#8 そのワッフルは輝きをもって
「けっこう並んでるね……。さすが人気店」
しみじみとした口調で梓さんはそう言った。見たところ十数人くらいだろうか。でもここはワッフルのお店。ガッツリランチを食べるようなお店じゃないからお客さんの店内での滞在時間もそう長くはないだろう。
「梓さん大丈夫ですよ。並んでたら順番すぐ来ますよ。のんびり並んでましょう」
「そうね。ここが今日の目的地だもんね。よし、並ぼう」
そして、二人はどこかそわそわとした様子で列に加わった。
***
「ねぇねぇ哲雄君。あなたが春を感じるのっていつ?」
並んでる最中にいきなり梓さんがそんなことを聞いてきた。
「春ですか?う~ん。桜が咲いたら……。かな」
「ふ~ん。なんだか在り来たりな答えね。46点かな」
「えっ!? ちょっと点数低くないですか。じゃあ梓さんはどうなんです?」
「私? 私はね――誰かと新しい出逢いをした時。それが春の始まりだと思うの」
「梓さんそれなんか良いですね」
「でしょ? ふふ……。ありがとう」
その時、ふわりとしたそよ風が街を駆け抜けた。
「お待たせしました! 店内へお入りください!」
列に並んでから20分ほどがたったのだろうか。俺達は笑顔がとてもステキな店員さんに導かれて二人は店内へと入った。
***
「うん! おいしい!」
テーブルに運ばれた注文したワッフルを食べながら俺はついそうつぶやいてしまった。なんていうかとてもジューシーな味だ。その香りだけでお腹がいっぱいになりそうなそんな感想を俺はもった。
「さすが人気店ね。とくにこのバターが良いアクセントを出してるわね」
「ア、アクセントですか?」
「そうよ。あなたは食べてみて何とも思わなかったの?」
「あ……。美味しかったです」
「うーんなんか在り来たりな感想ね。でもその率直な答え私は好きよ」
あれ? 今、彼女に誉められたのかな。俺はその時喜んでいいやら悲しんでいいやらなんだか不思議な気持ちになった。
「哲雄君は高校卒業した後のこととか何か考えてるの?」
「えっ!? 卒業した後ですか……」
正直何も考えてない。そう言えば今年で3年生だ。そろそろ本気で進路のこととか考えないといけない。
「そうなんだ。私はね家具職人になりたいの。オシャレなテーブルやイスを作って家庭の幸せに少しでも貢献したいの」
「家具職人ですか? なんかカッコいいですね! そういうの俺とっても憧れます」
「あら、ありがとう。もし良かったら応援してくれる?」
「もちろんですよ! 人を応援するのは俺の得意分野なんですよ!」
「ふふっ……。ステキな得意分野ね。私頑張れそうな気がする」
ワッフルはとても美味しかった。それに彼女の将来の夢も聞くことができた。でも俺はその時、自分の進路のことを答えられなかった。俺はこれからどうすればいいのだろう。今からいったいどんなことができるのだろうか。そんなことを考えると少し不安な気持ちになった。
***
「哲雄君まだ時間大丈夫?」
帰り際、不意に梓さんは俺に対してそう言ってきた。
「そうですね……。大丈夫ですよ!」
たぶんウィンドウショッピング的なやつだろう。その時の俺はあんまり深く考えてはいなかった。
「そう良かったわ。じゃあちょっと私に着いてきてね」
梓さんに連れられて俺は薄暗い路地裏へと向かった。
あれ、ウィンドウショッピングじゃないぞ……。