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#10 疑念の証明

「橘さん、ちょっとストップ!」

 今にも玄関を潜った後、奥へ奥へと行きそうな彼女を俺は必死になって止めた。


「な、なによ。どうしたの?」


「今、自分が置かれてる状況がよくわかりません!」


「はぁ……!?」

 半ば呆れた顔で俺を見つめる橘さん。俺の突然の主張を聞いて呆気にとらわれている。


「まず橘さんと優紀さんはどのようなご関係なんてます?」

 このまま彼女に言われるがままにこの玄関を潜る訳にはいかない。そもそも本当にここは優紀さんの家なんだろうか。たしか彼女は今、イギリスにいるはずだ。本来、家にいるはずはない。


 もしかして――。何かの罠かも知れない。


「か、関係って……。し、親戚なのよ!」


「本当に?」


「ほ、本当よ!」

 急に目を背ける橘さん。どうやらこれは図星なのかもしれない。


「ならもちろん優紀さんの本名言えますよね?」


「と、当然よ。桜倉優紀さくらゆきでしょ?」


「違います」


「えっ……!?」

 俺の罠にかかった橘さんはまるでトマトのように顔を赤くしながらそう言った。『桜倉優紀』というのは間違いではない。でもかと言って正解でもない。彼女の本名、それは桜倉・ケイト・優紀が本当の名前なのだ。どうやら橘さんは彼女がミドルネームをもっていることを知らなかったらしい。親戚でこの事実を知らないというのは不自然すぎる。こうなってくるとますます今の状況が怪しくなってきた。


「あ――もういいわ、降参降参よ!」


「えっ――。ど、どういうことなんです?」

 急に大声を出した橘さんに慌てる俺。それでも彼女の勢いは止まらない。


「帰ってよ。早急に!」


「はぁ……!?」


「私、急に具合が悪くなったのよ!」

 そう言って彼女は家の中に入っていった。どうやら俺の疑惑は当たったらしい。


 ということはここは――。


 優紀さんの家じゃなくて橘さんの家?


 ***


「はぁ……。騙して連れ込み作戦失敗――か。鈍男のくせに意外とやるじゃないの。でも、ちょっと感心しちゃった」

 玄関のドアを固く閉めた後、彼女はため息をつきながら一言そう呟いた。


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