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ペルソナ・ノン・グラータ 日本鎖国  作者: テロメア
第1章 前篇
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     第一話/序「暴走する少女、平和呆けの国、憤恨する少年」




 この世界(リアル)は神様の物である。



 ☆沖縄 在日米軍基地



 血のこびり付いたアスファルト片が足元に転がり、背筋が凍り付く。

 苛烈な訓練を乗り越え、世界一安全で仲間の内では最高に楽できると言われていたオキナワ勤務だったが、彼はその配属初日に悪夢を見る羽目になった。

 目の前には戦車大隊が訓練通り列を成し、目標をロックオン――発射。

 無数の大砲が火を噴き、目の前の目標に大型弾丸を飛翔させる。

 ――が、その大型弾丸は、目標に着弾する前にその目の前の、空中で静止した。

 その未知なる力を持つ目標が、ニヤリ、と口の端を上げた瞬間――弾丸は来た方向へ、そのまま弾かれるように帰還した。

 爆発(BOOM!)/爆発(BOOM!)/爆発(BOOM!)/爆発(BOOM!)/爆発(BOOM!)。

 発射した弾丸が吸い込まれるように戦車のそれぞれの砲口へ入り込んだのだ。

 内側から破裂するような戦車の爆発に動揺しつつも、機関銃を目標に乱射する兵士達。

 もはや、誰が指揮系統か分からないような状態で、ただただ無造作に目標に攻撃を各自で試みるしかなかった――が、その弾丸もすべてその目標の目の前の空中で停止していた。

 戦車の二の舞を恐れて、それぞれに悲鳴を上げながら逃げまどう兵士達。

 足が縺れて引っ繰り返り顔を擦り剥きながらも、這うようにして逃げる兵士達。

 そんな彼らに無慈悲にもその彼らが放った弾丸が返されて――被弾。

 辺り一面が硝煙と血の臭いで満ち満ちる。

 戦闘経験のない彼は物陰に隠れてがたがたと震えていた。

 ただただこの怖い状態が過ぎ去るのを、子供のように隅で震えて――。

 しばらくして、音が鳴り止んだのを感じて、恐る恐る彼は目標の方を見た。

 その時、血と砂埃と硝煙が一陣の風で消え去った。


 そしてそこに現れたのは――近付いてきていた『目標』だった。


 その目標は自分が本部から聞いていた情報からすると、あまりに拍子抜けするような――澄んだ湖のような鮮やかなブルーのワンピースに風の流れを具現化したようなフリルがあしらわれ、やはり鮮やかなブルーを基準としたブーツに清潔感漂う手袋を嵌めた少女――見た目、どう見ても十歳を行っているか行っていないか辺りの少女だった。

 その墨を落としたような漆黒のおかっぱ髪に、何者にも染まらないという意思表示のような意志の強い大きな漆黒の瞳は東洋人のそれで、この場合相手は日本人であろうと思われる――いくら西洋人から見て日本人が若く見えるからと言って、明らかにエレメンタリースクールぐらいの年齢だろう。

 あまりに場違いな、そしてあまりに驚きを隠せない『目標』だった。

 彼は拳銃を持つ手が震えた――自分達はこんな子供に発砲していたのかと思うと、急に道徳的に間違っているっという観念に駆られて、全身から先程とは違う汗が噴き出てきた。

 と、その少女がこちらを発見し、悠然と歩いてくる。

 ゆっくりと、優雅というより堂々と、至極当たり前の如く。

 それに小さな悲鳴を上げながら、彼は足を引き摺るように後ろに後退る。

 正面の少女のその手には一本のペンが握られていた。

 少女はペンを、カチッカチッカチッカチッ、と一定のリズムで鳴らしながら歩いてくる。

 彼はそのまま後退ると、突然壁が背中にぶつかるのが分かった。

 後ろは壁でこれ以上逃げられなかった。

 唯一の退路は、右の方向、約百メートル先の扉だった。

 しかし、あまりの非現実っぷりに頭が混乱していて身体が上手く動かない。

 意を決して、走る――が、足が縺れて無様に地面に倒れ込んだ。

 口腔に鉄の味を感じながらも慌てて振り返ると――少女は彼の目の前に悠然と立っていた。

 少女の影が彼に掛かり、彼は自分が追い詰められたのだと気が付いた。

 少女はその未成熟な唇を歪ませて、問うてきた。


「死にたくないの?」


 柔らかい声。通る声。場違いな幼い声。

 その未成熟で舌っ足らずな声が、流暢な英語でそう問うてくる。

 彼は思わず、頭を縦に何回も振り、「Yes,Yes,Yes!」と舌を縺れさせながら言った。

「なら、答えて。リチャード・ジェラルド・ジュニア、ジョージ・スミス、ボブ・ジョーダンはどこにいるの?」

 その名前で思い出せたのは、先日海兵隊員達が起こした事件だった。

 在日米軍による日本人少女への集団レイプ事件――そしてその海兵隊員達を引き渡すかどうかで今、日本政府と揉めているとも聞いていた。

 だが、そんなことは今日来たばかりの彼には知ったことではなかった。

「し、知らない! そ、それに、私には関係ないっ!」

 すると、その少女はぴくりと頬を痙攣させて、強烈な圧力を持った瞳を彼に向けた。

 が、やがてニヤリと笑って、

「知っている? 今の日本の教育にはこうあるの――」

 目を大きく見開いて言い放った。

「『連帯責任』ってなッ!」

 ペンを振るって、空中に一線を書くように滑らせる。

 すると――彼の右腕が二の腕から先が、切断された。

 一瞬で痛みもなく、脳天を麻痺させる灼熱と弾けるように右腕が、べちゃっと音を立てて落ちたのが視界に入り、彼は「What...?」と自らの落ちた右腕と先の無くなった右腕を見た。

 すると、思い出したかように血が右腕の切断面からぽたぽたと溢れ出してきた。

 ささくれのようになった右腕が血を脈動とともにぼたぼたと垂れ流されているのを見て、灼熱が痛みとして認識され、彼は言葉にならない悲鳴を上げた――が、少女は笑みを崩さないまま、ペンを横に構える。


「Your life is ――rerightten」


 少女の優しい瞳に優しい声色、しかし彼はその少女のペンの動きに痛みが一瞬にして飛び、戦慄した。その位置は、彼の首を狙っているものだと本能的に分かった。

 彼は小刻みに「No...No...!」と首を振り、ついに恐怖に駆られ大きく叫んだ。

「NOOOOOOOOOOOooooooooooooooooo…………!!」



 彼は命の限り叫んだが、その叫びが終わるのと同時に彼の生涯も幕を閉じた。

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