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歌を歌ったバタークッキー

作者: 諏訪 惠
掲載日:2026/03/01

森の中で開かれた紳士のお茶会。シンプルなバタークッキーは、誰にもたべてもらえません。女王さまにたべてもらいたいバタークッキーは、紅茶の葉っぱと一緒にテーブルを飛び降りて走り出したのです。

小さなバタークッキーの小さな冒険のお話。

1.

 深い森の中で、小さなお茶会が開かれていました。白いテーブルに白いイス、さとうとミルクをたっぷりいれた甘い紅茶に、バスケットの中には色とりどりのクッキー。テーブルを囲む紳士たちは、それぞれお気に入りのクッキーをえらびます。一人はジャムのクッキーを、もう一人ははちみつのクッキーを、最後の一人はチョコチップのクッキーをえらびました。

 残されたのは一番小さな、ただのバタークッキーです。さてこのバタークッキーをどうしようかと、三人の紳士は話し合いました。

「小さくくだいてコマドリにやるのはどうだろう。彼らは甘いものが大好きだから」

一人の紳士がそう言ったので、バタークッキーは悲しくなりました。

 バタークッキーはお茶会のためにやかれた、とびっきりのクッキーなのです。それなのに、コマドリにあげようだなんて、あんまりではありませんか。

 バタークッキーが泣いていると、となりにいた紅茶の葉っぱが話しかけてきました。

「バタークッキーさん、どうして泣いているの?」

「わたしはとってもおいしいのに、誰も食べてくれないんですもの」

「君はだれに食べてもらいたいんだい?」

「出来ることなら、女王さまに。それが無理なら、王子さまに」

それを聞いて、紅茶の葉っぱは言いました。

「バタークッキーさん、君とぼくはおにあいだ。一緒に女王のお城に行こう」

「ええ、よろこんで、紅茶さん」

そうして三人の紳士が話し合っているうちに、二人は白いテーブルから飛び降りたのです。


2.

 森の中を少し行くと、たくさんの花が咲いている野ばらの園がありました。まっ赤な野ばらが話しかけてきます。

「お二人さん、どこへいくの?」

「女王のお城へ、食べてもらいに」

野ばらはおどろいて言いました。

「まぁ、それならばわたしも一緒に。お城には、トゲのないばらしかありませんもの」

「ええ、よろこんで、野ばらさん」

そうしてバタークッキーと紅茶の葉っぱと野ばらは、そろって歩き出しました。

 ところがその時、後ろから声が聞こえたのです。

「おおい、待ってくれ」

ふり向くと、三人の紳士がおいかけてきているではありませんか。

「たいへん!急がなくちゃ、コマドリのおやつにされちゃうわ」

バタークッキーがそう言ったので、三人はあわてて走り出しました。

 一人の紳士が言いました。

「はて、あのクッキーは、あんなにおいしそうだったかな?」

バタークッキーの足あとは、こんがりやけたバターとさとうでできています。

 もう一人の紳士が言いました。

「はて、あの紅茶は、こんなによい香りだったかな?」

紅茶の葉っぱが走ったあとには、紅茶色の風が吹きます。

 最後の一人が言いました。

「はて、あの野ばらは、あんなにきれいだったかな?」

森の出口が近づいてくると、陽の光にてらされて、野ばらはますます赤く色づきます。

 そうしてとうとう、三人は森の外へとび出したのです。


3.

 森の外では、女王さまが馬にのって散歩をしていました。その足元にバタークッキーと紅茶の葉っぱとまっ赤な野ばらがとび出してきたのですから、女王さまはおどろいて言いました。

「このクッキーはだれのもの?」

するとそこにおいついた三人の紳士が、ひざまずいて言いました。

「女王さま、それはだのものでもありません。ただのつまらないものです」

女王さまは馬をおりて、バタークッキーを手にのせました。それから紅茶の葉っぱも、さいごに野ばらも。なんてまぁ、可愛らしい三人なんでしょう!

 バタークッキーは、パン屋のむすめにおしえてもらった歌を歌いました。


 午後の紅茶に甘いクッキー ジャムにはちみつチョコチップ

 どれもみんなおいしいけれど わたしをえらんで女王さま

 わたしの甘さはあなたの甘さ 心やさしくとろけるバター

 わたしの甘さはあなたの甘さ 清いしゅく女のまあるいお菓子

 シルクハットの紳士より わたしはあなたにふさわしい

 わたしをえらんで女王さま!


 それを聞いた女王さまは、にっこりと笑いました。どうやらこのクッキーには魔法がかかっているらしいのです、それもとびっきりステキな魔法が!

 バタークッキーのように、甘くない紅茶のように、森に咲く野ばらのように、そのままでも美しいものが、世界にはたくさんあるのです。

 女王さまはお城に帰ると、バタークッキーと甘くない紅茶と森の野ばらをたくさん用意して、三人の紳士と一緒にお茶会を開いたのでした。


わたしはあなたにふさわしい。

そう高らかに歌い上げて。

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