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勘違い騎士

 俺は、膝をついて、一部始終を見ていた少女の元へ辿り着くことができた。呼吸は荒いが、命に別状はなさそうだ。


「『ヒール』」


 だが、苦しそうに肩をおさえ、流れる血を見ているのは気分が悪い。

 なので、ゲーム内で覚えていた下位の回復魔法、ヒールを、傷口にかざしてかけた。


「……!」


 みるみるうちに、傷が塞がっていき、少女の健康的な肌が戻ってくる。

 これも新たな情報だ。この世界でも俺の魔法は通じる。

 しかし、実際にかけると、下位の回復魔法でここまで劇的に回復するとは。


 ゲーム内では回復量が頭上に出るだけの一瞬であったが、現実として見るとその違いに驚く。

 まあ当たり前といえば当たり前なのだが……。


 塞がった傷と、俺の顔を交互に見て驚いた様子でいる少女。俺も驚くぐらいだから仕方ないだろう……って、しまった!


 この世界に魔法のようなものがあるのかまだわかっていないじゃないか!

 生身となったルキアの体から、冷や汗が垂れる。


 まずいと思い、俺は少女に背を向け、再び未だ固まっている盗賊たちの方へと視線を戻した。


 すると、


「……あ、ありがとうございます、騎士様!」


 背後から、可愛らしい声が聞こえた。

 どうやら反応を見るに、魔法を使っても問題はなさそうである。


 ふぅ、と安心して一息つく俺。

 しかし、安心するにはまだ早い。表情を引き締め、剣の柄をグッと握り、剣先を五人の盗賊たちへと向ける。


「まだやるか? もう治療も済んだ。貴様らがまだ戦うというのであれば、容赦はしない……逃げるのなら、今のうちだぞ?」


 相変わらず澄んだ声である。こんな格好いい台詞、まさか言える日がくるとは。


「ちっ、引くぞお前ら!」


 俺の気迫(演技)に怯んだのか、散り散りに逃げていく盗賊たち。まあ、攻撃の通らない化物じみた相手には、逃げるのは最善の選択であろう。


 ……いや、それにしても怖かった。刃物なんて向けられたこともないし、まして殺意を持って襲いかかられたことなんてない。


 この身体で芯をしっかりと持ち、立ってはいたが内心ビクビクで寿命が五年は縮まったと思う。


 剣を払い、鞘へと収める。

 血を落とすのと、ただ単にやってみたかっただけという理由なのだが、ルキアの姿だと想像すると格好がついているのではないだろうか。


 ……が、途中見えた刀身には、血などは一切ついてはいなかった。人を斬り、傷ついた男の姿も見たはずなのだが。


 人を斬るということに抵抗はなかったが、後からくる吐き気や気持ち悪さなどは覚悟していたが、剣の切れ味が良すぎるあまり実感がわかなかった。

 なので、未だ平気で立っていられるのだろう。


 それとも、この身体がルキアだからなのか……。


 いや、今考えていても答えが出るわけでもない。

 無事に救えた少女の方へ身体を向き直す。


「大丈夫?」


 膝をついたままの少女へ、屈みながら話しかける。


「はい、大丈夫です!」


 それに少女は、笑顔で答えた。


「そうか、それは良かった」


 俺も笑顔で応える。

 反応からするに、本当に大丈夫なのだろう。

 恐怖が残っていたりする様子もない。元々この少女が馬車を守っていたのだから、当然のことか。


 見た目、年は十代半ば。まだ幼さ残る顔つきに、水色の髪のポニーテール。身長も150センチ程度か、よくもまあこんな少女が戦っていたものだ。


 剣は持っているが、素早さを重視したのか防具のようなものは見えず、革のブーツにミニスカート、上はベストみたいなものを着用している。


 ……要するに、美少女である。本当に助けてよかった。

 けれども、助けた本来の目的は情報収集のためである。

 かといって、最初から情報を聞き出していくのは怪しまれるだろう。


 なのでまずは少女の心配から、手順を踏んで聞き出していく。


「立てるか?」


 言いながら手を差し伸べる。

 少女は戸惑いながらも、「はい」と小さく答えその手を握ってくれた。


 ……柔らかいな。

 と、いかんいかん、余計なことは考えてはいけない。

 少女の手を引っ張り、お互い立ち上がる。


「自己紹介が遅れたな。私の名はルキアだ」


 うん、このキャラでやっていこう。

 対人のキャラ設定を練っていく。先ほど私は騎士だなどとほら吹いたが、この世界の騎士がどういったものかは全く知らない。

 なので下手に喋らず、まずは名だけを名乗っておく。


「わ、私はスイルと言います! 危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」


 大きく頭を下げる少女、スイル。

 その後顔を上げ、こちらを見る目には安心、安堵、信頼のようなものが浮かんでいる。


 俺のことを騎士だと思っているままだし、付け込むのは悪いがここはスムーズに聞いていけそうだ。


 と、俺が話を切り出そうとした時であった。


「いやぁ、さすがは騎士様! おかげで私の馬車も被害に合わずに済みましたよ」


 馬車の影から、今までずっと黙って動かないでいた御者が、こちらへ手を揉み合わせながら近づいてきたのは。

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