#1 落ちたハンカチ
*主役紹介*
○早見哲雄
鈍い男…。略して鈍男というニックネームをつけられていたが、実はやればできる男。今回はある騒動に巻き込まれる。
冬が深まる12月下旬。商店街を慌ただしく人々が行き交う。俺が住むここ緒海市もクリスマスが過ぎ次のメインイベントであるお正月を迎えるために大掃除や年賀状の準備やら大忙しだ。
あの図書室で二人が結ばれてから早一ヶ月。交際は順調だ。しかし彼女は今、日本ではなくイギリスにいる。それがとても残念だった。でも、来年の正月明けには帰ってくるのでそれがとても楽しみでもあった。帰ってきた時、なんと声をかけようかな。彼女の好きなクルリのシュークリーム買ってこようかな。そんなことを考えながらフラフラと商店街を歩いてた時だった。
「これ、落としましたよ?」
ふいに肩を叩かれそう声をかけられた。
驚いて振り向くと一人の女性がハンカチを持って立っている。
「今、このハンカチ落としましたよ」
二度言われて初めて気がついた。俺がハンカチを落としたことに。
「あっ!ありがとうございます!助かりました」
感謝の気持ちを素直に伝える。彼女のおかげで大事にしてたお気に入りのハンカチを無くさずに済んだ。ある雑誌の懸賞で当たったプレミアムハンカチ。これは本当に大切なものだ。それと共に俺はあることに気がついた。彼女の着てる制服。これは緒海商業高校のものだ。特徴的なピンクのリボンを見た瞬間、すぐにわかった。
「もしかして、あなた2組の早見君?」
俺の顔を見ながら彼女はそう言った。あれ、もしかして俺のことを知ってるのだろうか。しかし、俺は彼女のことを知らない。誰だろう。
「あぁ!やっぱりそう。私、2年1組の橘梓と言います。あなた文化祭の実行委員にいたでしょう?私もそこにいたのよ。あの時はお疲れさまでした」
彼女はそう言いながらペコリと頭を下げた。綺麗に整えられたポニーテイルが風に揺れる。その瞬間、「あれ、この子可愛いな」と心の中で思った。俺には優紀さんがいるにも関わらずだ。そして、彼女の話を聞いて思い出した。この子、実行委員の会議の席で俺の隣に座ってた子だ。そう言えばあの時もポニーテイルだったっけ。
「はい、これハンカチ。次は落とさないでね。それじゃあ私、急いでるから。またね」
橘さんは手を振りながら商店街の奥に走っていった。その姿を俺はずっと見ていた。そして俺も歩き出そうとした時だ。あれ、下に何かが落ちている。最初、ポケットティッシュかと思ったのだが、手に取ってみるとそれは裏返しになった1枚の写真だった。誰が落としたんだろう。俺は拾い上げて見てみた。写真には灯台をバックにして二人の男女が微笑みながら写っている。男性の方は知らない。でも女性の方はさっきの女性、橘梓だ!
「あぁ、もう。橘さん写真落としましたよ~!」
俺は商店街の奥に消えた橘さんを追いかけた。
この先は緒海郵便局だ!
あれ、この光景前にどこかで見たような。
いや、たぶん気のせいかな。