通勤の闘い、癒し
朝食を済ませた彼は、マンションを出て会社までの旅約一時間の日常へと向かった。駅に着くとホームで新聞を広げ、今日のニュースをざっと頭に入れる。大人の嗜み、コミュニケーションツールである新聞は、彼にとって欠かせないものになっている。一面と社説を読んでいるうちに電車がホームに入ってきた。新聞を折りたたむと、彼は入口に吸い込まれるように足を進めた。
朝の通勤ラッシュで、いつもの通り車内は人でいっぱいになっていた。彼は歯を食いしばり、耐えるように手釣に掴まって時間をやり過ごす。周りの勤め人も終始無言で、しかめっ面をして電車に揺られていた。
彼はリラックスしようと、背広の内ポケットから一枚の写真を取り出した。清子と真名と自分、三人が写っている旅行のときに撮ったものだ。彼の心は写真の思い出のなかに浸り、車内の威圧感を徐々に忘れていった。
社内アナウンスが流れ、次の駅で降りることが知らされた彼は、写真をポケットにしまい直し、襟を正して戦闘態勢に入った。自分が毎朝闘いにも似た会社勤めを出来ているのも、清子と真名がいるからこそだ。時々、全てを投げ出してしまいたい衝動に駆られることもあるが、責任と愛情がブレーキになって彼を思い留まらせてくれる。
電車が止まった。彼は一気に外に飛び出し、改札へと向かった。朝とは思えない喧騒が、太陽を欺いているようで可笑しくなった。空気は綺麗とは言えないが、彼の肺は心地よくそれを吸収し、今日も一日やるぞと言う気持ちを吐き出してくれた。




