〜呪縛契約〜(1)
この小説を通して今の世界で感じたことを書いていきたいです。読んでくれたら、幸いです。
〜呪縛契約〜
「 」
最初に言った言葉は聞こえなかった。とても大切で愛おしい者の言葉なのに。
「 」
俺はもう一度、自分の動かなくなる体を喚起させて。大切な彼女の言葉を聞こうと。
「 」
またしても、言葉は聞こえなかった。どうしてなのだろう?俺はもう死ぬからか。
「 」
だが、やっと彼女の最後の言葉は聞こえた。いつもと変わりなく、俺の死にも驚かずに。
「 サヨウナラ」と血が流れるように。
〜スタートライン〜
いつもの朝。私は携帯のアラームでいつもの始まりを迎えた。今、何時だろ?時間を確認する。
デジタル文字が示していたのは八時十分。ここから学校までは25分かかって、学校が八時半だから・・・。
「また遅刻じゃん・・・」
私は慌てて支度した。長い髪を後ろで結び、制服に着替えて、あと歯を磨いてから・・・と今の日本の典型的な女子高生の生活パターンだ。朝が弱いのは私だけかな?
私の名前は東名雛姫都内に住んでいる女子高生。今年で高校2年。高校は都内では有名な進学校みたいだけど、あんまりそんな事は気にしない。たまたま受かった学校がここでという感じかな?いつもの朝の習慣を済まし、私は家を出て、学校に向かった。
「遅刻だぞ。次遅れたら廊下に立たすからな」と今は2008年というのに、一世代古いお決まり文句を言う担任の古戸村。ギリギリで教室に入ったけれども間に合った!と思ったのに。
「遅刻じゃん。徹夜でもしたの?」と私が教室で一番後ろの窓側の席に座ると、隣に座る我が友達で親友でもあり、メガネっ娘の春野美幸が声をかけてきた。
「昨日ミユに貸してもらったマンガ。全部読んでたら夜遅くなちゃってさ」
「ええ!!もう全部読んだの?一巻だけ読んでって言ったじゃん〜」
「いやいやどうしても始まりから終わりまで読みたくなるじゃん?」
「そうだけど、じっくり読んでいくと面白みが深まるんだよ。あのマンガは。ヒナはいつもそうなんだから。もっと計画的に人生生きていかなきゃ。つっぱしると後で火傷するよ!!」と顔を膨らましながら言う。彼女なりの心配なのだろう。
「わかった。わかった。肝に銘じときます〜」といつものくだらないけど楽しい会話は続く。
なんだ変わらない生活。だが嫌いではなかった。一日一日が充実していた。むしろ楽しい。友達との会話。退屈な授業。私にとって、世界で戦争、紛争が起きてようが、誰かが殺されようが、知らない。知ったことではない。人ってのは、自分の周りでの出来事や体験しか感じる事が出来ない。そういう生き物であると、どこかの小説に書いてあった。私もそれは同感である。 私はこの退屈な授業を乗り切るため、晴天で少し涼しい春の都会の風景を窓から眺めてそう考えていた。
そしてあっという間に学生の一定任務である授業を全て終了して、帰りのホームルームとなった。
古戸村が新学期の係決めをしたいということで、学級委員やら係決めをするらしい。クラス皆のブーイング。そりゃあそうだ。皆早く帰りたい。私もこれからバイトだから早めに切り上げてほしいな・・・。
「学級委員の東名でいいと思いま〜す」と突然バスケ部の川崎がふざけて言う。クラスでのお調子者だが、顔がかなりカッコイイ部類なので、クラスの女子に密かに人気があるようだ。私?私は微妙だけど。
「私もヒナで賛成〜〜」とミユやその他の女子全員が私にとって痛手な応援コール。
「じゃあ東名。やってくれるか?」古戸村は期待する目。
「はぁ・・・。わかりました」と渋々請け負った。
私のクラスでのポジションはなんでも仕事をやりこなす男勝りで活発な女子。顔は女だけど、心はまるで男。その名は東名。と言われてしまっている。
そんなポジションになってしまったのは、一年の頃、ある男子生徒が上級生三人に絡まれている所に私が遭遇し、放っておけない私は上級生をぶっ飛ばしてしまったという嫌な所を見られ、学校で話題になってしまったという汚点のせいだ。私は昔から空手やらの格闘技を教えられている。父の職業柄のせいかもしれない。
はぁ・・・。私は大人しいタイプで思われたかったのに。
あとあの川崎の野郎。あとでぶっ飛ばす。ギタギタにすると私は川崎を睨みつける。川崎はゲラゲラと笑い返す。学級委員なんて面倒な仕事ナンバーワンじゃない。
「じゃあ男子の学級委員は・・・?」と古戸村。男子は皆そっぽ向く。しかしあるやつだけは違った。
「う〜ん。なら五代。どうだ?やってくれんか?」と私の前の席に座って黙々と本を読む男子生徒に提案した。
「分かりました」と静かに言う。私はその時、非常にいやな顔をしたはず。
彼の名前は五代勇髪は黒。今時の高校生としては、髪もいじってはいない。顔は正直悪くない。どちらかというと中の上あたりのランクだろう。背が183センチと大きいにもかかわらず、弱い。情けない。ヘタレ。先ほど説明したある男子生徒がこいつだ。まぁ友達も少しはいるらしいし、かなり暗いわけではないが、明るくもない。いつも本を読んでいる。友達から話しかけない限り、自分では話をすることはない。ここ一年で分かったことだ。一つ変わっているのが、いつも黒いネクタイをしている。私たちの学校の制服は女子、男子は青を基調としたブレザーに赤のネクタイと決まっているのだが、どうも五代は黒いネクタイをつけている。入学したころから長い間、先生に注意されていたが、相変わらず直さないためついに先生も注意するのを諦めてしまった。成績もかなり良いし、甘くしたらしい。そのような態度が上級生の反感を買ったんだろう。
「じゃあ二人で残って、他の各委員を決めてくれ。私も部活の顧問で行かなくてはならんし、皆も早く帰りたいようだからな。皆は二人が勝手に決めても構わないな?」
「は〜〜〜〜〜い」と皆の声。
無論、私は涙目。五代は知らん顔。
夕方五時。外ももちろん夕暮れ。バイトは時間を変えてもらい、今日の夜八時からに変えてもらった。ミユもバイトで先に帰ってしまう。
くそぉ・・・。何でこんなやつと夕暮れの教室二人っきりで黙々と作業しないといけないのよ?
私はもっと素敵な男子と青春を謳歌したいのに〜〜。
しかも、この五代は「適当に決めて」と言ったら、本当に適当に決めて本を読んでいる。変にやったらクラスの男子全員の反感を買うかもしれないのに・・・。
「あんたさ?それでいいの?」
「適当でいいなら僕は大丈夫だよ。東名さんは?」
「わ、わたしは・・・」
そう。私はかれこれもう決めるのに二時間以上かけてしまっている。どうもこういうのは苦手なのだ。
「あともう少しよ!!」と私はあからさまに敵意を向ける。
私は正直こいつが嫌いだ。第一、男らしくない!!暗い!!そしてこの状況はかなり気まずい。クラスは入学した時のまま変わらないので、クラスの皆とはそこそこ話すが、こいつとは全く話していない。あの時、絡まれていたのを助けてもお礼の一言で終わり。もっと言葉があるだろうがぁ!!と怒鳴りたかったのを覚えている。
「あんたは帰ってもいいわよ。後は私がやるから」
「わかった。ありがとう」と平返事し、本を鞄にしまい、教室から去ってしまった。
その行動で怒りの沸点を超え
「本当に嫌な奴!!!」と一人空しく叫んでしまった・・・。
携帯で時間を確認。夜の11時。学校での作業は難航を極め、明日皆に意見を聞いてから決めようとひとまず終わらして、ファミレスでのバイトが十時半に終わり、夜の帰り道。東京での一人歩きは危険だが、私は痴漢撃退には心得があるし、襲われても返り討ちにする自信はある。大丈夫だろうと、近道である人気がない路地に入った。
それにしても今日は満月。春に相応しい心地よい風が少し吹く夜。と夜空を見て心から思っていた。
あの瞬間までは。
住宅街。狭い路地。私はその路地をでて、広い交差点がある場所に着く。まだ車が通っても、おかしいわけでもないのに、車は一つも走っていない。しかし、交差点の真ん中に横たわっている人がいた。私はその光景を見て、誰かが轢かれてしまったと思い、まず救急車を!!と携帯を取り出しながら近づいたその時だ。
仄かに生暖かい風が流れてきた。嗅いだ事のある匂い。その匂いは思い出してはいけないものだった。何故ならそれは血だったから。
しかし近づいて見ると、その横たわっている人は血だらけではなく、ミイラのように半白骨化している。その血の匂いはその隣にいる男だった。さっきまでいなかったのに・・・。どうして・・・???その男は魔法のように突然現れた。
全身血だらけで、まるで血の入ったバケツを頭から被ったみたいだ。体はかなりの巨漢。
私はその男を見た瞬間、脳裏に絶対的な恐怖を抱く。そう。死の恐怖を。
「キャァアアアアアアアアアああああああああああああ?!!!」
その悲鳴を聞いて男はニヤニヤと気持ち悪い笑顔のまま、言葉を話す。
「見られた〜。人間がどうやって侵入したんだぁ〜??アイツの構築式はデタラメじゃねかよ〜。ったく〜。もうおなかいっぱいなのに〜。殺すしかないか〜」と見開いた目をこちらに向ける。
私は動揺していた。その男の意味がわからない言葉を聞く余裕もなく、必死に逃げようとする。が、理解できないことが起こる。
交差点のその場所から出られないのだ。まるで見えない壁があるように。目の前にはしっかりとした光景は広がっている。広がっているのに・・・。
何故?どうして??
「むり〜だよ〜。人〜間〜ちゃん〜」と言われた瞬間、後ろから首をつかまれ、持ち上げられる。
殺される。
「・・・・・・・いやぁ・・・そん・・・な・・・」
私は何も出来ずに終わる。
終わってしまう。
終わるの?
ズトンと後ろで大きな音が突然聞こえた気がした。私の首を絞めていた力がなくなる。
「ウギャアウギャエdンlzsンlサ・gsz・kl!!!!!!!!!!!!!!!!!」巨漢の男の悲痛な叫び。
私は意識朦朧としたその目で何が起きたか確認する。
そこには私の知っている人がいた。
「・・・・・五・・・・代・・・・く・・ん??」
彼がそこにいた。