#9 路地裏を抜けて
「橘さんこれからどこに行くんですか?」
あまりにも薄暗い路地裏を歩き続けるので俺は思いきって聞いてみた。
――この先には何があるのだろう。そんな言葉が頭の中でクルクル回っている。
「さて、哲雄君どこだと思う?」
「う~ん。正直分かりません。この辺りはあまり来ることもないですし」
「そう。じゃあ着いてからの楽しみということで」
「はぁ、そうですか」
はぐらかす梓さんを恨めしそうに見ながらも俺は彼女に着いていくしかなかった。
***
路地裏を抜けた先には閑静な住宅地が広がっていた。一本の長い長い道路がまっすぐ続いている。見た感じとしては最近整備された新興住宅地のようだ。まさかこんなところに出るなんて。俺は辺りをキョロキョロしながらそう思った。
「どう、驚いたでしょ。さっきの路地裏はここへと続く近道なんだよ」
まるで小悪魔のような笑みを浮かべながら彼女は一言そう言った。
「へぇ……。驚きました。橘さん物知りなんですね」
「そんな、物知りだなんて大袈裟よ。私あの道よく使ってるもの。さぁ、ここが目的地じゃないのよ。早く先に進みましょう!」
彼女の声に後押しされながら俺はまた歩き出した。
***
「はい、お疲れさま。着いたわよ」
路地裏を抜けてから約15分後ようやく俺達は目的地に着いたようだ。急な坂道が多くてまだ春なのに俺は大粒の汗をかいてしまった。最近、あまり運動をしていないから予想以上に疲れてしまった。ふと前をよく見ると大きな家が建っている。誰の家なんだろうか。それになんで彼女は俺をここに連れてきたのだろうか。
「ところで橘さん。そろそろ目的地を教えてくれてもいいんじゃないんですか?これ誰の家なんですか?」
「あら、あなた自分の恋人の家も知らなかったの?」
「えっ……。そう言えば彼女の家には行ったことがないような気が……。じゃあもしかしてここって……」
「そうよ、あなたの恋人桜倉優紀さんの家よ。さぁ! 中に入りましょう。彼女きっとあなたのことを待ってるわ!」
「えっど、 どういうこと!?」
突然の展開に俺は状況を飲み込めないでいた。まず橘さんと優紀さんの関係がよくわからなかった。
「ちょっと待ってください。まだ優紀さんに会う心の準備が出来てません!」
「何言ってんのよ。ほら、行くわよ!」
こうして俺は半ば強制的に優紀さんの家の玄関を潜った。