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「じゃあ、二人で新しい世界を創造しようよっ」
♪ 数ヶ月後 ♪
☆都内某所 本郷宅
蕾は、息を呑んだ。
先日の妖精種族と裏会談で和親条約交渉が無事遂行され、妖精達が人間に紛れてぞくぞくと入国している近頃。妖精と人間との橋渡しとして中立な立場を取っている鉄郎と、元人間で吸血鬼と成りつつも妖精(主に命の恩人である月女)の味方という立場から橋渡しの片棒を担がされることになった蕾は、夜の間あくせくと鉄郎と連絡を取り合っていた。
目的の情報は得られないまま――もどかしく時間だけが過ぎていく、そんなある日。
突然、鉄郎と連絡が取れなくなった。不思議に思ったのと同時に、もしかしたら有事の事態に陥っているのではないかという焦燥に駆られ、夜闇を駆けて灯りが灯っている行き慣れない高級高層マンションの一室の玄関のチャイムを鳴らす。
すると、ドアの向こうから賑やかな声が聞こえる。その声は鉄郎と思われるボーイソプラノに近い中性的な声と、明るく色っぽい女の子の高い声で、もしかしたら邪魔をしてしまったのではないかという不安に駆られ、冷や汗が浮かんできた。
ドアが開くと――しかし、その冷や汗は完全に止まった。
「あれ……蕾くん?」
鉄郎の小さな驚き顔のすぐ下、彼の白いワイシャツの向こうに見えるのは――一人の少女だった。笑顔を浮かべて、とても幸せそうな笑みの残滓がこちらに向いた。
「やあ、どうしたんだい、こんな夜遅く」
その一人の少女は左脚を引き摺っていて、ぴとっと、縋り付くように鉄郎に近付いてきた。
「――ああ、君にとっては夜早くかな?」
小さな少女の顔には左頬から左目にかけて大きな傷――その傷は見慣れなかった。
「どぉゆうことです?」
が、覚えている。
「あ、ごめんねー。ケータイ、一緒に洗濯しちゃってさー」
ああ、覚えているぞ――こいつの顔を。
「これはどぉゆうことやねんって訊ぃてんねんっ!!」
青い悪魔の顔を!
その蕾の激昂にびくんっ、と肩を震わせて年相応の少女の顔を見せ、鉄郎のワイシャツをくしゃっ、と握って鉄郎の影に隠れた。
その幼さに、蕾の怒りは頂点を越えた。
殺しておいて、
人を殺しておいて、
明日香を――殺しておいてッ!
「人殺しの癖に、」
彼女の笑顔が、理不尽に失われた笑顔が脳裏に過ぎる。
「なんでそんな幸せそぉな笑みを浮かべれんねやッ!!」
堰を切ったような怒りに突き動かされ、蕾は少女に襲い掛かった。




