第6話
駆けこんできた偵察に行っていた冒険者の一言に騒然となるギルド内でただ1人状況の読めていない人間がいた。
「エラゴルンて何ですか?」
≪エラゴルン≫それは、マナの濃い場所に出来るマナ溜まりによって大型の動物が変質してしまった魔物だ。
元となった動物によって討伐難度が上がるが、最低でもBと言われている。
魔物にも冒険者と同じようにランク分けがあり、討伐難度BランクとはBランク冒険者が1パーティーを組んで倒せるだろうという強さだ。
冒険者の1パーティーとは6人編成が主で単純計算してエラゴルン一匹には冒険者Bランク6人分の戦力が少なくとも有るということだ。
「なるほど、災害と言えるような魔物が現れたという事ですね」
「そうなるな
マリアさん、今回のエラゴルンはどのタイプですか?」
そう言って報告をまとめていたマリアさんに話しかけた
「ヴォルガのようですね、ランクはBの上位と言った所でしょうか」
ヴォルガとは大型の肉食動物で体調が3mはあるうえに能力も高く森の捕食者としては頂点と言えるだろう、それが魔物化して更に巨大化しているとなれば5mは超えてしまうのではないだろうか大きさは、それだけでも脅威となる上に狂暴化もしている。
「今この町には、Bランクの冒険者は何人いるんだっけ?」
「それが、商隊の護衛で出払っていて一人もいないんですよ」
最悪だ、メーベは辺境と言うこともあって物資の枯渇は致命的になるということもあり商隊の護衛は高ランクの冒険者に依頼している。
「それで、猶予はどれくらい有りそうです?」
「報告をまとめる限りでは、1週間と言った所でしょうか」
「短いな、その間に戻ってこれそうな冒険者は何人です?」
「6名ですね…」
「厳しいですね」
「はい」
魔物は、早く討伐してしまわないと周囲のマナを取り込み更なる変貌を遂げ縄張りを広げていく、ランクが上り手が付けられなくなりそうして討伐が間に合わずに町を放棄してしまうなんて事があったそうだ。
1週間とは縄張りが、メーベへ到達するまでの時間だ、一週間で出来ることはかなり少ない先ずは、ケンタと相談だな。
「ケンタ、一旦家に戻るか」
「わかりました」
食事を済ませて、本題に入る。
「なぁ、ケンタこの町を出るか?」
「え?戦わないんですか?」
「そうきたか、ヴォルガのエラゴルンははっきり言って災害レベルだ。
下手に首を突っ込むと死ぬかもしれないぞ。」
「マークさんはどうするんですか?」
「俺は、この町に5年も住んでるからな危険だからって出て行くわけにもいかんだろ。
だがお前は違う、事故かなんかでこの世界に来ただけだ、お金を稼ぐためにギルドには登録したが、この町に命を懸けろとは言えねえしお前のくらいの実力があれば当面の生活はどうとでもなる。」
「なるほど、俺は残るけどお前は出てけってことですか、でも僕はそこまで薄情な人間ではないつもりですよ、少なくともマークさんには恩義を感じてますし死んで欲しくはないと思ってます。
第一最初に会ったのが貴方じゃなかったらたぶん僕はこんなに自由に生活できてはいないでしょ。」
「いいのか、本当に死ぬかもしれないぞ」
「大丈夫ですよ、僕はまだ死にません。
まだ見てみたいところもありますし、それにマークさんも殺させませんよ守って見せます。」
そう言ってウインクしてくるケンタに
「そういうのは、好きな女でも出来たときに言ってやれ」
「それもそうですね、マークさんは勝手に生き残ってください」
2人で笑いあってその日は寝た。
翌日、目を覚ますと珍しくケンタが寝坊していた。
「珍しいな、お前が寝坊するなんて」
「ええ、昨日はいろいろ有ったので直ぐに眠れませんでした。」
「今日は、飯を終えたら朝からギルドへ行くぞ」
「わかりました。」
朝食を簡単に済ませてギルドへ向かう。
「おはようございます。マリアさん」
「あら、マークさん今日は早いですね」
「今日は、マリアさんにお願いがありまして」
「どういった事でしょうか?」
「ケンタに魔法を教えてやってほしんです。」
「僕にですか?」
「えーっと、どういうことですか?」
「ここじゃちょっと、他の目もありますんで」
「わかりました」
そう言って別の仕事をしていたギルド員と受付を代って奥の部屋へ案内するマリアさん
「すいません、わざわざ」
「それで、どういうことですか?」
「えっとですね、ケンタのスキルは知ってますよね?」
「ええ」
「確かマリアさんは以前、複属性持ちの冒険者であったと思うのですが」
「どこでそれを?」
「駆け出しのころに一度見かけたことがありまして」
まだ駆け出しだったころの町の近くでアシュナーのエラゴルンが発生し、更にその配下が町へ襲い掛かってきたことがあった。
駆け出しと言っても冒険者町を守るために防衛戦に参加した。
その時少し離れた場所で戦っていたマリアさんを見た。
俺より年下なのにその卓越した魔法技術に見とれてしまった。
エラゴルンはアーハルトさん率いるパーティーが倒した、
「そうでしたか、私の冒険者時代を知っている人はあまりいないのですが」
「それでですね、昨日ケンタは6属性の魔法の基礎は取得したんですけどねそれ以上のことを教えてあげてほしんですよ」
「それはまたどうして?」
「昨日ケンタとも話したんですが、この町に残るって言うもんですから少なくとも自分を守れる力を与えてあげてほしんですよ」
しばし沈黙してこちらを見つめるマリアさん
「ケンタさん、マークさんはこう言ってますがどうしますか?」
「そうですね、教えてもらえるならそれに越したことはないのですが、僕にはそれに見合った対価が払えそうにありません」
「ふふっそんな事、今回のエラゴルン襲来に助力いただければそれでいいですよ。」
「いいんですか?」
「はい、でも私は厳しいですよ。」
「わかりました、よろしくお願いします。マリア先生」
「それじゃ、マリアさん後よろしく。俺は、襲来に備えて薬草の採取に行ってきますんで」
そう言って部屋を後にする。
これで少なくともケンタはBランク並の魔法が使えるようになるだろう。
自分で言うのもなんだが俺は弱い8年掛かってもCランクにも慣れない男だ、少しでも生き残る確率を上げなければ。
ギルドで採取系の依頼を受けて町の外へ出る、いつも通り気配を消して森を進み群生地へ行くが大きな足跡がありナオール草が食べられていたどうやらエラゴルンに荒らされたようだ。
他の群生地も廻ってみたが全滅だった。
仕方ないので森を後にする為に出口へ向かう、途中開けた場所にエラゴルンが居た。
運よく寝ているようで気付かれはしなかったが、その巨体と寝ていても醸し出されるその威圧感に恐怖で肌が泡立つ。
音をさせないように気配を消してその場を去る、出来るだけ早く静かに何とか気付かれずに森をにけることが出来た。
仕方なく少し遠出して森以外で見つけていた群生地へ向かい依頼分とは別に採取も済ませる。
いつもより時間は掛かったがギルドへ納品を済ませて残りは薬屋「アメン堂」に持ち込む。
ポーションなどの即効性のある薬は、効果も高い分値段が高いのでたまに材料持ち込みで安く作ってもらっているのだ。
「いらっしゃい、てかマークかにゃ」
「どうも、ニーニャいつもの貰えるかな、後コレを」
因みに、店主のニーニャは猫の獣人である。
「どうもにゃ、ところでマーク、ポーションの補充ってことはエラゴルン対策かにゃ?」
「ああ、知ってたのか。あと魔力ポーションも貰えるか?」
「あれ?マークは魔法を使わにゃいのじゃにゃかったっかにゃ?」
「最近組んだ仲間がな」
「そうかにゃ、でも魔力ポーションは高いにゃよ」
「取りあえず、5本貰えるかな」
そう言って、ポーション代から薬草分引いてもらった差額を払う。
「確かににゃ、でも薬があるからって無理はしにゃいことにゃ、死人を治す薬は存在しにゃいにゃ」
「そういえば、ニーニャは逃げないのか?」
「ここは住み心地のいい町だにゃ、獣人への差別もないし何処かへ移るつもりはないにゃ
それにいざとにゃったら戦うにゃ」
獣人は少し前までは、家畜として扱われていた時代があった。
この国ではないが、今でも奴隷として扱っている国もありそういった場所以外でも獣人への偏見は根深いものとして残っていたりする。
ここドロワナ王国では、国を切り開くときに獣人の協力があったとかで比較的対等な関係を築いている。
特にダグラス領の領主がかなりの獣人好きと言うこともあってほかの土地以上に住みやすいよう生活の保障がされている。
「そうだな、いい町だもんな、魔物なんかに壊されるわけにはいかないな」
「そうだにゃ」
アメン堂を後にしてケンタの様子を見るためにギルドへ向かう。
受付に行きマリアさんを訪ねるとギルドの裏の訓練場に案内された。
訓練場は、鍛錬や冒険者ランクアップの試験などでも使われる。
試験があるのはDランクからで、内容は上位のランクの冒険者との試合で判断されるというものだ。
案内されていると訓練場の方から大きな爆発音がした。
慌てて訓練場に入るとケンタとマリアさん以外の人は居なくて奥の方の壁が焦げて煙が上がっていた。
「どうも、どんな感じですか?」
「マークさん、ちょっといいですか!」
声をかけるなり、走って此方まで来たマリアさんに詰め寄られる。
「えっと、どうかしました?」
「ケンタさんはかなり規格外の能力をお持ちみたいなんですが、この半日で私の持っていた技術をすべて吸収されてしまいました。私の今までの苦労って何だったんですかね?」
少し涙目になりながらそんなことを呟くマリアさんに
「わかりますよ、俺も一日で剣術が追いつかれましたしね」
「あなたの剣術は、もともとそれほどでもなかったでしょ」
「あれ、そんなこと言っちゃいますか」
確かに、俺の剣術はそれほどでもないが人に言われると傷つく
「マークさん、マリアさんとの話は終わりました?」
そんなことを言いながら、ケンタが近寄ってきた自分の話をされているのは分かっているはずなのにこういう時ケンタは話が終わるまでこちらの話に加わったり聞き耳を立てる様子はない。
「ああ、どうやら加減せずにいろいろやったみたいだな、追い抜かれたってマリアさんが泣いてるぞ」
「わ、私は別に!」
慌てて顔を拭って振り返るマリアさん
「すいません、魔法が楽しくなってしまってついつい調子に乗ってしまいました。」
「そうか、それでいろいろ覚えた感想は?」
「そうですね、魔法ってもっとキッチリしているイメージだったんですけど、かなり曖昧なものだったんですね」
「どういうことだ?」
「えっとですね、僕は、詠唱なんかは決まっていて一言一句間違えないようにしないと発動しなかったりそもそも決まった魔法があって其れを覚えて行くようなものだと思っていたんですよ。
でも実際は、同じファイアアローを唱えてもマリアさんと僕では違う形状のものが違う速さで飛んでいくということが分かって詠唱の内容はあくまで頭の中にイメージするための補助でしかなくてイメージさえできればオリジナルの魔法も作れるんだなと。」
「なるほどな、それであの壁にその魔法をぶつけてみたってところか?」
訓練所の壁には傷がつかないようにコーティングされていてちょっとやそっとの魔法ではあんなことにはならない。
「ええ、そうなんです。ボムって魔法の圧縮力と爆発力なんかを色々やってたらあんな感じになってしまって」
ボムとは火属性の広範囲を爆風で複数を相手取ったりする魔法だ、中心から遠くなるほど威力は落ちるがとにかく広範囲なのでこんな狭い訓練場でするような魔法ではない。
「えっと、マリアさんちょっと危険すぎやしませんか?」
「え?ええそうなんですが、私もついむきになってしまっていろいろ教えた結果こんな有様です。」
「いやいや、ついじゃないでしょ、ついじゃ」
「「すいません」」
2人して謝られました。
「あ、そうだこれをお前に渡しておこう」
「何ですか?この液体」
そう言って、ポーションの入った瓶を見つめるケンタ
「そういえば、魔力を使った倦怠感は無いのか?」
「マリアさんが言うには、僕のかなりマギの量は多いみたいで今のところそんな感じはしませんね」
「そうか、ちょっと奮発しすぎたか?
それは、魔力ポーションと言ってマギの補充が出来るんだ。」
「そんな便利なものがあるんですか」
取りあえず魔力ポーション3つとポーションを2つケンタに渡した。
「ありがとうございます」
礼をいってポーチにしまうケンタと一緒にマリアさんにお礼を言ってギルドを後にて家に帰っている道中に
「ねえ、マークさん。
エラゴルンって時間を置けば置くほど強くなるんですよね」
「ああ、そうだ」
「1週間待つとどれくらい強くなりそうなんですか?」
「1週間では、それほど個体の能力は変わらんが配下の魔物の数が増えると言われているな」
「それで、縄張りが広がって町にも被害が出るってことですか?」
「そうなるな」
「僕たちで倒しに行くことは出来ませんかね?」
「ケンタ、無茶言うな、確かに今なら配下の魔物も少ないし森で戦えば町にも被害は出ない。
でもな、DとEの冒険者二人で何が出来る?」
「でも、僕は今日マリアさんに魔法を教えてもらってそれを使えばどうにかなるって思うんですよ」
「ケンタ、今のお前は初めて町の外に出た時と同じだ。
力を得て思い通りに振舞えると思い込んでるだけだ。」
「違います」
「いや、違わない」
何度説得しても納得できないと言ったケンタだったが
「もういいです」
と、一言言ってそれ以上は話さなかった。
その日の晩飯の味は覚えていない。
此方も、強い口調で言ってしまいギスギスした雰囲気が漂う食卓を無言で囲み、食事が終わるとさっさと眠りについたのだ。
朝目を覚ますと台所にケンタの姿は無かった、部屋にも居ない様だ。
嫌な予感がして探し回っていると食卓の上に一枚のメモがあった。
「マークさん、やっぱり納得できないので一人で行ってきます。」
俺は、慌てて部屋に戻り装備を確認し家を出る。
バカヤロー手間かけさけやがって!!




