プロローグ
日本人なら誰だって、RPGというゲームは知っているだろう。
その中にはどんなゲームにだってあるステータスというものが存在する。
これはゲームにおけるシステムの中で敵に与えるダメージや受けるダメージを計算する上で重要なものであり、目に見える形の自分の成果なので数値が上がっていく喜びはプレイしているものならわかるだろう。
二年前、新しくサービスを開始したファンタジーライフオンライン。通称plo。
MMORPGという大規模多人数同時参加型の基本形でありながら、他のゲームとは違い広大なフィールド。スキルや職業、アバターの種類や種族の多さ。
ノンターゲットのシステムをとっており、ガードや回避などもプレイヤーの腕に大きく左右され、武器や防具の性能の差を埋められるほど。
何回ものアップデートを重ね、改悪と呼ばれるものが一切なかったこのゲームは数々のゲーマーを虜にしていった。
その内の一人が俺である。
元々やっていたオンラインゲームが友達などが次々とやめていき、ある程度強くなってしまったのでやめられず惰性で続けていた時、偶然バナーで見つけたのが始めたきっかけである。
サービス開始から半月ほどでプレイを開始した俺は、ploにどっぷりとハマり、仕事と睡眠以外の時間は全てプレイ時間、食事中もやっている程であった。
なにぶん、このゲームはやれることの多さも魅力の一つだ。
交易や自分で店を建て物を売ったり、釣りや採集で生計を立てたり、畑や家畜の養殖。
闘技大会なども開かれたり、種族や所属国家により分けられた大規模な対戦も行われた。
移動手段である乗り物には馬やドラゴンなどがおり、それを育てるブリーダーのプレイを楽しんでいる者もいる。乗り物である生物にもステータスがあり、高いものは何百、何千万もの値段がついたものだ。
さて。
ここで俺が取ったプレイスタイルは、防御に命をかける、通称カチ勢というプレイスタイルだ。
防御特化である職業を選択し、レベルをMAXにするのは勿論のこと、レベルアップによる自由なステータス振りを防御や魔法防御に全て入れ、限られたスキルポイントも状態異常無効や地形ダメージ無効、何%ダメージ軽減などに振った。
武器も攻撃と共に防御があがるものを装備し、防具もスピードは下がるが防御は全ての防具の中で一位というものを装備。
簡単には言うがこれらを手に入れるために同じクエストを何周もしたり、一日に何回かあるレイドボスを討伐し、限られた数しか落ちない素材を大量に使って作ったりと物凄い時間と労力をかけた。
レベルアップも運営はMAXに届かせることをあまりしたくないのか膨大な経験値を要求された。
さてさて。
通常のプレイヤーであればこんな事に多大な時間と労力をかけることを普通しない。
何故ならある程度の装備やレベルがあれば高レベルの敵の攻撃も何回かは耐えられるし、DPS、秒単位のダメージ効率を求めた方が圧倒的に有利だからだ。
スキルも豊富であり、俺みたいな形にすると攻撃系や生産系のものには一切振れず、ソロで戦おうものならボス相手に何時間もかけることになるだろう。
更には振ったスキルポイントを変えることはできず、このゲームはデータの都合かシステムの都合かキャラを一体までしか作れず、再びキャラを作り直しレベルを上げなければ変えることはできない。
状態異常を回復する魔法を覚えたり道具を買ったりする方が早ければ、ガードや回避だってある。
こんなリスクを背負ってまで防御に力を全力で注ぎ込む者などはいない。
パーティのお誘いなども「えっ、これはちょっと^^;」と言われるくらいだ。
そう、俺みたいなのを除いて。
かつては俺のようにカチ勢を目指していた者もいたのだが、防御に金やステータスを振るあまり敵を倒すための効率が落ち、経験値なども集まらず次々に挫折していった。
俺が折れなかったのは、子どもの頃が病弱であったため、その頃からの考えが抜けず、憧れからか防御最優先! という思考の元である。
……そして、今日。
俺はついに、今の環境の中でできる最高の防御に特化したキャラクターがついに完成したのだ!
ステータス
名前 ︙ルキア
職業 ︙聖守護騎士
種族 ︙人間
性別 ︙女性
LV ︙80
HP ︙3247
MP ︙1412
攻撃力 ︙1217
魔法攻撃力 ︙802
防御力 ︙6513
魔法防御力 ︙5908
技量 ︙678
素早さ ︙620
・魔法
ヒール/シールド/守護結界
・スキル
状態異常無効/地形ダメージ無効/スキル無効/オールガード/女神の祝福/スーパーアーマー/固定ダメージ極小
HPアップLV10/HPアップ2LV10/防御アップLV10/魔法防御アップLV10/防御アップ2LV10/魔法防御アップ2LV8
ヒールはHPを回復する下位魔法。
基本的に防御特化にしたため、受けるダメージの少ない分上位回復魔法に回すスキルポイントを防御力に捧げたのだ。
シールドは自分の防御と魔法防御を上げる魔法。%で上げるため、元の防御力が高いほど上がる幅も大きくなる。
守護結界は一定時間、発動時に範囲内にいた仲間を、敵からのダメージを30%軽減する職業固有の魔法だ。範囲も広くパーティも守れるイケメン魔法。
シールドと守護結界を備わったナイトは最強になる。
シールド、守護結界の効果時間は三分程。
スキルは状態異常無効は文字通りあらゆる状態異常を無効にし、スキル無効は暗殺者等の即死スキルや攻撃何倍アップ、防御貫通などといったもので発揮するスキル。
どちらも常時発動のパッシブスキルだ。
オールガードは、ガードをすることで前面にしか発生しないガード判定を全面に発生させるスキル。
スーパーアーマーは、ダメージを受けた際の仰け反りや吹っ飛びなどを無効にしてくれるスキル。敵の攻撃に構わず攻撃を続けられるメリットがあるが、ダウン時の無敵がないので連続攻撃を受けるデメリットがある。
スキル発動時間に制限はなく、再びスキルを発動することで解除ができる。
固定ダメージ極小は、防御貫通スキルとは別に、防御力に関係なくダメージを与えるものを軽減させるもの。
無効ではないのはあれだ、いわゆる負けイベントと呼ばれる強制的に敗北させる仕様上、運営が俺みたいな奴でも負かせられるようにしてあるものだ。
女神の祝福は、一定確率で受けるダメージを半分にするもの。運ゲーとは言え、他に防御系のスキルがなかったため、基礎ステータス上げという死にスキルと一緒に取った。
他は膨大にスキルがあるくせに、防御系統のスキルが限られているのには、それだけ需要がないということだろう。それに防御とは単純だ、案がなかったのかもしれない。
それと、これらのスキルは全て、状態異常無効なら毒無効、火傷無効等を全て取得、女神の祝福は、女神のきまぐれ、女神の加護などの前提スキルを全てとってようやく取れるスキルたちである。
多くの、いやほぼ全員が防御にスキルを割り振ろうとしても、どれか一つ、それも前提スキルをとって終わるだろう。
前提スキルを取る条件も様々であり、労力と効果、スキルポイントが見合っていないからだ。
次に防具だが、
武器 ︙聖守護騎士の剣盾
頭 ︙女神のサークレット
身体 ︙巨神の鎧
装飾品 ︙岩石竜のお守り
上から、攻撃力は低いが防御が上がるもの。
武器は数多くの種類があるが、俺の武器は剣と盾がセットになったものである。
小回りが利く小型のタイプもあるが、俺の装備は重量級で、大盾に中くらいの剣。ガードの能力も大きいし武器の攻撃力もそこそこあるが、素早さに関してはもう何も言うまい。
女神のサークレットは単純に防御力が高いのと、女神の祝福が出やすいのが理由だ。
二回に一回は発動してくれるほど、これを装備すれば祝福される。
巨神の鎧は全防具一の防御力を誇るが、反面素早さが下がるデメリットがついている……が俺には関係ない。
岩石竜のお守りも同じだ。
ちなみに武器や防具で外見は反映されるが、それとは別に外見用の装備を設定させることもでき、俺は見た目も重視しているのでこちらを採用している。
鉄板とも言える白銀の長髪、やや釣り上がっているが強く意志のこもった深紅の瞳。
スレンダーな身体に、程よい美乳。
肌は不自然とはいえないくらいの絶妙な位置にある白さ、そしてそれに合わせた白銀の鎧。
鎧なのに顔は出ているは腕は出ているは、腰から先はミニスカートだわだが、そこはゲーム、気にしてはいけない。
篭手や脚鎧などは完全アバターとして別に用意されてあるものを装備している。
武器である剣盾も、良いデザインなのだが、何分大きい武器なので背負う形になってしまう。なので普段は装備を外し、代わりに完全アバター用である装飾の施された剣の鞘を腰にぶら下げている。勿論武器としては使えないし、柄から先の、鞘から抜けたデザインなんて見ることもできない。
が、この鎧とも呼べない軽装の白銀の鎧にはこちらの見た目の方がふさわしいのだ。
テーマは白銀の聖騎士団長。
後は女騎士のキャラに対する、「くっころ」感をなくすような風貌にしたいという思いもあった。
顔つきや身体つきまでいじれるこのゲームで、この凛々しい美人さを出すのには苦労したものだ……。
おかげで公式主催のアバターコンテストでも賞をとったことがある。
「見抜きいいですか?」
と聞かれたことさえあるほどだ。
「さて……今日はこれくらいにするか」
改めて完成した自分のキャラクターを眺めていたら、時刻はすでに夜中の二時を回っていた。
明日も朝早くから仕事である。
ゲームも大事だが、体を壊してゲームをできなくなるのは本末転倒だ。……が、眠気がどうやら限界に達していたらしい。
ベッドへいくのも面倒である。
俺はそのまま、机に突っ伏すようにして眠りにつくことを選んだ。早くも前言が危うくなっている。
しかしパソコンの明度を落とすが、ゲームは起動させたままだ。これはログイン時間で貰えるボーナスのためである。
ゴロゴロ……。
ゲームに夢中で気が付かなかったが、外は何やら大荒れらしい。雷が光り、雷鳴が轟く。間隔は短く、すぐ近くであることを示していた。
「むぅ……」
気分よく寝付こうと思っていたのに、とんだ雑音だ。早く収まらないものか……。
と、その程度に考え、目を閉じていた時であった。
ピシャーン!!!
落雷だ。
それもすぐ近く。
さっきまでとは比べものにならない大音に俺は飛び起きる。そのせいで、パソコンを繋ぐコードに絡まってしまった。長年使っていたせいで、ボロボロのもの、刺さって痛い。
……そんな次の瞬間であった。
俺が、死んだのは。