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第1話

ある世界、そこでは人間の他にエルフやドワーフ、妖精など俗にファンタジーと呼べるものたちが暮れしている。

平和とは言い切れないが、夢を多く持てる世界だろう。


「親分!引退するって本当ですかい!?」


「何度も言わせんな。俺はもう歳だ。そろそろ後釜に任せねぇと群れはまとまらねぇんだ」


ここはオークと呼ばれる種族の集落、約150体のオークが暮らしている。

女たちは子供と男たちの世話をし、男たちは狩りと外敵を倒すために武器を取る。

力自慢と荒くれ者が多い種族だが、その群れには必ず統率者がいる。

それが親分と呼ばれたオークである。


「俺が長になってからもう10年も経つ。にもかかわらずテメェらは誰一人俺に挑戦してこねぇ。それじゃ群れはおしめぇだ」


威圧たっぷりと10年分の苦労と苦悩を乗せた言葉に部下のオークはたまらず後ずさってしまう。


「お、親分に敵う奴なんていませんぜ!親分がいたからオラたちの群れはここまで大きくなれたんです。長としても男としても親分が一番でさぁ!」


「それがいけねぇんだよ、馬鹿!!俺ぁ、テメェらに楽させるために長やってんじゃねぇ。テメェらがちょっとは強くなれるように長やってんだ。俺無しでやってけるようにな」


オークの群れの統率者、通称『長』は通常3~4年で変わる。

力自慢が好きなオークたちは暇さえあればいろんなことで競い合う。

腕相撲、狩り、妻と子供の数などその種類は非常に豊富である。

これは長にも例外は無く、一度負けた長は大人しく長の座を明け渡すのだ。

しかし、この親分はなんと10年も挑戦されずに長で在り続けたのだ。


「しかし、後釜たって誰が長の代わりなんて・・・」


「そりゃもちろんオメェだよ、ベンド」


「え?あ・・・いや?!オラがヴァイグの兄貴の後釜なんておこがましいっすよ!」


親分、ヴァイグが口にした言葉に部下のベンドは天地がひっくり返ったように驚いた。


「い~や、オメェだ。オメェだったら他の連中も納得するぜ」


「そんなことないっすよ!オラみたいな奴が長になったらそれこそ群れが終わっちまうっすよ!」


「そうは言っても俺の中じゃ決まったことなんでな。大人しく構えてろ。・・・ちょっと外出てくるぜ」


「あ、待ってくだせぇ!親ぶぅぅぅん!?」


ベンドを置いて群れの外に出た親分ことヴァイグは悩ましげに息を吐いた。


「ったく、ベンドの奴はもうちっと自信を持てねぇもんかね」


長になって10年、多くの男を見てきたが特にヴァイグが気に入ったのはベンドだった。

他のオークと違って気弱な性格で狩りも碌に出来なず役立たずなんて呼ばれていたが、他人を労わる気概をヴァイグは評価していた。

それからベンドに自分の知るもの全てを教え始めた。

めきめきと力をつけていくベンドをヴァイグは我が子のように可愛がった。

しかし、そのためベンドはヴァイグに決して頭が上がらなくなってしまったのだ。


「才能も知恵も気概も充分、あとは度胸さえありゃなぁ。・・・ん?」


ふと周りの雰囲気が変化したことに気づいたヴァイグは足元を見た。

そこにはヴァイグを中心に魔方陣が広がっており、淡く光っている。


「んだこりゃ!?くそったれエルフどもの仕業か!?」


過去にエルフという種族が使用する魔法について齧ったことのなるヴァイグはこの魔方陣がすでに起動しており解除は不可能であると悟った。

それでもなんとか抵抗できないかと体を動かそうとするも魔方陣の影響か指一本動かすことができなかった。

そしてヴァイグは音も無くこの世界から姿を消した。




ヴァイグが目を開けると見知らぬ場所に立っていた。

神殿のような、はたまた宮殿のような厳かな雰囲気が漂う場所だ。

周りには耳が長く尖った人間、エルフたちがヴァイグを見ていた。

どうやら歓迎されているようであちこちから成功しただの、これで救われるといった声が聞こえる。


「あー、盛り上がってるとこ悪いがまず状況を説明してくれねぇか」


「これはすみません、異世界の方。ようこそ、アルフヘイムへ。私はマギスと申します」


手入れのよくいきとどいた白金の長髪を持つエルフの女性、マギスが一歩前に出て名乗った。

華美ではないが上等な生地で作られた服を着ており、それだけで彼女がかなりの身分のものだと分かる。


「異世界だぁ?ふざけるのも大概にしろよ嬢ちゃん。エルフなんて見慣れた種族に異世界なんて言われても騙せねぇよ」


「いいえ、あなたにとってここは間違いも無く異世界なのです。その証拠、となるかは分かりませんが私たちは貴方がどんな者か全く知らないのです」


「・・・んだと?じゃあオークって種族に聞き覚えは?」


「ありません」


「人間、ドワーフ、ハーフリング、リザードマン、どれかに覚えはあるか?」


「そのどれもが私たちにとって初めて聞くものです」


「・・・おいおい、マジかよ」


長年群れを率いてきたヴァイグにとって嘘を見抜くことは簡単だった。

だからこそ、マギスの言葉に嘘、偽りはないと確信した。

自分が本当に異世界なんて馬鹿げた場所に来てしまったのだと理解したヴァイグはなんとも言えない脱力感に見舞われた。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。問題ねぇ。ちょっと体から力が抜けちまった」


「無理もありません。突然見知らぬ世界に呼び出してしまったのですから。さぁ、部屋を変えましょう。そこで貴方を呼び出した目的を話しましょう」


マギスは配下らしき者に指示すると部屋の出口に向かって歩きだし、ヴァイグもそれについていった。

ヴァイグが案内された部屋は応接間らしく見事な細工が施された椅子と机が置かれている。

二人は席に着くと侍女らしいエルフがお茶を持ってきてくれた。

どうも紅茶らしくヴァイグは飲み慣れぬ味に困惑するもひとまず落ち着くことができた。

ヴァイグが落ちついたの見計らいマギスが語り始める。


「貴方をお呼びした目的、それはこの国の騎士の教育と魔物の討伐に協力してもらいたいのです」


「なんでそれが異世界から俺を呼ぶ目的なんだ?そんなことお前たちだけでも出来るだろ」


「それが今の私たちでは不可能だからこそ、お呼びしたのです」


明かされた目的の事の小ささに内心怒りがこみ上げてくるヴァイグはマギスを睨みつけた。

ヴァイグの怒りを受けつつもマギスは続きを話す。


「私たちは魔導という技術を用いて国を発展させてきました。どこでも火を扱うことできるようになったり、土地を作物が実りやすいものに変えたりと様々です。それはもちろん国を守ることに使われるようになりました。おかげで危険な魔物を倒せるようになり、なにもかも順調に進んでいるように思えました。しかし、ある日を境に魔導が効かない魔物が現れたのです。どれほど強力な魔導でも傷一つ付けることは敵いませんでした。そこで騎士団を結成し武術で打倒しようと図ったのですが・・・」


そこまで語ったマギスだったが言いよどんでしまった。


「なるほど、ようは魔導ってのに頼ってばっかでてんで使い物ならないと言いてぇんだな」


「・・・はい。武術に長けた者がいないか国中を探しましたが結局一人もおりませんでした。そこで編み出したのが異世界に干渉する魔導だったのです。異世界から武術に長けた者を呼び、その力を貸してもらおうとしたのです」


ヴァイグは自分が呼び出された目的と原因に怒りを通り越して呆れてしまった。

くだらないの一言に尽きるが、彼女たちにとって国の存亡に関わるほどのことなのだろう。

マギスはヴァイグは真っ直ぐ見据えている。


「わぁった。その仕事、引き受けた」


「ッ!ありがとうございます!なんとお礼を申し上げたらよいでしょうか!アルフヘイムの全てを代表して感謝します!」


「礼はいらねぇ。ただし、条件がある」

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