巫山戯るなッ!」

 と、叫んだ。

「あたしが『正義』なんだ! それを阻む者は『悪』しかない!!」

 その相手が誰であろうと知ったことか――と、さらに一歩踏み出た。

 霞む視界の中、ペンが狙いを定めようと揺れる。

「ふ~ん、この世界に正義も悪もないと思うけれどね」

 その言葉に何か反論しようとゆまは強く一歩踏み出た――瞬間。

 左脚下部分から――爆発が起きた。

「――――!!」

 対人地雷だった。

 基本的に魔法で対衝撃に強くしているとはいえ、それは表面をコーティングしているに過ぎない。故に、左脚は砕け散らなかったが、左脚は真横に百八十度折れ曲がり、股関節が砕ける音がゆまの体内から外に響き渡った――ゆまはその衝撃に地面に強く叩き付けられた。

 ゆまは知らぬ間に、地雷原に誘導されていたのだった。

 爆発で舞い上がった砂煙の中、ゆまの悲鳴だけが辺りに轟いた。

「ゆまッ!!」

 リリヤはゆまに驅け寄ろうとした。

 しかし、一瞬思ってしまった。

 彼女が今の瞬間に砕け散ってくれていたら、自分は彼女との誓約は解消されたのに、と。

 そんな自分が後ろめたくて、ゆまの近くに寄れなかった。

 砂煙の中からゆまが、ふるふると震える左手を上に伸ばし、地面の砂を掴む。

 強く咳き込み、口から血が吐き出され砂漠を赤く染める。

 ゆっくり両手を使って上半身を起し、相手のハーマイオニーの方を憎悪の瞳で睨み付ける。

 そのゆまの左耳からは血が首筋まで垂れ流れ、ゆまの左脚はあらぬ方向に曲がって血を滲ませていた。

 そして、左頬から大きく上に裂け血が垂れ流れて左目を真っ赤に染めていた。

「あっらー、まだ生きてるんだぁ」

 ハーマイオニーはその艶やかな唇に人差し指を据えて、にっこりした。

「でも、それも想定内っ」

 その言葉とともに飛来してきていた三基のミサイルが空中分解する。

 その分解されたミサイルから放たれたのは、防刃ネット群。

 無数のネットの束が次々にゆまに襲い掛かり、ゆまはあっと言う間に動けなくなる。

 その隙に数発の銃がゆまに撃ち込まれた。

 ゆまには既に防御をする力は残っていなかった。

 ゆまに突き刺さった数本の銃弾は麻酔針らしく、ゆまの目がとろぉっと揺れる。

「……くそ……が……」

 ハーマイオニーは下半身が砕けて動けなくなったゆまの目の前に音も立てずに降り立ち、しゃがみ込んでゆまの頭をネット越しに撫でて言った。


「お休みなさい、良い夢を」



 その言葉に突き落とされるように、ゆまは力尽きて地面に倒れ込んだ。

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