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リリヤは当惑していた。
吸血鬼の少年の言葉に迷わされて、震える右手で右耳を塞ぎ、左腕をだらんと垂らしたまま血溜まりを広げて放心しているゆまを見て。
話を聞いていただけに、どう言葉を掛けて良いのか。
どう今の彼女に接して良いのか。
分かりかねていた。
果たして少年の言葉が正しいのか、そしてそれが正しいとして自分のすべきことは何なのか――リリヤには判断が付かなかった。
妖精と言うものは人の心というものが一番理解に苦しむものだった。
何故なら論理的ではないからだ。
実に感情的で、場当たり的な一貫性の無さ、情動的な不安定さ――これらは妖精にはないもので、これらを積極的に理解しようとしているのは、〈共生派〉であって〈秩序派〉のリリヤには理解し難いものだった。
そんな風に対応に困っていると、すっと鉄郎が屋上に現れた。
手にしていたケータイを、ぴっ、と切ってポケットに仕舞った。
その姿に一瞬、ホッとしたリリヤだったが、状況的に一番登場してはいけない者が登場したのではないかと、焦って鉄郎に何かを伝えようとしたが、鉄郎はにこりと笑って何も言わずに小さくなって震えているゆまのところへと向かった。
すると、後ろからふわっとゆまを抱き締めていた。
鉄郎に抱き締められてゆまはびくっと、その小さな肩を震わせた。
「……っッ……ッッ……」
虚ろな瞳で後ろを見上げ、鉄郎の姿を確認するゆま。
ゆまは何かを否定するように首を左右に振った。
声が思うように出ないのだろう。光法では自分の怪我を治すことはできない――現象として既にあるものを否定して違う現実を信じることは、常人の精神では不可能だ。だから、自分の怪我などを光法で治すことはできない――だから潰れた喉が元に戻るのか、リリヤは不安に駆られた。
ゆまは出ない声ではなく、瞳で疑問を投げ掛ける。
不安な色をした瞳が、その疑問を鉄郎に感じさせた。
そんなゆまに、鉄郎はうっすらと笑っていた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
しかし、その瞳はどこまでも透き通った――虚無の色をしていたような気がした。
「安心して良いよ、ゆまちゃん」
その虚無の色を感じ取ったゆまは、目を逸らして、こくっこくっ、と小さく頷くことしかできなかった。まるで悪いことをした後に、怒られずに微笑まれて萎縮する子供のように。
リリヤにとってそれが果たして良いことなのかそうではないのか、判断が付かなかった。




