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ペルソナ・ノン・グラータ 日本鎖国  作者: テロメア
第1章 前篇
2/28



      ♪



 この世界(リアル)無秩序(カオス)だ。

 伏線もなく物語の結末を突き付けられたり、山場だと思うとそれが結末だったり、主役にも脇役にも成れずに一生を『その他大勢』で終わる人間のなんと多いことか。

 そもそも人間自身キャラクターにも一貫性がない。

 Aと言っていたことが、次の瞬間にはBと言っていたりCと言っていたりするが、それを指摘するとなぜだかこちらが怒られたり、非難されたりする理不尽っぷりだ。

 そんな役者(プレイヤー)しか居なければ、そうした世界ができるのは当然だと言えるだろう。

 では、そもそも、『人間』という不完全な論理破綻した『物』を誰が作ったのか?

 仮定としてそこに『神様』を代入するとしよう(ここでの『神様』は絶対神とか唯一神などではなく、『創造神』としての不完全さを持つ)。さて、その『神様』が作ったのだとしたら、この世界そのものがその『神様』の価値観によって作られているということになる。

 だとすると、我々『人間』が、この世界をまともに楽しめるわけがないのは必然と言うことにならないだろうか?

 何故なら、『神様』によって作られたのだとしたら、この世界の価値観や美意識というものも、その『神様』に帰属するのだから――。

 果たして、『神様』の価値観と美意識の世界で『人間』は楽しめるのだろうか?

 私にははなはだは疑問である。




 ☆東京 防衛省庁舎 市ヶ谷駐屯地



 池田智秋(いけだちあき)は目眩がしていた。

 ここのところ国会議事堂や東京都議会、各種政治政党本部や教職員組合、朝鮮半島などの反日を主体として行っているような国々の関連の施設へのテロなどで緊急招集には慣れてしまっていた。

 そして、今判っているのは、それがどうも一人による犯行だと生存者から複数証言は得ているが、まだ物的証拠が乏しく、犯人像が未だ曖昧なままだった。

 さらに智秋の目眩の原因となったのは、先程入ってきた沖縄の在日米軍基地がテロに遭ったという報告だった――それも基地が壊滅状態だという。

「池田一尉! 我々はどうすれば……」

 智秋の部下が不安そうに指示を仰いでいた。

 智秋も同じように誰かにこの状況の打開策を訊きたい気分だった。

 日本の自衛隊は戦場での実戦経験が皆無だ。

 それに問題なのは犯人がたった一人かも知れないということ。

 それも少女だとかいう憶測まで飛び出している始末。

 カードキャプターが敵だとでも言うつもりか、全く。

 智秋は呆れて、溜め息を吐いた。

「とにかく、沖縄の防衛が崩れたのなら、直ちに上に連絡して、正式に派遣命令を貰わなくてはならないだろう」

 急げ――とは言ったものの、そうそう簡単に許可が下りるとは到底思えなかった。

 日本には『自衛隊』という存在自体を違憲だとかいうおかしな奴らがのうのうと政治をしているぐらいだ、自然権も糞もない――まあ、先日の各党へのテロ行為でそういう集団はほぼ壊滅したが……。

 あちらこちらで人が走り、人が慌ただしく情報に押されている。

 予想通りという悲しい結果だが、あれから一時間経つのに正式な出動要請がない。

 自衛隊は自らの判断では動けない、これが日本のシビリアン・コントロールって奴だ。

 その文民統制が国民を守る妨げになっている。

 まったく、お笑い種だ。

 智秋がぐったりとただただ何も出来ずに情報を待っていると、後ろの自動ドアが静かに開いて、一人の背広の似合わないほっそりとした男が入ってきた。

 その男はやや女性寄りの中性的な顔に赤縁眼鏡を掛けて、興味なさそうな顔でチュッパチャプスの白い棒を咥えて現れた。

「ちーあきっ」

 左手を軽く挙げて、笑みもなしにそう軽く挨拶される。

 智秋はその緊張感皆無の男と知り合いだった。

 彼は本郷鉄郎(ほんごうてつろう)、智秋の小学校時代からのツレだった。

「よっ、相変わらず忙しそうで」

 チュッパチャプスの棒を唇から出して、くるくる回しながら喋ってくる。

 ……相変わらず、なんて緊張感のない奴なんだ。と智秋は呆れて頭が痛くなってくる。

「……何の用だ?」

 智秋は疲れの滲む顔で彼を見た。

「外務省の出る幕じゃないぞ」

「そーだな」

 彼はその中性的な顔で興味なさげにただ現象を口にする。

「外務省が出張るのは戦争が始まる前と終わった後だけだからなぁ」

 そして今は戦争中だ――と、今は防衛省の問題だとは認識しているようだった。

 司令室の全てを見渡せる階上のフェンスにその男とは思えないような細い線の身体をだら~ともたれ掛かるようにしている鉄郎は、目の前で慌ただしくしている人達がまるでモニターの向こうの出来事のように無関心に眺めている。

 その曇ったその瞳は相変わらずだと智秋は思った。

「――で?」

「ん?」

 フェンスに前のめりになっていた鉄郎が頭だけこちらに振り返った。

「何をしに来たんだ?」

 あれから立ち直ったのか……なんて訊くのは間違いだろう。

「普段は呼ばれても自分から行かないお前が、暇潰しでこんなところには来ないだろう?」

 だからできるだけいつも通りの言葉を智秋は送った。

 すると、鉄郎の無関心な顔に作り物の笑みが浮かんだ。

 その表情筋が仕事をしていない笑みは、本当の笑みが頬から上がって笑むのに対して、口の端を自らの意志で上げるという怠惰っぷりだ。

 こいつが仕事をするときの営業スマイルだった。

「いやね、実は今回の事件、うちの管轄だったりするんだよねー」

 その含みのある言葉に、

「何? それはどういう――」

 智秋が何かを言おうとしたとき、それを遮るように部下が声を上げた。

「池田一尉! 米軍からテロリストの映像が送られてきました!」

「何んだと!? 出せっ!」

 部下がパソコンをかたかたと操作して、エンターキーを押すと、目の前の大型モニターにそれが映し出される――が、それに一同絶句する。

「な、何ぃ!?」

 そこに映し出されていたのは、純美な蒼のワンピースにおかっぱ頭の少女だった。

 しかも、その少女は次々に放たれる銃弾を何やらペンのようなものをステッキのように操り、弾丸を止めていたのだ。それだけではなく、その弾丸を相手に跳ね返したりしている。

 それはまるで――

「何だこれ!? オレ達はセーラームーンとでも戦っているのか!?」

 部下の一人がこの冗談のような現実に冗談のようなコメントを述べていた。

 それに横でフェンスに垂れている鉄郎がぼそっと、「今はプリキュアだろうが、ぼけ」と吐き、さらに「そもそも魔法少女の分類定義は、セーラームーンやプリキュアのような魔法戦士型とおジャ魔女とカードキャプターのような正統派魔法少女系がある上、今回のは後者になるし。まぁそれぞれ世代で認識が変わるんだろうけど――」ぶつぶつと言っていた。

 冗談のような現実に思考が停止していたが、頭を左右に振って意識を画面に戻し、部下達に適切に指示を出す――理解できないものを無理に理解する必要はない、ただあるがままの起こった現象だけで状況を判断をする。

「即時にモンタージュ! 犯人の素性を探れと警察に指示!」

 今は厳戒令下に日本はある。

 この二週間の内に日本政府はほぼ壊滅状態にある。そして謎のテロリストをいつまでものさぼらせていては主権国家として恥だ――という理由から、緊急的に政府として機能している参議院が自衛隊に厳戒令を一応引いた。と言ってもやはり形だけで、自衛隊は軍ではないから、結局は政府が意志決定をする。反自衛隊派が壊滅したお陰で動きやすくなったものの、結局は政局のことしか見えていない為政者達が好き勝手にできるように採択したのである。

 しかし、一応は厳戒令下なので、警察組織は自衛隊の下にある。

「次の犯行までに奴を――」

「池田一尉!」

「何だ!」

「海保の第十一管区から通電!」

「繋げ!」

 智秋が脊髄反射で指示を出し、通信が開かれる。

 そこには音割れを起こした悲鳴のような海上保安官の声が繋がれた。

『ち、中国が――沖縄の有事を契機に、治安部隊と称して軍をッ、、、!!』

「何だと!?」

 沖縄の在日米軍壊滅と混乱を好機と見たか!

『現在、日本のEEZを抜けて領海にて交渉中! しかし……』

 そこで海保の彼が言葉を詰まらせる。

 どういうことか智秋にはありありと分かった。

 一貫してこう言うのだろう。『沖縄の人々を助けるためだ』と。

 そうして人民解放軍とは名ばかりの侵略軍が入る切っ掛けとし、チベットでそうしたようにいつしか自分達の領土とする気だろう。琉球自治区とかにして、日本や台湾への牽制も込みの大軍をそこに駐留させる気だ。見え透いたことをッ!

「交戦を……許可する」

『し、しかし、まだ要請が……』

 外交問題、憲法問題が――だろう。

 そんなものはこの有事には考慮の必要のないものだ。


「構わんッ! 自国を守ることも渋るような為政者の指示など待っていられるかッ!!」


 智秋は激昂とともに指示と激励を示す。

「全責任はこの池田智秋一等陸尉が取る! 文句をいう奴は私の所へ来させろ! 現場は自分が最善だと思うことをしろ! 以上だッ」

 その言葉に一瞬の沈黙とともに、気力を取り戻した返事が返ってくる。

『はッ! 了解しました!』

 通話は閉じ、智秋は面を上げて直属の部下達に指示を出す。

「直ちに那覇、春日、全国出せるところは全て出せッ!!」

 海保を全力で援護し、侵略者を迎撃しろッ!!――と指示を飛ばす。

 その智秋の言葉に、全員の顔が引き締まっており、敬礼とともに全員が動き出す。

 智秋のその指示に不安を感じる者は居なくなっていた。

 しかし、智秋は心臓が痛くなるほどの緊張を噛み締めていた。自分はまだ隊を率いる器なのか、そんなことも悩んでいられるような余裕すらない。

 沖縄在日米軍基地は主に中国や朝鮮半島に対する牽制の意味で置かれている。そして、その均等が崩れ、問題の中国は沖縄を自分の領土だと密かに主張している――在日米軍基地という抑止力がなくなった今、これを好機と攻めてくるのは想定内の事態ではあったが……。

 智秋は拳を握り締め、憤怒を持って眼前の状況を見据える。

 自衛隊は強い。日本人は元来、戦で強い民族で軍事力でも実質アジア一だ――が、一番近い鹿児島からの隊も間に合いそうにない。それに加えて年々減らされてきた防衛費の所為で裝備も現代で戦争をするには満足とは言えない。

 それに引き替え相手は毎年ぐんぐん軍事費を伸ばしている軍事大国だ、そしてこの好機を散々窺って占領の訓練も受けているような奴らだ――勝てるか?

 冷や汗が流れて顎に伝ってくるが、そんな智秋に鉄郎が軽い声色でいう。

 まるでそんな焦っている内心を察しているのか、至極平坦な声で。

「意味ないんじゃない?」

「なん――」

「だって、物理的に間に合わないって。で、向こうはてきとーに口実付けて沖縄を自国扱いするんだよ。ほら、前例としてチベットとかウイグルとか内モンゴルとかとか」

 言葉を被せて、畳みかけるようにそういう鉄郎。

 その言葉に内から込み上げてくる焦りと、怒りが混ざり合い、

「貴様ァ!!」

 思わず鉄郎の胸倉を掴んで締め上げていた。

 そんなことは分かっている、という怒りでさらに拳に力が入る。

 が、そんな智秋に面倒臭そうな顔がぼそっと言った。

「俺に当たんないでくれるかなぁ……くるしいし」

 その言葉に冷静にならなくてはならないという心と、未だ燻る焦りと怒りが(せめ)ぎ合う。

 鉄郎の胸元をぎりぎりと締めていた右手から徐々に力が抜けていき、鉄郎の拘束を解いた。

 それでも溢れる焦りと怒りと、その感情抑制できない自分への嫌悪感が自分の冷静な思考回路を浸食していく。視野が狭くなり、溢れ出る焦りと怒りを手前にあったステンレス製のゴミ箱を蹴飛ばし、中身をぶち撒けることで発散させる。

 それでも収まらない感情に、目の前にあった鈍色の手摺りに両拳を強く叩き付ける。

 痛みが頭に走り、じんじんとする熱さと金属の手摺りの冷たさに多少は冷静になる。

 逆上せた頭から徐々に血が引いていき、幾分落ち着いてきた……。

「悪い……」

 頭を伏せたまま鉄郎に先程の非礼を詫びる。が、鉄郎は「それより、リーダーとしてやることがあるでしょ?」と、胸元を直しながら、それだけ言った。

 すると、その言葉で頭を上げると、周りのざわつく空気が感じられる。

 冷静さを欠いたリーダーに対しての皆一応に不安な表情がそこには広がっていた。

 ……まったく、自分にはまだまだリーダーとしての器が足りない。

「すまない、みんな――大丈夫だ」

 その智秋の言葉に、多少の心配は残るものの各々の仕事に戻っていく部下達。

 智秋はもっと自分の精神を強く鍛えなければならないと、改めて痛感し反省した。

「それに、俺の予想だと大丈夫だと思うよ?」

 そして赤縁の楕円の眼鏡をかちゃ、と押し上げて鉄郎は唐突にそう言った。

「どういうことだ? どこにそんな根拠が――」

「まー、勘?」

「そんなものが当てになるか」

 一瞬、希望のようなものを鉄郎の言葉に抱いてしまった智秋は、呆れと失望をそのまま言葉に乗せて力無く返した。しかし、鉄郎は心外なという顔をして反論を紡ぐ。

「何を言うんだよ。勘ってのはね、脳の膨大な蓄積データから瞬時に導き出されるれっきとした計算による判断結果なんだよ?」

「知らん、御託はもういい……」

 智秋は疲れて目の前のフェンスの手摺りに両手をついて項垂れた。

 智秋はこれからどうするべきか、自分に何が出来るのか必死に考えていた。

 そんな智秋に鉄郎は肩を竦めて、

「せっかちだねえ、相変わらず」

 と怠そうにチュッパチャプスの白い棒だけを指で弾いて立てられた凹んだゴミ箱に捨てた。

 その時、目の前の大型モニターに映像が映し出された。

 その場にいた全員が一驚の声を漏らした。

 それは沖縄のテレビ局のものだった。

 が、そこに映っていたのは、水平線が一面焼け野原のようになっている光景だった。

 大量の戦艦が、空中では撃墜された戦闘機の破片が、雪のように海に降り注がれている。

「……な、何が……?」

 理解不能な自体に混乱している智秋に、鉄郎は最初から解っていたように言う。

「だ・か・ら、彼女でしょ」

「彼女?」

 智秋の頭が事態を処理しきれずにフリーズしていると、大型モニターでは民放のテレビ局は先程撮ったであろう映像を流し出した。

 そこには一筋の青い光の一線が、大量の中国軍の戦艦や戦闘機をひと撫でして――次々に爆発していく風景だった。

 それはほんの一瞬の出来事。

 そのたった一閃で――侵略軍は壊滅したのだった。

「……莫迦な」

「『莫迦な』な事態でも起きたことは現実に他ならない」

 そういう鉄郎はまた新たなチュッパチャプスを取り出して咥えていた。

「さて、だからの俺の用ってやつさ」

 その中性的な顔に掛かっている中性的な赤色の眼鏡のブリッジを上げて、鉄郎は智秋に向かって人差し指を立てて言った。

「これはもともとうちの管轄だから――正式に協力を要請するよ」

 その言葉とともに後ろの自動ドアが静かに開き、やっとかという表情をした一人の桜色の少女が現れた。


「話が長い、もっと短くなさい」


 その自然界では有り得ない壮麗な桜色の長い巻き髪の少女が、優雅に立っていた。

「ごめんごめん、思いの外こっちがごだごだしてたからさ」

 その少女に鉄郎は柔らかく微笑んで弁解を述べていた。

 しかし少女はその言葉を無視して、


「さて、やっとわたしの出番ね」

 柔らかな長い髪をさらっと手で払って、「燃えるわね」と、黒い笑みを浮かべていた。

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