防御全振りの戦い方
「待て!」
一言。
良く通る美声が、全員の注目を引き寄せた。
「なんだ、てめぇは……」
少女へと一番距離を詰めていた男が、鬱陶しそうにこちらへと振り向く。
……そう、俺はこの場で助けることを選択したのだ。
全力で走り、何事もなかったかのように言う俺。息切れ一つないこの身体は、やはり相当なものだ。
ギラリと睨みつけられ、その迫力にのまれそうになるが、俺は仁王立ちしたまま睨み返した。
すると、睨みつけてきた男、遅れて俺の姿を見た他の男たちが慌て始める。
「お、おい、何で騎士様がこんな辺境にいんだよ!」
「知らねえよ、ちゃんと人がいないかは確認したはずだ!」
?
よくはわからないが、どうやら俺のことを恐れているらしい?
確かに姿格好は騎士……のようなものだが、まさかこのアバター装備が役に立つとは。
このまま上手く行けば、戦わずに済みそうか?
「いかにも、私は騎士だ! 貴様らの悪行、見過ごすわけにはいかないが、この少女の傷がある。今なら手当を優先し、見逃してやろうじゃないか!」
それっぽいことを高らかに口にする。言葉使いは、俺のルキアのイメージに合わせてみた。いや、ゲーム内でロールプレイなんてしてはいなかったが、現実となった今の姿で、俺とかなんて言っている姿は他に見られたくはない。
俺の言葉にグッと歯を噛み締める男たち。どうやらこのキャラで通りそうである。
……が、俺から目を離して辺りを見る男。
何か確認できたのか、男の顔がニヤリと浮かんだ。
「けっ、騎士だと思って肝冷やしたが、一人みたいじゃねえか。しかも上玉の女だ。お前ら、獲物がもう一人増えたぞ!」
少女から離れ、各々武器を構えてこちらへと向かってくる男たち。
えっ、そうなっちゃうの? と何もできずじまいにただただ突っ立っていただけの俺は、あっという間に五人5方に囲まれてしまった。
「ほう……私とやるというのか?」
震え声にならなかったのは褒めてほしい。
あくまで自然に、流れるように鞘から剣を抜き払う。
よし、武器を構えることはできた。
そして、少女からも皆離れてくれた。
……これで、俺の予想が正しければ、目的はもう達成したも同然である。
「あぁ、犯ってやるよ……おら、かかるぞ!」
最初に睨みつけてきた男はリーダーなのだろうか。男の号令に合わせ、一斉に武器を振りかざし俺に向かう盗賊たち。
何度でも言っておくが、俺は五人同時にかかられて捌けるほどの腕前は持っていない。
だが……受けきることはできる!
「『スーパーアーマー』」
ボソリと呟くと、身体に一つの芯ができたような感覚が身に訪れる。……問題はなさそうだ。
俺は男たちに構わず少女の方へと歩き始める。
「ちっ、余裕かましてんじゃねえぞ!」
最初に降り掛かったのは斧であった。
大きく振りかざしていたので、どうにか斧の刃の軌道上に俺でも剣で置くことはできた。
右から来られたせいで、利き手である右手に剣を持っていたので、腕を曲げて剣を日差しを遮るような形のガードになってしまった。
「なっ……!」
斧を力の限り俺に向かって振り下ろした男の顔が驚愕に染まる。
それもそうだろう。俺は剣を置くように構えただけで、男の全力の攻撃をビクともせずに受け止めたのだから。
女の軟腕。身体は少女の方を、変わらず正面を向いている無茶苦茶な体勢なのに、だ。
男は驚いているようだが、俺の方も内心ほっとしているところだ。これは別にこの身体が凄まじい馬鹿力を秘めているわけではない。
スーパーアーマーというスキルによるものだ。
ゲームの使用上、巨人のような敵の豪腕によるなぎ払いさえもダメージだけ受けてアバター自体はビクともしないまま。
なので、受け止めることはできるが、このまま斧を押し返すことはできない。男は力が拮抗しているのだと思っているだろうが、俺には後は男が斧を引いてくれなければどうすることもできない状態である。
そう、ゲームのそれが今、機能しているだけなのである。
当然機能するかは一か八かであった。
だが、機能していなくても問題はなかった。
「へっ、他ががら空きだぜ!」
剣を構えた男二人が、同時に俺の肌が露出している太ももを左右から的確に斬りつけてくる。
が。
「な、なに!?」
「嘘だろ……?」
確かに男たちの剣は俺の太ももを捉えた。しかし、剣がその切れ味を発揮することはなく、太ももに触れる表面で止まったのだ。
俺は動揺し固まっている剣の男一人に向かって、斧を支えていた剣を引いて自由にし、そのまま斬りつける。
同時に重みのある斧の一撃が俺の肩へと襲いかかるが、結果は同じである。びくともしない。当然、俺は痛みなど全く感じていない。
「ぐっ!」
屈むようにして斬りつけてきていたので、俺が振るった剣の先は男の肩を抉った。
血が吹き、男は転がるようにして俺から距離を取る。
斧ともう一人の剣の男も、一旦俺から離れることを選んだ。
向かっていた残りの男二人は、この光景に驚き、その場で固まってしまっていた。
……そう、俺の全てを捧げた結晶である防御力。
それが生きていたのだ。
ここへ駆け付ける前に、小岩の陰で自分の太ももへと剣で斬りつけた。だが、まるでダイヤモンドのように硬く、傷がつくこともなく、美しい肌はそのまま存在していたのだ。
次に自分の手で太ももに触れてみた。だが、前と違い弾力があり、柔らかい肌であった。
このことから、防御力とは敵意のある攻撃にのみ発動しているのだと俺は判断したのだ。
盗賊たちの攻撃力が上回っている可能性も危惧はしたが、武器の質は俺の剣の方が上でありそうだし、一応シールドと守護結界もかけてきたのだ。
結果、俺は死ぬこともなく、思い通りの状況と情報を手にすることができた。
この世界でも、俺の防御力は、通用する!