歌を歌ったバタークッキー
森の中で開かれた紳士のお茶会。シンプルなバタークッキーは、誰にもたべてもらえません。女王さまにたべてもらいたいバタークッキーは、紅茶の葉っぱと一緒にテーブルを飛び降りて走り出したのです。
小さなバタークッキーの小さな冒険のお話。
1.
深い森の中で、小さなお茶会が開かれていました。白いテーブルに白いイス、さとうとミルクをたっぷりいれた甘い紅茶に、バスケットの中には色とりどりのクッキー。テーブルを囲む紳士たちは、それぞれお気に入りのクッキーをえらびます。一人はジャムのクッキーを、もう一人ははちみつのクッキーを、最後の一人はチョコチップのクッキーをえらびました。
残されたのは一番小さな、ただのバタークッキーです。さてこのバタークッキーをどうしようかと、三人の紳士は話し合いました。
「小さくくだいてコマドリにやるのはどうだろう。彼らは甘いものが大好きだから」
一人の紳士がそう言ったので、バタークッキーは悲しくなりました。
バタークッキーはお茶会のためにやかれた、とびっきりのクッキーなのです。それなのに、コマドリにあげようだなんて、あんまりではありませんか。
バタークッキーが泣いていると、となりにいた紅茶の葉っぱが話しかけてきました。
「バタークッキーさん、どうして泣いているの?」
「わたしはとってもおいしいのに、誰も食べてくれないんですもの」
「君はだれに食べてもらいたいんだい?」
「出来ることなら、女王さまに。それが無理なら、王子さまに」
それを聞いて、紅茶の葉っぱは言いました。
「バタークッキーさん、君とぼくはおにあいだ。一緒に女王のお城に行こう」
「ええ、よろこんで、紅茶さん」
そうして三人の紳士が話し合っているうちに、二人は白いテーブルから飛び降りたのです。
2.
森の中を少し行くと、たくさんの花が咲いている野ばらの園がありました。まっ赤な野ばらが話しかけてきます。
「お二人さん、どこへいくの?」
「女王のお城へ、食べてもらいに」
野ばらはおどろいて言いました。
「まぁ、それならばわたしも一緒に。お城には、トゲのないばらしかありませんもの」
「ええ、よろこんで、野ばらさん」
そうしてバタークッキーと紅茶の葉っぱと野ばらは、そろって歩き出しました。
ところがその時、後ろから声が聞こえたのです。
「おおい、待ってくれ」
ふり向くと、三人の紳士がおいかけてきているではありませんか。
「たいへん!急がなくちゃ、コマドリのおやつにされちゃうわ」
バタークッキーがそう言ったので、三人はあわてて走り出しました。
一人の紳士が言いました。
「はて、あのクッキーは、あんなにおいしそうだったかな?」
バタークッキーの足あとは、こんがりやけたバターとさとうでできています。
もう一人の紳士が言いました。
「はて、あの紅茶は、こんなによい香りだったかな?」
紅茶の葉っぱが走ったあとには、紅茶色の風が吹きます。
最後の一人が言いました。
「はて、あの野ばらは、あんなにきれいだったかな?」
森の出口が近づいてくると、陽の光にてらされて、野ばらはますます赤く色づきます。
そうしてとうとう、三人は森の外へとび出したのです。
3.
森の外では、女王さまが馬にのって散歩をしていました。その足元にバタークッキーと紅茶の葉っぱとまっ赤な野ばらがとび出してきたのですから、女王さまはおどろいて言いました。
「このクッキーはだれのもの?」
するとそこにおいついた三人の紳士が、ひざまずいて言いました。
「女王さま、それはだのものでもありません。ただのつまらないものです」
女王さまは馬をおりて、バタークッキーを手にのせました。それから紅茶の葉っぱも、さいごに野ばらも。なんてまぁ、可愛らしい三人なんでしょう!
バタークッキーは、パン屋のむすめにおしえてもらった歌を歌いました。
午後の紅茶に甘いクッキー ジャムにはちみつチョコチップ
どれもみんなおいしいけれど わたしをえらんで女王さま
わたしの甘さはあなたの甘さ 心やさしくとろけるバター
わたしの甘さはあなたの甘さ 清いしゅく女のまあるいお菓子
シルクハットの紳士より わたしはあなたにふさわしい
わたしをえらんで女王さま!
それを聞いた女王さまは、にっこりと笑いました。どうやらこのクッキーには魔法がかかっているらしいのです、それもとびっきりステキな魔法が!
バタークッキーのように、甘くない紅茶のように、森に咲く野ばらのように、そのままでも美しいものが、世界にはたくさんあるのです。
女王さまはお城に帰ると、バタークッキーと甘くない紅茶と森の野ばらをたくさん用意して、三人の紳士と一緒にお茶会を開いたのでした。
わたしはあなたにふさわしい。
そう高らかに歌い上げて。




