真名の放課後
「ではこの問題の解を言ってみろ」
真名は与えられた質問にスラスラと答えた。難問であるが故に、教室はざわめいた。教師は満足そうに頷くと、笑顔を浮かべ授業を進行した。真名の虚栄心は満たされ、ドラマの主人公のように自分が思えた。でもあまりに得意気な顔をすると、後のやっかみが怖い気もする。ここは偶然できたとでも、友達に聞かれたら言っておこう。何事も出すぎた真似は状況を悪くする。真名が学校で得た処世術は、社会の縮図だったのかも知れない。
「今日はすごかったね真名。あんな問題も解いちゃうんだもん。尊敬しちゃう。私なんか何を聞かれているのかさえ、全く理解できなかったわ」
「昨日予習したところが偶然出たのよ。あらかじめしておいたカンニングみたいなものね。ほんと運が良かったわ」
友人と別れ家路を急ぐ真名は、夕陽をチラリとみやりながら、世界の素晴らしさを心に抱いた。何も言うことは無いように思えた。大人に対する反抗心のようなものは、上手くやり過ごしている気がしていた。社会への不満も爆発するほどに大きなものではない。自分が認められているのは、都合のいい優等生だからだとは思いたくなかった。悲しみが心に影を落とす兆しが重くなり、真名は少しだけ歩く速度を早めた。明日も明後日も続くこの生活は、真名にとって退屈ではあるが失うことも恐い貴重なものだった。




